連載: 日系スタートアップ
公開日 2022.12.14
11月16日に開催されたスタートアップイベント「ロック・タイランド#4」で、ピッチイベントに登壇した日本のスタートアップ企業紹介の第2回は世界初のデング熱の重症化リスクを予測する検査キットを開発した、MiCAN Technologies(マイキャン)だ。同社を創業した宮﨑和雄最高経営責任者(CEO)のプレゼンテーションを紹介する。
熱帯病とくにデング熱の課題解決を日本発の幹細胞技術で解決したいと考えています。
私たちの経営理念は、「幹細胞技術を使用した特殊な血球細胞の提供を通じ世界のあらゆる人の健康に貢献する」ことです。
私はもともと製薬会社の研究員でした。インドに赴任した際に現地でマラリアやデング熱など熱帯病にかかる同僚を見て、感染症の課題解決を強く望むようになりました。それまで幹細胞を使用した研究をしていたことから、帰国後、幹細胞から作った血球細胞を使用した課題解決をするために2016年に会社を設立しました。現在17人の仲間とともに活動しています。
われわれはこれまでに2つの血球細胞製品「Mpv」「Mylc」を開発しています。今日はMylcを使用した課題解決について紹介します。
デング熱は、皆さまご存知の通り、蚊のいる熱帯地域に発生する感染症です。とくに近年患者数は増えており、今年も問題になっているようです。年間約1億人が発症し、その中の50万人程度が重症化するとされています。
デング熱は多くの場合、無症状か軽症です。しかし、この感染症が厄介なのは、まれに重症化し、その予測が難しいことです。
デングウイルスに感染すると、しばらく経って発熱します。厄介なのは、発熱=重症ではなく、「解熱後、治ったかな」と思うタイミングで急に悪くなる人が出ることです。そのため、大丈夫と油断していると一気に悪くなり、その時に病院に行っても治療が大変で、場合によっては死に至ります。このように重症化が、あらかじめわからない点がデング熱の厄介なところです。
重症化の原因と言われるのが、不完全な抗体の存在です。本来、有効な抗体があると上記スライドの真ん中の図で示すように中和されます。下の写真は、デングウイルスを紫色に染めて可視化したものです。
しかし、不完全な抗体があると、逆に白血球細胞に入りやすくなる現象が起き、一気にウイルスが増えてしまうことで急激に悪くなります。まさに「トロイの木馬」のような現象です。この現象を抗体依存性感染増強、略して「ADE」と言います。そこで、われわれはこの現象をあらかじめ実験室で測定するためのキットを開発しました。
バンコクで毎年開かれる「JITMM」という国際熱帯病学会で、2017年にマヒドン大学の先生と夕食で議論したのが契機になり、5年かけて開発に成功し、今月、日本で販売を開始しました。このキットは、白血球の細胞(Mylc)と模擬的なデングウイルス、コントロール抗体がセットになっており、開封直後に血清を測定することができます。
使い方はキットを開封後、中にある模擬的なウイルスと血液をまぜ、その後付属のMylc細胞を加え、20時間おいたのちに測定します。そのため、開封から1日以内に結果を知ることができ、重症化する前に判断することが可能です。
本キットを使用した、マヒドン大学との研究結果を上記スライドで示します。デング熱に感染履歴のある、健常人9人を測定した結果です。左端が上にへばりつくような形になる、例えば左上の1番のような人がデングに感染すると重症化するリスクが高いと思われます。
研究用試薬としては日本での発売に続き、マレーシアで来年から発売する予定です。さらに、臨床用検査で使えるよう開発を進めています。現在、適正製造基準(GMP)による生産体制の構築及び、臨床テストをベトナムとマレーシアで実施中です。その後、申請等を実施し、2024年に臨床用として発売したいと考えております。
最後に、われわれのイメージする未来について説明します。現在は、デング陽性になると医師にみてもらいますが重症化リスク判断が十分できていない状況です。そこで、地元のクリニックでデング陽性となった場合、Mylc-ADEテストを実施することで、医師による診断支援ができ、死亡者数を大きく減少することができる未来を作りたいと考えています。
今回は本検査キットをタイで開発するパートナーを探しに来ました。パートナーがいれば、わざわざ日本で承認後、タイで承認申請することなく、早期に開発できるのではないかと考えています。ご興味がありましたら是非お問い合わせください。
TJRI編集部
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