インドから西への潮流とアフリカ市場の可能性

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インドから西への潮流とアフリカ市場の可能性

公開日 2025.08.05

2025年8月に横浜で開催予定のTICAD9(第9回日本アフリカ開発会議)の影響もあり、日本企業の間でもアフリカ市場への関心が高まりを見せています。一方で、「日本からは距離が遠い」、「文化・商習慣が大きく異なる」といった理由から、日本企業のアフリカ進出には依然として高いハードルがあるのも事実です。

そうした中、日本とアフリカの間に位置するインドや中東を拠点としてアフリカ戦略を構築する動きが注目を集めています。

アフリカ市場の魅力

アフリカの人口は2025年時点で14億人に達し、アジアの人口が減少に転じるとされている2050年以降も、アフリカの人口は継続的に増加すると予想されています。

経済面でも、南部アフリカの南アフリカ、北部のエジプト、東部のケニア、西部のナイジェリアといった国々を中心に、経済成長と投資機会が拡大しています。中でもナイジェリアは、2075年にはGDP規模で世界第5位1に入る可能性も指摘されており、その成長ポテンシャルには注目が集まります。

加えて、急速な都市化やスマートフォンの普及、AfCFTA(African Continental Free Trade Area、アフリカ大陸自由貿易圏)の進展など、域内の消費市場や制度環境も整いつつあり、アフリカは中長期的に魅力ある成長市場として期待されています。

こうした中、日本企業がインドや中東を経由してアフリカとの接点を築く動きが、現実的かつ戦略的な選択肢として注目され始めています。

アフリカにおけるインドの存在感と立ち位置

日本から遠いアフリカですが、インドからはインド洋を隔てた対岸に位置し、古くから交易・人的交流が行われてきました。貿易風を利用したアフリカとインド・アラブ・ペルシャ湾岸地域との交易は紀元前からの歴史を持ち、19世紀の大英帝国統治期にはインド人のアフリカ移住が加速しました。

現在では、アフリカには300万人以上の印僑(インド系住民)が暮らしており、経済界でも存在感を示しています。例えば、ケニア最大の通信企業サファリコムの会長もインド系であり、印僑のビジネス的ネットワークが地域経済に深く根付いています。

日本企業がアフリカに進出する際、インド本国のインド人とアフリカの印僑とのコネクションを活用したり、あるいは、インドで育成された日本企業文化にも通じたインド人マネージャーをアフリカ事業のマネジメントに起用したりすることで、不確実性の高いアフリカ市場においても大きな力を発揮できると言われています。

インドで成功した日本企業がアフリカで活躍

実際、インドでの成功を足掛かりにアフリカ展開を進めている日本企業の例も増加しています。

例えば、スズキ自動車はインドにおいて圧倒的なシェアを誇り、その製造・販売ネットワークとインド人技術者・マネジメント層を活用し、アフリカ向けの小型車輸出や現地販売を本格化させています2

ダイキンは、インドにおける製造拠点拡充により、生産能力を拡大し、ケニアやナイジェリアなど東・西アフリカ諸国への製品供給を拡大しています。特に、インド製の製品は現地の価格帯や気候条件に合致しており、インドからの輸出がアフリカ市場への適応力を高める要素となっています3

ユニ・チャームは、インドで構築した製造・物流基盤を活かし、ケニア、ガーナ、コートジボワールといった国々で生理用品やベビー用品の販売を開始しました4

このように、インドでの事業成功と人材活用をベースに、アフリカでの事業展開にスムーズにつなげているケースは、日本企業にとって再現可能性のあるモデルとなりつつあります。

さらに、アフリカに進出するインド系企業と連携し、共同で投資・事業展開を行うケースも増加しており、インドを「実行拠点」として機能させるアプローチが広がりつつあります。

アフリカにおけるインド企業の存在感

インドはアフリカにとって重要な貿易・投資相手国であり、特に製薬、インフラ建設、IT・通信などの分野でプレゼンスを拡大しています。近年では、アフリカを「製品の輸出先」から「事業展開の現場」へと位置づけ、現地法人や合弁会社の設立、インフラ・エネルギー事業への参画を積極的に進めています。

とりわけ旧英領諸国を中心に多くの印僑が定着しており、こうした人的ネットワークが現地ビジネスの土台となり、インド企業の展開を支える要因となっています。

日本企業とインド企業の連携可能性

こうした潮流の中で、アフリカ進出を検討する日本企業にとって、インド企業は極めて有力な戦略的パートナーとなり得ます。かつては欧州や中東を経由してアフリカ市場にアプローチするケースが主流でしたが、近年ではインドを足掛かりとする動きが加速しており、インド企業との協業によるアフリカ展開の動きが活発化しています。

インド企業は、アフリカ各国の法制度や規制への対応力、現地とのネットワーク、ビジネス慣習への適応力を備えており、これらを活用することで、日系企業が直面するパートナー選定、許認可、文化的ギャップといった課題を効果的に緩和することが期待されます。

特にインドは、アフリカにおける第三国パートナーとして中国やUAEと並ぶ存在感を示しており、多様な分野での連携可能性を秘めています。

今後、アフリカ進出を目指す日本企業にとって、「インドからアフリカへ」という視点は、地理的・文化的・人的資源の面からも実効性の高い戦略的アプローチとなるはずです。

  1. 1 Goldman Sachs “Slower Global Growth, But Convergence Remains Intact” ↩︎
  2. 2 Autocar Professional, “Maruti Suzuki set to be No. 1 car and SUV exporter for fourth fiscal in a row” ↩︎
  3. 3 Reuters, “Daikin’s production capacity in India to serve East Africa” ↩︎
  4. 4 Nonwovens Industry, “Unicharm to expand in Africa”  ↩︎

One Asia Lawyers
日本法弁護士
アフリカデスク兼南アジア代表

志村 公義 氏

日系一部上場企業のアジア太平洋General Counsel、医療機器メーカーのグローバル本部(シンガポール)での企業内法務に従事。2019年4月からインドに駐在し、南アジアの法務案件の対応を行う。2021年9月に南アジア全8ヶ国の最新法務をまとめた日本初の書籍となる『南アジアの法律実務』(中央経済社)を出版。

One Asia Lawyers
パラリーガル
アフリカデスク・南アジアチーム

河合 清華 氏

金融機関での融資業務、アフリカでの国際協力・ODA事業を経て、現在は南アジアの現地弁護士と連携し、日系企業の法的支援に従事。

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日本と東南アジア・インドをつなぐワン・ストップでシームレスな法律のプラットフォーム

M&A / 統括会社設立・アジア子会社再編 / 紛争解決 / コンプライアンス対応・不正調査 インフラ輸出・投資 / エネルギー・資源関連 不動産 労働法 知的財産 etc

One Asia Lawyers Groupは、東南アジア・インドの法律に関するアドバイスを、アジア各国のネットワークを基礎として、シームレスに、ワン・ストップで提供するために設立された法律事務所です。

Tel:061-780-1515
E-mail:yuto.yabumoto@oneasia.legal

Website : https://oneasia.legal/

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