アジア小売市場での戦い方(中編)

ArayZ No.147 2024年3月発行

ArayZ No.147 2024年3月発行タイの歴史の振り返りと未来展望

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    アジア小売市場での戦い方(中編)

    公開日 2024.03.10

    日系企業にとっての アジア小売市場の位置付け

    日系企業にとっての アジア小売市場の位置付け  アジアはグローバルビジネスにおいて今後よりその重要度を高める。ローランド・ベルガーはアジアのあらゆる国、あらゆる小売業態に対して多くのコンサルティング支援を行ってきた。日系企業のみならず、ローカルや欧米系リテーラーに対しても多面的な支援を実施している。その中で得られた知見をもとに、日系企業に対する4つの重要論点を複数回に分けてご提示している。

    一つ目は、「価値観ベースで現地消費者をセグメンテーションする」、二つ目は「国・事業を跨いだ事業ポートフォリオを組む」、三つ目は「マネタイズポイントを複線化する」、そして、最後に四つ目は「都市圏内のサプライチェーンを精緻化する」だ。本稿では前回に続いて、二つ目、三つ目の論点を提示する。

    国・地域を跨いだ 事業ポートフォリオを組む

    一つ目の「価値観ベースで現地消費者をセグメンテーションする」では、基本的にはアジアの消費者が細分化されるということを示した。消費者セグメントが細分化されるということは、事業者側の販売やマーケティングの観点では効率が悪くなるということだ。マスとして大きく存在する層が減るのだから、個々のニーズや購買行動に合った、固有の商品やプロモーションを複数展開しなければならない(図表1)。

    アジア消費者を取り巻く変化

    メーカーもリテーラーも、本質的にはターゲットをより小さく絞り込むことになる。

    一方、価値観ベースで見たときに、国・地域を跨いで類似の消費者セグメントが見られることも実は増えている。例えば、ベトナムのセグメントAが、韓国におけるセグメントBと同じような価値観を示すといったようなことだ。ベトナムだけで見るとセグメントAの市場規模は決して大きくなく、企業側からすると商品・プロモーションをローカライズするモチベーションが上がり辛いだろう。しかし、韓国のセグメントBも同じようなローカライズで取り込めると考えると事業効率は格段に上がる。

    実際、そのような事例は増えており、国・地域を跨いだ事業ポートフォリオを探したいという相談も弊社には増えている。セグメントが細分化されて、ひとつの国で見ると事業規模が取り辛くなる中、今後このようなアプローチはより一般化してくるだろう。言い方を変えれば、国単位やブランド単位で事業を区切るという方法が陳腐化し、消費者の価値観ベースで事業を組んでいくことが主流になっていくのではないか。

    マネタイズポイントを複線化する

    左記のように国・地域を跨いだ事業ポートフォリオを組んだとしても、これまでのような一ヵ国で巨大なマスセグメントを狙う売り方の効率性には敵わない。アジアにおける消費財ビジネス、リテールビジネスの効率性が悪くなっていくことは構造的なものであり避けられない。それを少しでも緩和するために国・地域を跨ぐ必要があるわけだが、それだけでは収益性担保に充分と言い切れない。国・地域を跨いだ事業ポートフォリオの考え方だけでなく、少しでもマネタイズポイントを増やして、収益機会を重ねる必要がある。つまりは、メーカーであれば「小売チャネルに流通させて消費者に売る」、小売であれば「メーカーから仕入れて自分たちの店舗(実店舗)で消費者に売る」という単純なマネタイズモデルから脱却すべきということだ。

    例えば、ユニリーバは隆盛するダークキッチン(クラウドキッチン)を大口顧客・販路と見做してそこに自らの商品を卸すというマネタイズポイントを新たに作っている。加えて、小規模飲食店に向けた販売オンラインプラットフォームも立ち上げ、これまでは直接のアクセスが難しかった新たな卸先を開拓している。いずれにしてもB2Bでのマネタイズポイントを拡充しようという戦略である。また、第2部で触れたタイのCP傘下にあるセブンイレブンも、従来的なコンビニフォーマットに留まらず、いわゆるQコマースサービスやスマート自販機業態によって新たなマネタイズポイントを構築している。

    また、あるリテーラーは顧客データを基にしたデータ販売で真水の収益を得ることを実現させている。このように従来的な稼ぎ方に捉われず、ビジネスモデルの枠を超えて少しでも儲けを得られるポイントを増やしていかなければならない状況に来ているのだ。

    Roland Berger Co., Ltd.
    Principal Head of Asia Japan Desk

    下村 健一 氏

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
    [email protected]

    Roland Berger Co., Ltd.

    ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
    □ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
    □ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
    □ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

    17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
    Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

    Website : https://www.rolandberger.com/

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