公開日 2015.11.21
土谷豊弘
Director
一般事業会社を経て1997年中央監査法人監査部に入所。会計監査、株式公開支援業務に従事した後、2004年4月よりPwCタイ法人バンコク事務所に勤務。
日系企業に対して会計監査、税務関連業務の他、法務、投資、M&Aといった各種コンサルティング業務等、多岐に渡るアドバイスの提供、サポートを行っている。日本国公認会計士。
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歳入法典第65条の2(bis)6によると、棚卸資産は事業年度末に翌事業年度への繰越残高として、原価または時価のいずれか低い価額をもって評価することとされています(低価法)。棚卸資産の期末原価は、個別法、先入先出法、移動平均法等の一般に公正妥当と認められる評価方法に従い算定する必要があります。また、一旦採用した棚卸資産の評価方法は、歳入局長官の承認を得ない限り、変更することはできません。
棚卸資産の期末時価は、事業年度末時点における(取引所等の公開市場で成立した)販売可能価額を意味します。タイ国内で販売可能価額を見つけることができない場合には、国際市場の市場価格に輸送費、保険料及びその他販売に供するために必要な費用を加えた価額をもって棚卸資産の時価とすることができます。
会計上、期末棚卸資産の評価を行う場合、正味実現可能価額(予想販売価額から、通常の事業活動において将来製品完成までに要する費用、および製商品販売に要する費用を控除した価額)を時価として用います。しかし、税法上はこの正味実現可能価額を時価として
取扱うことはできず、棚卸資産の期末時価の算定にも用いることはできません。
期末棚卸資産の期末評価は、上記の歳入法典第65条の2(bis)6に規定される低価法の適用が求められますが、滞留/陳腐化等から生じた原価低減に伴う棚卸資産の評価損(評価性引当金の繰入額)は、税務上の損金として認められません。
実地棚卸資産により認識された棚卸減耗損は、歳入法典第77/1条8(e)により、VAT課税対象取引となる可能性があります。すなわち、正当な理由のない不足在庫は、それらが販売されたものとみなされ、VAT課税対象取引とされます。例えば、帳簿上の在庫数量が5000個であるにも関わらず、実地棚卸による実際の在庫数量が4980個しかなかった場合、VAT上、不足の20個は既に販売されたものと取扱われ、課税対象となります。
このようなVAT課税は、当局担当官または会社により在庫不足が発見された時点で当該物品の時価を用いてVATを計算します。このVATは、通常の事業に係るVATと同様に、課税が生じた月の翌月15日までに納税しなければなりません。なお、在庫不足に係るVATは、実際の販売に基づくものではないので、歳入局通達No.Paw86/仏暦2542(1999) により、歳入法典第86/4条及び86/5条に定めるタックスインボイスの発行は必要ありません。
他方、法人税課税所得の計算はVATの取扱いとは異なり、在庫不足分が販売されたとする「みなし売上」を計上する必要はありません。販売に係る所得は、あくまで会社の実際の売上もしくは所得によって認識されるため、減耗した物品の販売価額をみなし所得として、課税所得の計算に含める必要はありません(最高裁判決No. 3451/仏暦2538(1995) および同No. 3452/仏暦2538(1995)。
上記の判例にも関わらず、歳入局は実地棚卸時に生じた棚卸不足を、これらが販売されたものとみなし、当該不足品の販売価額を課税所得の計算に含めるように主張する可能性があります。このような問題を回避するため、帳簿数量と実地棚卸数量の差の内容を明確にできるよう、適切な在庫管理を行っておく必要があります。
一般に生産過程で発生した作業屑や仕損品は、たとえそれが滅失していたとしても、法人税法上、損金として償却することは認められず、依然として会社の棚卸資産として計上する必要があります(ただし、正常な範囲内の作業屑はこの限りではありません)。
ただし、歳入当局の認める原則・方法に従い仕損品等の廃棄を行った場合には、廃棄した事業年度に廃却損を損金計上することができます。
VATに関しては先述の通り、棚卸減耗が歳入法典第77/1条8(e)により販売されたものと見做されVATの課税対象となることから、合理的な理由の無い資産の滅失はVATの課税対象となります。
一方、仕損品等を廃棄した場合には、その廃棄の方法によらず、廃棄の事実を証明するに十分な書類が整備されていれば、棚卸減耗のように販売と見做されることはなく、在庫台帳において数量を減らすことができます。ただし、歳入当局より書類不備と見做されるリスクを最小限にするため、歳入局の認める方法に従い廃棄を行うことが望まれます。
歳入局が定める仕損品等の廃棄方法は、歳入局通達No. Paw79/仏暦2541に定められており、その詳細は次の通りです。
タイ国税務上、製造過程で生ずる作業屑や仕損品のうち、通常の生産活動において当然発生すると思われるものは、正常な製品原価の一部と考えられるため、製品が販売された時点で売上原価として、税務上の損金となります。
一方、正常な範囲を超える作業屑や仕損品、陳腐化品、不良品、期限切れ品等を損金処理するためには、下記の規則、手続きおよび条件に従わなければなりません。
(1)食品、医薬品や化学品等、廃棄のために保存できない仕損品等の場合
① 製品の破損状況をその事業や特性に照らして検査し、製品損傷の事実につき、社内承認権者(取締役等)がこれを承認する。
② ①の承認の後、保管部門、経理部門、販売部門、可能であれば監査人の内の誰かが、製品の検査及び廃棄に立会い、立会人として署名する。
③ この場合には、歳入当局担当官に廃棄立会いを要請する必要はない。
(2)廃棄のため一定数量まで保存できる仕損品等の場合
① 上記(1)①と同じ。
② 上記(1)②と同じ。
③ 廃棄の日の30日前までに所轄歳入当局に廃棄の予定を通知する。この場合、状況に応じて、当局担当官が廃棄に立会います。
上記の内容を要約しますと、生産過程で生じる作業屑や仕損品のうち、通常の生産活動に際し必然的に発生すると判断されるものについては、製品原価の一部として製品が販売された時点で売上原価となります。他方、このような正常な範囲を超える作業屑や仕損品、または価値が減価した製品(陳腐化品、不良品、旧型品、期限切れ品等)を廃棄する場合には、上記の手続きに従う必要があり、多くの場合、廃棄予定日の30日前までに歳入当局担当官の廃棄立会いを要請することになります。
これらの手続きに違反した場合の廃棄損は、税務上、損金とすることができません。
(続きは2016年1月号に掲載されます)
※このコラムは「時事速報BANGKOK」で以下年月に掲載されたものです。
◎2015年4月1日、5月6日
PricewaterhouseCoopers
Legal & Tax Consultants Ltd.
15th Floor Bangkok City Tower, 179/74-80
South Sathorn Road, Bangkok 10120, Thailand
Tel: 0-2344-1000
THAIBIZ編集部
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