カテゴリー: ビジネス・経済, バイオ・BCG・農業, スタートアップ, イベント
公開日 2023.11.28
在タイ日本国大使館と日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所、タイ財閥チャロン・ポカパン(CP)グループは11月4日、タイなどへの進出を目指す日本のスタートアップによるピッチイベント「ロック・タイランド#5」を開催した。今回のテーマは「Empowering Growth in ASEAN」で、タイなど東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本の新たなビジネスチャンスの創出と「共創」を目的とした。会場はバンコク市内にある複合施設「トゥルー・デジタルパーク」で、バイオやデジタル分野などのスタートアップ企業10社が登壇した。
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同イベントではまず、西村康稔経済産業相が開会あいさつし、今年参加したスタートアップについて、「製造業、人工知能(AI)、脱炭素、バイオ、DX(デジタルトランスフォーメーション)といったさまざまな分野で、革新的な技術・アイデアによって世界を変えていく意欲を持った人たちであり、大きな可能性を秘めている」と指摘。
「経済産業省としては、ロック・タイランドから生まれた日本のスタートアップとタイ財閥の『共創(Co-creation)』をより確かなものとするために、補助金や融資、税制や制度などさまざまな側面から支援をしていく考えだ」と訴えた。
同相はさらに、「この日タイ間の協力を、日ASEANにも広げていきたい。今年は、日ASEAN友好協力50周年の記念すべき年だ。経済産業省ではこの機会に、これからの50年を見据えた日ASEANの経済関係のあり方を示すビジョンを経済界の皆様とともに策定している。このビジョンの重要なキーワードの一つは『共創』だ。そして、『ロック・タイランド』を一つのモデルに、このビジョンを先取りする形で、『ファストトラック・ピッチ』という、ASEANと日本との間の共創のためのプラットフォームを今年新たに立ち上げた。今後も、ロック・タイランドやファストトラック・ピッチを含むさまざまな取り組みを通じ、ASEAN各国とともにイノベーション創出を加速させていく」との方針を明らかにした。
続いてCPグループのスパチャイ・チャラワノン最高経営責任者(CEO)が登壇。CPグループの事業の方向性について「多面的な課題に直面する世界では、事業の拡大を目指すと同時に持続可能性への取り組みが必要となる。われわれは現代の経済情勢に適応しながら、組織をテック・カンパニーへと転換しなければならない。この変革は環境意識へのコミットメントに支えられながら、新Sカーブなどの新しいビジネスパラダイムに投資することも含まれる。これにより、CPグループはクリーンエネルギーへの投資や再生可能エネルギー事業の拡大という戦略的な転換を実行する」とアピールした。
スパチャイ氏はまた、「さまざまな技術やイノベーションへの投資と共に、ビジネスパートナーと『共創』し、国内および地域におけるハイテク・スタートアップ企業を振興すべきだ。具体的には、民間産業部門がスタートアップと協力してディープテックを開発し、ASEANにおけるグリーンビジネスを促進する。適切なプロモーションと支援があれば、ベンチャーキャピタル(VC)をはじめ、ASEANのスタートアップへの投資家を呼び込むことができ、最終的に地域経済の強化に貢献できる」と指摘。さらに「経済・社会・環境の急激な変化に対応するための技術的・革新的に適応することを目指している。私たちの総合的な努力は、持続可能性を達成するだけでなく、急成長するタイのスタートアップ企業へのインスピレーションになることも目指す」と強調した。
次に今回参加した10社の日本のスタートアップ企業が会社と事業の概要を紹介するピッチイベントが行われた。
(1)ExtraBold(エクストラボールド)= 大型3Dプリンターの開発・販売。廃棄プラスチックゴミや生分解性プラスチックを素材に製品化できる。家具などの製作にも活用可能だ。
(2)CADDi(キャディ)= サプライチェーン改革を実現するため、製造業におけるデータ資産化を支援し、AIを活用した図面データ活用クラウドの「CADDi drawer」を提供。
(3)Recursive(リカーシブ)= 持続可能性に関連するAIソリューションを提供。AIを活用して地下水位を予測することで、インドネシアの森林火災を防止した事例がある。
(4)Quwak(クウェイク)= デジタルでのアイデンティティ認証と手にインストールしたマイクロチップを販売。IDカードの代わりにスマートフォンで読取り可能のマイクロチップによって認証が可能になる。
(5)Spiber(スパイバー)= 環境負荷の低減に貢献する植物由来の素材の人工構造タンパク質を開発した。アパレルや化粧品など幅広い産業で活用できる。
(6)Thermalytica(サーマリティカ)= 高機能断熱材「TIISA」による熱管理ソリューションを提供。 液体水素物流、航空・宇宙、電気自動車(EV)、ネットゼロ・エネルギービルなど、幅広い分野で用途がある。
(7)TOWING(トーイング)= バイオ炭や微生物などからできた高機能土壌改良材「宙炭」を開発。土作りの期間を短縮する効果があり、収量の増加にもつながる。地中への炭素固定も可能になる。
(8)Plant Life Systems(プラントライフシステムズ)= 植物分子生物学の数理モデル解析に基づく簡易栽培技術を開発・提供。悪環境下での確実に誰でも植物や農作物を育てられる斬新な植物栽培技術「アイリッチ(AI-RICH)農法」を提供。
(9)KAICO(カイコ)= 昆虫のカイコを利用して医療用等に使用できる高機能なタンパク質を開発。動物飼料に混合できるほか、人の経口ワクチンにも応用可能。
(10)Bacchus Bio Innovation(バッカス・バイオイノベーション)= デジタル技術とバイオテクノロジーを組み合わせ、大量生産に最適化された微生物を培養することで、バイオものづくりを推進し、循環型炭素経済の実現を目指す。
日本のスタートアップ企業によるピッチイベントの後には、タイ大手企業傘下のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)など5社によるパネル・ディスカッションが行われ、各社が関心のある事業分野や成功事例などを紹介した。
(1)タイ発電公社(EGAT)傘下のイノパワーは、主にエネルギー・イノベーションに投資。現在「エネルギー・イグニッション・ベンチャーズ(Energy Ignition Ventures)」という脱炭素関連のスタートアップを投資対象としたファンドを設定した。さらに、日本のスタートアップ「ゼロボード」との脱炭素化に関するパートナーシップ覚書(MOU)を締結した。
(2)国営タイ石油会社(PTT)傘下のPTTエクスプレッソは、技術や革新を通じてPTTの優位性を高める新規事業への投資機会を見出す役割を担っている。エネルギー貯蔵、水素や地熱などの代替エネルギー、未来のモビリティ、電気インフラ、脱炭素化などの分野と、医療・健康技術などのライフサイエンス分野に関心を持っている。
(3)タイ通信大手トゥルーグループ傘下のトゥルーデジタルは、デジタルインフラ、農業、物流、スマート小売り、デジタルメディア、デジタルヘルスなどの分野にフォーカスしている。アジアや欧州、米国のスタートアップに投資した経験がある。
(4)サイアム・セメント・グループ(SCG)傘下のアドベンチャーズは、産業、エンタープライズ、B2Bコマースのデジタル分野と、カーボンエコノミー、電気自動車(EV)、代替エネルギーのディープテック分野に関心がある。東南アジアを中心に世界中のスタートアップ企業に投資している。
(5)チャロン・ポカパン・フーズ(CPF)傘下のCPFベンチャーズは、CPFの事業効率を向上させるスタートアップ企業や新技術を探し、さまざまな革新的プロジェクトをCPFの新規事業として推進するためのベンチャーを育成している。重点分野は、アグリテック、バイオテック、フードテック、サステナブルテック、オペレーティングテック(工場の効率を高める技術)、人工知能(AI)などだ。
同イベントの最後に、主催のジェトロバンコク事務所の黒田淳一郎所長が閉会あいさつし、「日本にとってタイは、引き続きASEANさらにはアジア地域におけるサプライチェーンの要となっている。同時に、日タイ企業の協力は日本の生産・技術をタイに移しASEANに展開していくという形から、カーボンニュートラルの実現などグローバル共通の課題にともに取り組む持続的社会実現に向けた共創が求められている。こうした課題を乗り越えるためのキーとなるのが、イノベーションであり、そこにソリューションを提示するスタートアップの活躍が不可欠だ」と強調した。
その上で、「タイでの事業展開の強みは、タイの財閥や大手企業が設立したCVCが、スタートアップの活動を資金面などから支える主要プレイヤーとなっていることだ。換言すれば、タイでスタートアップが発展していくには、大手財閥企業等の支援が欠かせない。タイやASEANの財閥など大企業や官民が持つ人脈やネットワークと、日本のスタートアップの技術力が手を合わせ、共創に向かっていくことが期待される」と訴えた。
TJRI編集部
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