
カテゴリー: ビジネス・経済
連載: タイ経済概況 - SBCS
公開日 2026.10.09
いまタイと関わる日本人の多くが、「タイは親日国だ」と感じているのではないだろうか。日本食レストランが街中に並び、日本を旅行先として選ぶタイ人も多い。しかし、半世紀ほど前のタイでは、日本はむしろ強い反発の対象だった。タイは反日の国だったのだ。
1960年代、日本企業はタイへの進出を急速に拡大した。日本製品が市場にあふれる一方、対日貿易赤字が拡大し「このままでは経済的に日本に飲み込まれる」との警戒感がタイ人の間で高まった。1969年にはタイの大臣が「日本人は、日本の航空会社を利用してタイに来て、日本人経営のホテルに泊まり、日本料理店で食事して帰る」などと批判した。日本人がタイを訪れても、結局は日本企業にお金が落ちて、タイ社会に貢献していない、というわけだ。
当時、日本の存在感がいかに強く意識されていたかを象徴する発言である。こうした背景から、タイ人のビジネスを守る目的で、この時期に現在の外国人事業法の前身となる法律が制定された。現在、われわれ日本人がタイでビジネスを行う際、まず注意しなければならない法律の一つである。 1972年には学生らによる日本製品不買運動も起きた。当時のアンケート調査で、タイ人が抱く日本人のイメージとして「尊大」「わがまま」「搾取」といった厳しい言葉が上位に並んだ。
こうした反日感情が最も鮮明に現れたのが、1974年1月の田中角栄首相のタイ訪問である。バンコクでは学生を中心とする大規模な反日デモが起きた。
日本側はその後、関係のあり方を見直していく。経済協力だけでなく、文化・人的交流を拡大し、1977年には福田赳夫首相が、日本は軍事大国にならず、ASEAN諸国と「心と心の触れあう」相互信頼関係を築くという福田ドクトリンを発表した。
もちろん、こうした反日感情に対し、政府だけでなく在タイ日本人社会も動いた。たとえば、タイ国日本人会のチャリティーバザーも、日本製品不買運動が起きた1972年、「タイ社会に何か貢献できないか」と考えた在留邦人有志によって始められた。また、日本社会の中でも「態度に気を付けよう」といった注意喚起を行ったという。
国際情勢の変化も、反日感情の緩和に追い風となった。この時期、インドシナの共産化とクメールルージュの台頭によるカンボジア情勢の悪化によって、安全保障上の脅威が急速に高まった。さらに、石油危機や景気悪化で外国投資が減少したため、タイにとって日本は「警戒すべき経済大国」から「必要な経済パートナー」へと位置付けも変わっていった。

そして半世紀後。外務省が2025年にASEAN10ヵ国で実施した対日世論調査を見ると、その変化の大きさに驚かされる。タイ人が日本に抱くイメージの上位は、「豊かな伝統と文化を持つ国」62%、「経済力、技術力の高い国」61%、「生活水準の高い国」57%。特に「生活水準の高い国」はASEAN10ヵ国で最も高かった。
さらに「最も信頼できる国・機関」をひとつだけ選ぶ質問では、タイ人の45%が日本を選択。中国12%、米国8%を大きく上回り、日本を選んだ割合はASEAN10ヵ国でも断トツの1位だった。「現在重要なパートナー」でも日本63%、「今後重要なパートナー」でも54%と、いずれもタイでは日本が首位である。隔世の感とは、まさにこのことだろう。
タイの親日は、初めから存在したものではない。むしろ、反日から長い年月をかけて親日へと変わってきた。その背景には、無数の人々が半世紀をかけて積み上げた信頼がある。
親日は一日にしてならず。その信頼を守り続ける努力もまた、一日にしてならず、だと思う。
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)が8月17日に発表した2026年第2四半期の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比+1.9%となり、前期の+2.8%から減速した。民間消費も同+1.9%と鈍化し、消費者信頼感指数は50.3と2022年第4四半期以来の低水準となった。一方、民間投資は同+13.4%、物品輸出も同+17.6%と高い伸びを維持した。製造業は同+0.1%、設備稼働率は57.47%にとどまるなど、低調な動きとなった。2026年通年のGDP成長率は+2.0〜2.5%と予測される(図表1)。

タイ商務省は7月24日、2026年上半期の輸出額が前年同期比+17.6%の1,967.4億米ドル、輸入額が同+38.0%の2,284.9億米ドルとなり、貿易収支は▲317.5億米ドルの赤字だったと発表した。品目別輸出額では、農産物・加工品が同▲3.2%の265.6億米ドルとなった。主力品目の米は同▲20.5%の19.1億米ドル、天然ゴムは同▲15.2%の23.0億米ドルと大幅に減少した。一方、主要工業製品は同+21.6%の1,645.7億米ドルとなり、電子製品・部品は同+53.6%の516.9億米ドルだった。
自動車・部品は同+2.9%の202.6億米ドルだった。国・地域別輸出額では、米国向けが同+41.1%の471.5億米ドルで首位となった。ASEAN9ヵ国向けは同+12.2%の411.7億米ドルだった一方、CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)向けはカンボジア向けの大幅な落ち込みが響き、同▲9.3%の148.9億米ドルとなった。商務省は、2026年下半期も電子製品への需要拡大に支えられ、輸出の堅調な伸びが続くと予測した。一方、地政学的緊張の激化や、米国の貿易措置・輸入関税を巡る不透明感が下押し要因になるとの見方を示した。
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タイ工業連盟(FTI)が8月25日に発表した2026年7月の自動車生産台数は、前年同月比+6.1%の11.7万台で、4ヶ月ぶりにプラスを記録した。内訳は国内向けが同+22.4%の4.5万台、輸出向けが同▲1.9%の7.3万台。同月の国内新車販売台数は同+20.1%の5.9万台で、輸出台数は同+2.4%の7.4万台だった。
また、2026年7月の自動二輪車生産台数は、前年同月比+0.5%の20.3万台で、3ヶ月連続でプラスを記録した。内訳は完成車(CBU)が同+2.9%の17.0万台で、完全組み立て部品(CKD)が同▲10.6%の3.3万台。同月の国内販売台数は同+5.1%の15.2万台、輸出台数は同▲4.2%の6.8万台だった。
タイ国鉄(SRT)は2026年5月19日に、SRTレッド・ラインのランシット〜タマサート大学ランシットキャンパス、およびシリラート〜タリンチャン〜サラヤの各延伸区間の建設について、落札者と契約を締結した。両延伸区間とも7月23日に着工した。2029年開通予定で、運営会社は現在運営中の区間と同様にSRT傘下のSRTエレクトリファイド・トレイン社が担う予定。SRTは、レッド・ライン延伸区間開通後、バンコク~パトゥムターニー間の渋滞緩和やバンコク西部およびナコーンパトムへのアクセス改善につながるとの見方を示している。
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5月19日の閣議で、2024年7月から適用されている「93ヵ国・地域を対象とする60日間のビザ免除」措置を廃止することが決定され、8月31日に官報で公示された。その背景には、観光ビザを悪用した詐欺や不法就労等の犯罪を防止する狙いがある。発効日の9月15日以降は、従来型のビザなし短期滞在制度が適用され、日本を含む60ヵ国・地域のパスポート所持者については滞在可能期間が30日、2ヵ国・地域については15日に短縮される。
また、3ヵ国・地域については、15日間の滞在が可能な到着ビザ(VoA)制度に切り替わる。さらに、タイとの間で二国間ビザ免除協定を締結している16ヵ国・地域のパスポート所持者は、14~90日間、ビザなしで滞在することができる。なお、長期滞在を目的として出入国を繰り返す「ビザラン」を防止するため、短期滞在制度の対象国・地域からの陸路入国については、暦年で2回までに制限される。
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Executive Vice President and Advisor
長谷場 純一郎 氏
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。
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