カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド
公開日 2022.10.11
三井住友銀行(SMBC)は9月27日、「APAC自動車産業の将来像 ~カーボンニュートラル×生産拠点戦略」と題するウェビナーを開催した。講師は三井住友銀行・企業調査部(シンガポール) の平岩郷志部長代理で、タイについて内燃機関(ICE)車の生産・輸出ハブ化、インド向け輸出強化、アジア大洋州(APAC)生産拠点再編時のタイ集約化などの戦略を提言した。
目次
平岩氏はまず、APACの自動車市場の現況と今後の見通しについて「新型コロナウィルス感染拡大対策のロックダウン措置や半導体・各種部材の不足を背景とする減産が重しとなっているものの、ロックダウン期間中の待機需要や減税措置などの支援策を背景にAPAC市場は徐々に回復基調にある」と概観。一方、今後については「各国とも23~24年にはコロナ拡大前の2019年の水準に回復することが見込まれる」と予想した。また、グローバルな比較では「買い替え需要中心の先進国は回復するものの中長期では横ばい、APAC市場は2020年大きく下がった後、右肩上がりに成長するものの、コロナ前に想定した水準には届かない。これらの国は成長ドライバーが新規購入者で、経済的先行き見通しが厳しくなっていることを踏まえて購入の先延ばしが起きている」と説明した。
続いて「カーボンニュートラルの実現に向けた戦略」について、「潜在的な課題と狙い」「電動化戦略」「バイオ燃料戦略」に整理して分析。まずAPAC主要国のカーボンニュートラル目標について、「1次エネルギーの構成比はタイの場合、40%が石油で、他の国でも石油が3~4割を占めている。セクター別のCO2排出量では、タイでは29%が自動車含む運輸部門で、その他の国もおおむね1~3割を運輸部門が排出している。長期的にカーボンニュートラルを達成していくためには既存の自動車の燃料を見直していく必要性が高まっている」と強調した。
その上で平岩氏は、APAC主要国が電動化(バッテリーEV)に関して高い政府目標を掲げているのは、新産業への投資呼び込みと周辺国に先行してEVサプライチェーンを作りたいという狙いがあると指摘。「タイは2030年に生産台数の30%をEVにするとの目標を掲げているが、事業者の話を聞くと5~20%、コンセンサスは30年に10%が現実感のある解答ではないか」との認識を示した。その理由については内需が低調なことと、タイは中国からEVを無関税で輸入できるので、中国メーカーとしては必ずしもタイで作らなくても、中国で生産してタイに送るということも戦略上可能なためだと説明した。
平岩氏はさらにタイ政府のEV生産・購入奨励策を改めて紹介。充電インフラ整備については「充電ステーションは2035年に8万カ所を目標に設定している。ガソリンスタンドでの充電ステーション設置は他国と比べて進んでいる。国営タイ石油会社(PTT)とアマゾンカフェとの親和性が高いということだろう」との見方を示した。
APACの自動車販売市場の動向では、「これまでAPACは日系メーカーの牙城だったが、少しずつ中韓勢が攻勢をかけている。過去20年間で日本のシェアは少しずつ低下している」と改めて指摘。
その上で、APACで電動車が本当に普及していくのかについては、「APAC全体でも2030年に10%内外というのがコンセンサスではないか」とし、その理由についてはまず「2030年でも内燃機関車よりEVの方がまだコストが高い。APAC地域は所得が低いので、車に対する価格感応度が高い」という価格の問題を挙げる。さらに、充電インフラの整備状況、そしてリチウムイオン電池の確保の問題も大きいとし、タイでは2030年でも(バッテリー)EVは10%で、ハイブリッド(HEV)車を中心に9割以上の車にはエンジンが付いているだろうとの見通しを示した。
また、タイでのEVに関する生産動向見通しでは、「中国メーカーが先行していくが、日系メーカーも徐々にEV生産を立ち上げていくと見ている。タイは電池などでの優位性があるわけではないが、既存のサプライチェーン、輸出サービスの品質が整っているというところが強み。アジアのどこかでEVを作るならタイが選択肢として挙がる要因になっている」と説明した。
続いて平岩氏は「APACにおけるバイオ燃料戦略」を説明。タイのガソリンは現在、エタノールを10%混合した「E10」が標準規格燃料となっているが、「E10から基金への拠出金を徴収してそれを補助金としてE20に転換していく。この政策は今年12月あるいは来年1月から開始する予定だ。タイではE20が基本燃料になっていく」と報告した。
一方、注目されるのはインドだとし、「E20への移行目標を2030年から2025年に5年前倒しした。その動機はインドの原油への依存度が高いこととサトウキビが余っていることがある。国民の4割が農家で、農民支援が本質的にも政府の票の獲得にも重要だ」と指摘。「インドの地場メーカーはバイオ関連の技術や生産設備を持っていない。限られたリソースをEVに振り向けていきたいものの、政府はバイオ対応をしていけというのが彼らの悩みになっている」と説明した上で、「タイ企業はタイからインド向けの輸出、あるいは技術供与が考えられるのではないか。インドがE20を手掛かりにタイに追いつこうとしている中で、タイからインド向けのビジネスの強化も考えられるのではないか」と助言した。さらに、バイオ燃料はグローバルでも重要な地位を占めつつあり、APAC各国がその主要なけん引役になっていくとの見通しを示した。
平岩氏は最後に「生産拠点としてのAPACの位置づけ」をまとめる中で、まず主要国の自動車貿易の状況として、「タイなど安定的に(貿易)黒字を生む国」と「慢性的に赤字が続く国に二分されている」と分析。特にタイの輸出は「APAC域内の輸出が大半を占めているが、近隣の中東や日本への輸出も増えている。今後は、バイオ燃料をフックにしたタイからインドへの輸出強化が考えられる」と述べた。さらに北米、欧州での内燃機関(ICE)車への投資が難しくなっている中で、「アジアではICE関連が9割以上残るという市場特性を生かして、APACで内燃機関車関連を生産し、インド向け、先進国向けの輸出を強化することが考えられる」との見方を示した。
その上でタイの自動車市場の将来像、生産拠点戦略として、①HEV、プラグインハイブリッド(PEHV)の現地調達比率引き上げ ②ICEの生産・輸出ハブ化 ③インド向け輸出の強化 ④APAC再編時のタイ集約 ④中国メーカーとの取引拡大(サプライヤーのみ) ⑥中国からの生産移管(サプライヤーのみ) ⑦EV生産の検討―という7つの戦略を提言して講演を締めくくった。
TJRI編集部
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