カテゴリー: ビジネス・経済, カーボンニュートラル
公開日 2022.10.11
アジア最大規模の電力・エネルギー展示会「サステナブル・エナジー・テクノロジー・アジア(SETA)2022」が9月20~22日の日程でタイ・バンコク郊外の国際貿易展示場「BITEC」で開催された。新型コロナウイルス流行で3年ぶりのオフライン開催となった今回は太陽光発電関連展示会「SSA(ソーラー+ストレージ・アジア)2022」と、再生可能エネルギー展示会「Enlit Asia」も同時開催され、世界各国から発電、送電、配電、水素、太陽光と蓄電などエネルギー分野の専門家ら350人がスピーカーとして参加、来場者数も3日間で1万1000人に達した。
20日に行われたオープニングセレモニーではまず、今回の3つのイベントの共同議長を務める国際経済交流財団(JEF)の豊田正和会長が開会あいさつし、今年の全体テーマについて、「カーボンニュートラリティー達成のための東南アジア諸国連合(ASEAN)エネルギー転換の加速」に設定したと説明。「最優先事項は、世界のエネルギー危機を克服することだ。それには発電、運輸、製造業、建設、企業、消費者など全分野の取り組みが求められる」と強調。具体的な課題として、①気候変動との戦いの中で、産業ダイナミズムが新型コロナウイルスを撲滅し、ニューノーマル(新常態)を作れるか ②「復活と成長」「イノベーションと安全」あるいは「安定と低コストのエネルギーシステム」のいずれが優先されるか-の2つを挙げた。
来賓として登壇したエネルギー省のクリット次官は「タイは依然、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料に依存している。天然ガスはクリーンなエネルギーと考えられているが、本質的には化石燃料だ。発電燃料の構成では86%が化石燃料で、この電源構成が続いた場合には、プラユット首相が昨年11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で発表した、「カーボンニュートラル」を2050年に、「ネット・ゼロ・エミッション」を2065年までに達成するとの目標実現は難しいと警鐘を鳴らした。
その上で、タイ政府は低炭素社会実現に向けて取り組んでおり、策定中の「国家エネルギー計画(NEP)2022」では、クリーン電力生産に向けて「Decarbonization」「Degitalization」「Decentralization」「Deregulation」という「4Ds政策」を活用すると表明。NEP2022では2040年までに、新設発電所に占める再生可能エネルギー発電の比率を50%以上にすることなどを目指しているとした。
このほか同次官は二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)技術開発のための試験プロジェクトや、ブルー水素・グリーン水素生産・利用、アンモニア混焼の研究開発、電気自動車(EV)需要拡大に向けた政府支援策、バッテリー投資促進策などにも言及。今回のフォーラムが低炭素社会と脱炭素に向けたビジネスチャンスとなり、技術、イノベーションの知見を共有するプラットフォームとして戦略的方向性を指し示すことを期待していると締めくくった。
続いてタイ発電公社(EGAT)のプラスートサック副総裁は、ウボンラチャタニ県のシリントンダム湖の湖面に浮体式太陽光パネルを設置し、既存の水力発電と組み合わせて運用を始めた世界最大規模のハイブリッド発電所(発電能力45メガワット)を紹介。さらにコンケン県のウボンラタナダムでも24メガワットのハイブリッド発電所の設置を進めていることを明らかにした。さらに、発電所から出る「煙道ガス(flue gas)中の二酸化炭素を回収する研究では、自社のコンバインドサイクル発電所や火力発電所で試験プロジェクトを始めたと述べた。
さらにEGATは水素技術では、二酸化炭素排出を削減するためにガスタービン発電所の燃料として水素と天然ガスを混合して使う可能性を検討しているほか、燃料電池で発電するためにさまざまな再生可能エネルギー源から「グリーン水素」を生産する研究も進めていると報告。また、運輸部門での二酸化炭素排出削減では、電気自動車(EV)の成長につながる技術も開発していると説明。幾つかのパートナー企業と合弁でEGAT充電ステーション(Elex)を開設したことも明らかにした。EGATの充電ステーションは現在、70カ所以上にあるが、今年末までに100以上まで整備する計画だという。このほか、EVからの廃棄バッテリーの増加を環境汚染なく適正に管理する研究も行っているという。
日本政府を代表して登壇した在タイ日本大使館の大場雄一次席公使は、「持続可能な社会では環境保護と経済成長のバランスを取ることが重要で、この視点はポストコロナ時代に急成長する可能性のあるアジア地域で特に重要だ」と指摘。「日本は2050年までのカーボンニュートラルを目指しており、今年夏には、グリーントランスフォーメーション(GX)実行推進担当相ポストを新設した」と報告した。
同公使はまた、西村康稔経済産業相が9月18日に訪タイし、タイのスパタナポン副首相と会談、「アジア・ゼロ・エミッション共同体(AZEC)構想の推進と、タイと日本の企業によるタイの脱炭素化関連の特定プロジェクトでの共創の支援を確認した」ことを紹介。さらに、「カーボンニュートラリティーのうちの重要な要素の1つがゼロエミッション火力発電で、タイではクリーン発電に向けてタイと日本企業が水素とアンモニア混焼の可能性を研究している」とした上で、今年のSETAで行われる「水素とアンモニアビジネスフォーラム」は極めてタイムリーで素晴らしいと評価した。
オープニングセレモニーではこのほか世界各国の官民代表のスピーチが続いた。日本貿易振興機構(ジェトロ)の黒田淳一郎バンコク事務所長は、在タイ日系企業の多くが電力コスト削減、気候変動対策など脱炭素化に取り組んでいるが、特に製造業の間で太陽光発電の需要が高まっていると指摘。エネルギービジネスは、日本企業が実績と競争力に富んだ現地企業と提携することが現在のトレンドで、ジェトロとしてタイの政府や企業と緊密に連携しているとアピールした。SETAでも、カーボンニュートラルの実現に向け、日系エネルギー企業9社の製品・技術・サービスを紹介するジャパンパビリオンを開設したと報告した。
SETAでジェトロが運営したジャパンパビリオンには、丸紅、サイアムタクマ、三菱重工業、AGCアジア・パシフィック、 LIXILグループのTOSTEM THAIなど9社が出展した。このうち今回は丸紅の取り組みを紹介する。
丸紅泰国の加藤真男副社長(インフラプロジェクト・エネルギー部長、社会産業・金融部長)はこうした展示会に出展するのは丸紅としてタイでは初めてだとした上で、「ここ3年ぐらいで大きく変わってきたのが、日系企業、そしてタイ大手企業の間で脱炭素、電気自動車(EV)関連、グリーン化に関するニーズが高まってきたこと。さらに1年前ぐらいから一部の企業がコストはかかるが、カーボンニュートラルにつながる事業に予算を割くようになった」と指摘。このため丸紅では、石炭火力発電所に対しボイラー燃料である石炭の代わりに木質ペレットを提供する事業や再生可能エネルギー証書の取引サービスなどを手掛けるようになったという。
同社が今回、ジャパンパビリオンに出展したのは、①スーパーコンデンサー ②二酸化炭素(CO2)回収ソリューション ③韓国社のEV急速充電装置 ④IT活用した節水ソリューション ⑤ソーラー-の5事業。加藤氏はこのうち最も顧客からのニーズが高かったのは、日本のグリーン・アース社が独自開発した①のスーパーコンデンサーで、業務用の大型空調設備の室外機に装着することで電気代を10~14%削減できる節電効果への関心が高かったという。タイでも工場やデータセンターの需要は強く、今回の展示会後にタイのローカル企業(製造業、オフィスビルなど)問い合わせが急に増えたと報告した。
さらに、今注目の分野である②は、丸紅が一部出資している英カーボン・クリーン社のCO2吸収ソリューションで、中小規模の工場向けでは世界的にも最もコスト効率が高いという。加藤氏は「二酸化炭素回収・貯留(CCS)では、回収、パイプラインなど輸送、貯留と3段階がある。タイでも国営タイ石油会社(PTT)などが採掘を終えたタイ湾の天然ガス田に二酸化炭素を貯留することを検討している。タイは産業集積が大きい中で、使わなくなった天然ガス田もあり、CCS事業の可能性は高い」との見方を示した。
TJRI編集部
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