カテゴリー: カーボンニュートラル, バイオ・BCG・農業
公開日 2022.02.24
タイ最大の総合石油化学企業の一つで、アジア太平洋地域の石油化学事業を牽引する「SCG Chemicals」。業界最大手のセメント製造企業であり、ASEAN最大のコングロマリットの一つ「The Siam Cement Group Public Company Limited.(以下SCGグループ)」を母体に持ち、ASEANを中心とした同グループのグローバルなネットワークと潤沢な資金を誇っています。そんな同社が現在力を入れているのが、循環型経済時代に向けた新技術の開発・導入。サステナブルな社会の実現を見据え、日本企業に求めるものは一体何なのか? Mr. Jirut Wattoom, Ph.D.(以下ジルット氏)がお話してくれました。
ガンタトーン:
それではSCG Chemicals の事業概要について、同社のイノベーションを創出する Technology Strategy and Partnership 部門のマネージャー・ジルット氏にお答えいただきます。
ジルット氏:
まず簡単に弊社の歴史をお話させていただきますと、母体となるSCGグループは今年で創業109年を迎えるタイのコングロマリットの一つです。社名からセメント事業を基盤にスタートしたことがお分かりいただけるかと思いますが、設資材事業や製紙業と新部門を開設した後、石油化学事業を柱にしたSCG Chemicals が1983年に誕生しました。
SCGグループの事業は、建設資材を中心に扱うセメント建材メーカー(CEMENT-BUILDING MATERIALS)、植林からパッケージ開発・生産まで一貫して行う製紙事業(PACKAGING)、そして石油化学事業(CHEMICALS)の3つに分かれています。2021年の9ヶ月間において110億米ドルの売上を獲得し、そのうちケミカル部門が43% を占めています。今後は現在の事業に加えて、高付加価値の製品開発に力を入れていく予定であり、そのために重要になってくるのが研究開発とパートナーシップだと考えています。
ここからは皆さんにご提案いただきたい内容にも繋がる、循環型経済・グリーン戦略についてご説明いただきます。これは、事前に公開していますSCG Chemicals が「日系企業に求めるニーズ」内の1・2番に当たる、(グリーン戦略) ①循環型経済に対応した技術 ②再生可能な素材や技術に当たります。
※事前情報はこちら
ジルット氏:
弊社では現在、循環型経済・グリーン戦略に向けてReduce・Recyclable・Recycle・Renewable という4つのキーワードを掲げています。Reduceは、ポリマーの使用量をできる限り削減していくこと。Recyclableは、リサイクルが可能であることを前提に製品開発を行っていくこと。そして、このRecyclableを実際の再生利用のループに当てはめて実践していくことをRecycleとし、Renewableにおいて自然から得たエネルギーを原料にものづくりを実施していくことを表しています。これらの実験を行っているのがラヨーン県にあるパイロットプラントで、より高度なリサイクルを実現するための場として活用していきたいと考えています。
ガンタトーン:
具体的には、どのような技術を求めているのでしょう?
ジルット氏:
弊社は、より少ないプラスチック量で強力かつ薄いポリエチレンプラスチックの製造を可能にする独自の技術「SMXテクノロジー」を開発しており、この技術を用いた製品開発を実現できる状態になっています。
Reduceにおいては、これをもとにした実証実験など何かお試ししたいことがある企業様がいましたら、協業などの形でご活用いただくことも可能です。
Recyclableにおいては、よりリサイクルしやすくするための添加剤を求めています。例えば、一見ひとつの材料だけで作られているプラスッチックに見えても、何層もの異なる素材が重なっている場合があり、それをリサイクルしやすくするための材料です。また、複数のプラスチックを使わなければ印刷できないといった場合がありますが、何らかの新しい技術を介してそのプラスチックを1種類に留めることができれば、よりリサイクルがしやすくなると考えています。
Recycleではより少ないエネルギーで、またより少ない水でリサイクルが実現できないか画策しています。また、触媒となる何らかの添加剤などを活用し、その品質・特性をもとの状態により近いままでリサイクルできないかを考えています。
Renewableは我々にとってはまだこれからの分野ですが、バイオベースの化学薬品や原料、バイオプラスチックや家庭用の堆肥化可能な原料ソリューションなど、バイオテクノロジーに関わるさまざまな知識・技術をお持ちの企業様にはぜひ多様な形でご提案いただければと思います。
ガンタトーン:
事前資料の3番に書かれています、(グリーン戦略)③二酸化炭素回収・低減技術についても詳しくお伺いできますか
ジルット氏:
SCGグループ・CEOが「2050年までにネットゼロ(カーボンニュートラル)を目指す」と発表しましたが、今はグリーン水素や廃棄オイルを燃料に使用するなど新たな取り組みを試している最中です。これらの技術を活用することでさまざまな場面でエネルギーの最適化を図り、より生産性を高めることができると考えています。
温室効果ガス削減に向けた取り組みとしては、二酸化炭素の排出をいかに削減できるかが直結してきます。現在、ある溶液を用いて二酸化炭素を吸収できる技術は把握していますが、これには多大なエネルギーがかかるため、少ないエネルギーで実現できる、よりベストな新技術を探している段階です。また、二酸化炭素の有効利用を叶える技術も同様に探しています。
ガンタトーン:
これまでお話してきたものがグリーン戦略についてでしたが、ここからは事前資料の4〜6番に当たる(成長戦略)④医療やヘルスケア関連の素材・技術パートナー ⑤エネルギー分野の新素材・化学製品及びイノベーション技術 ⑥スマートファクトリー関連の技術についてお伺いしたいと思います。
ジルット氏:
我々が現在、もっとも関心を持っているものの一つが、医療現場や医療機器に活用できるプラスチック製品・技術です。すでに弊社とタイの医療学校が連携し、手術関連の製品を開発する場合はその現場に立ち会い、医師と共に現場でのデバイス不備といった課題の解決に向けて研究を進めています。この医療学校のように、弊社と協業し、新技術の開発を希望する企業様がいましたら喜んで一緒に取り組んでいきたいと思います。
また、近年は新型コロナウイルス関連の検査や血液検査など、今まで病院内でしか扱われていなかった機械や装置がご家庭で使われるようになってきていると感じており、この製品の多様化に伴ったプラスチック技術・製品が活用できるのではと考えています。加えて、医療現場では3Dプリンティング技術によって骨や歯など体の各器官を模型化していますが、この模型に使われている素材をプラスチック樹脂に代替できないか。まだ始まったばかりの非常に新しい取り組みではありますが、今後さらに研究を進めていく予定です。
そして、⑤エネルギー分野の新素材・化学製品及びイノベーション技術 ⑥スマートファクトリー関連の技術に関しては、まず電極やセパレーターの部品を新たに製造・開発すること。また、現代の主流の一つになっているリチウムバッテリーの次に来る、新エネルギー開発について興味を持っています。電気自動車(EV)の存在感が増していますが、プラスチック樹脂を用いてEVに供給できる部品なども今後新たに着手していきたい分野です。皆さまのご提案をお待ちしています。
TJRI編集部
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