インド新労働法典の施行

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インド新労働法典の施行

公開日 2026.01.14

2025年11月21日、インド政府は労働雇用省の通達により、長らく準備を進めてきた以下4つの新労働法典(Labour Codes)を施行した。インドの連邦労働法は29の法律からなり複雑化していたが、今後はこれらの4法典に整理統合される。

  • 賃金法典(Code on Wages, 2019)
  • 労働基準法典(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)
  • 労使関係法典(Industrial Relations Code, 2020)
  • 社会保障法典(Code on Social Security, 2020)

労働法は施行したとされるが、労働法典の施行に必要となる中央政府の労働法施行規則、および各州の施行規則は一部の州を除き未制定である。労働雇用省は2026年4月にも労働法施行規則を施行したいとの意向を示しており、これに関する声明なども踏まえると、現実に対応が必要となるのは基本的にはその後であると考えられる。

もっとも、施行後に早急に対応することは困難も予想され、労働法典の施行に備え、各企業において、施行後に必要となる事項について確認、準備を進めていくことが推奨される。

賃金法典(Code on Wages, 2019)について

(1)賃金法典の概要

従来賃金に関する法律は、賃金支払い法(Payment of Wages Act)、最低賃金法(Minimum Wages Act)、賞与支払法(Payment of Bonus Act)、均等給与法(The Equal Remuneration Act,1976)があったが、これらの法律が賃金法典に統合される。

賃金法典は、賃金の支払時期や控除等について定めて不要な紛争を回避し、かつ不当な賃金の未払い、罰金の賦課、賃金からの天引きといったものを排除し、最低賃金につき保証し、労働者の利益を保護することを目的とする。

(2)主要な変更点

・最低賃金既定の全面適用(賃金法典5条)

従前の最低賃金法(Minimum Wages Act, 1948)では、同法で指定した(Scheduledされた)特定の産業の労働者のみ最低賃金法の適用があった。

賃金法典では、雇用主は、関係当局が通達により定めた最低賃金未満の賃金を労働者(employee)に支払ってはならないと規定している。

労働基準法典(Occupational Safety, Health and Working Conditions Code, 2020)について

(1)労働基準法典の概要

従来、労働時間や休暇など日本の労働基準法で定められるような規律は、インドでは工場法(The Factories Act 1948)や農園法(The Plantations Labour Act 1951)などで業種や就労場所に応じて別々の法律で規定していた。工場法、農園法、鉱山法(Mines Act, 1952)などの13の法律が労働基準法典に統合される。

(2)主要な変更点

・雇用契約書(Appointment Letter)の義務化(労働基準法典6条(1)(f))

これまで店舗施設法において労働者に対して雇用契約書(Appointment Letter)の提出を要求している州もあったが、すべての州において店舗施設法で同義務が使用者に課されているわけではなかった。

労働基準法典では、使用者はすべての労働者に対して、関係当局が定めた所定の様式で所定の情報を定めた雇用契約書(Appointment Letter)を交付しなければならないと規定している。

・女性の就労規制の緩和(夜間勤務等)(労働基準法典43条)

2025年3月に本サイトに掲載された記事「インドにおける女性の夜間労働に関する規制の動向」の通り、これまでは工場法による女性の夜間労働の原則禁止など、女性の就労が一定の場面で制限されていた。

労働基準法典では、女性は、あらゆる種類の労働についてあらゆる事業場で雇用される権利を有し、安全、休日、労働時間、及び使用者が遵守すべきその他の条件に従うことを条件に、本人の同意により、午前6時前及び午後7時以降について雇用される権利を有すると規定している。

労使関係法典(Industrial Relations Code, 2020)について

(1)労使関係法典の概要

従来、解雇に関する規定や労働組合に関する事項などの団体的労使関係、労働紛争に関する事項は、労働組合法(the Trade Union Act 1926)、産業雇用法(the Industrial Employment (Standing Orders)Act 1946)、産業紛争法(the Industrial Dispute Act 1947)で定められていたが、労使関係法典に統合された。

(2)主要な変更点

・ストライキ規制の強化(労使関係法典62条(1))

従前の産業紛争法では、公的公益サービス(public utility services)に限り、ストライキの14日前に使用者に通知を義務付けていた。

労使関係法典では、公的公益サービス(public utility services)に限らず、産業事業場で雇用される者は通知を行った14日以内にストライキを行ってはならないと規定している。

社会保障法典(Code on Social Security, 2020)について

(1)社会保障法典の概要

従来、年金制度(EPS)は、Employees‘ Pension Scheme 1955、積立基金制度(EPF)であれば、Employees’ Provident Funds 1952、預託保険制度(EDLI)であれば、Employees‘ Deposit-Linked Insurance Scheme 1976により定められるなど社会保障毎に複数の連邦法が別々に規定していたが、9つの法律が社会保障法典に統合される。

(2)主要な変更点

・有期雇用(Fixed Term Employment)の待遇改善(社会保障法典2条(34))

有期雇用の労働者について、労働時間、賃金、手当て、およびその他の福利厚生は、同一または類似の業務に就く期間の定めのない労働者と同等またはそれ以上でなければならない旨が明記された。

有期雇用労働者は、法令に基づき期間の定めのない労働者に付与される福利厚生のすべてについて、受給資格を得る期間を超えない期間労務を提供した場合でも、当該期間について福利厚生を受給する権利を有する旨が規定された。

One Asia法律事務所
インド提携事務所パートナー弁護士(日本法)

吉田 重規 氏

約6年間企業内弁護士として企業法務全般に従事した後、2018年One Asia Lawyersに加入。カンボジアを中心に東南アジアにおける日系企業への幅広い分野の法務支援実績を持つ。2025年より南アジアオフィス所属。クロスボーダーM&Aなどの日系企業進出のほか、インド企業法務全般に関するサポートを行っている。

One Asia Lawyers

One Asia Lawyers Groupは、東南アジア・インドの法律に関するアドバイスを、アジア各国のネットワークを基礎として、シームレスに、ワン・ストップで提供するために設立された法律事務所です。

Website : https://oneasia.legal

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