カテゴリー: ビジネス・経済, カーボンニュートラル
公開日 2024.02.19
バンコク都庁(BMA)、経済協力開発機構(OECD)、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)、一般社団法人国際建築住宅産業協会(JIBH)は1月18日にタイ・バンコクで「サステナブルな建築・都市」セミナーをハイブリッド形式で開催した。政府機関や業界団体、研究機関、民間企業など現地会場では227人、オンラインで161人が参加した。
同セミナーではバンコクをより持続可能で住みやすい都市にするために、日本の技術やノウハウをどのように活用できるかを討議するビジネスセッションと、持続可能な建築と都市に関して各国専門家が意見交換する政策セッションが行われた。そして、チャチャート知事がアジアのOECD非加盟国の地方自治体首長としては初めて「OECDチャンピオンメイヤー(不平等是正と包括的経済成長に取り組む首長)」に就任したことも発表された。
目次
第一部のビジネスセッションではまず、一般社団法人国際建築住宅産業協会(JIBH)副会長で、 積水ハウスの専務執行役員の豊田治彦氏が開会あいさつし、JIBHの概要を説明した上で、「本セッションでは、日本企業の持つ環境関連の技術や知見を紹介する。バンコク都庁(BMA)の政策担当者やタイ企業にも参考にして欲しい」と訴えた。
続いて、在タイ日本国大使館の梨田和也特命全権大使が来賓あいさつし、バンコクが目覚ましい発展を遂げる中で持続可能性や包括性、脱炭素化の重要性を訴えた。さらに、チャチャート知事のOECDチャンピオンメイヤー就任への祝意を示すとともに同知事の手腕に期待を表明した。
ビジネスセッションでは一般社団法人海外エコシティプロジェクト協議会(J-CODE)の佐谷説子専務理事が「J-CODEは、日本での官民連携によるソリューションを提案し、さまざまな課題を克服してきた経験を踏まえ、海外の都市開発に貢献することを目的として設立された。現在、タイではバンコク新中央駅のクルンテープ・アピワット駅(旧名バンスー駅)周辺開発に協力している」と報告。
そして、同氏は持続可能な都市の作り方について、「都市開発のプロセスには、①どのような都市をつくるか構想する段階 ②構想を実現するための詳細な計画を策定する段階 ③計画を実行する段階―がある。持続可能な都市を実現するためには、特に構想段階から都市のレジリエンスを考え、行政・住民・都市開発事業者が共通のビジョンで共通のゴールを持つことが重要だ」と訴えた。
佐谷氏はその上で、都市開発の3つのポイントを説明した。
(1)計画段階から“レジリエンス”を考える:東京の郊外にある越谷市は、周辺を大きな河川に囲まれ、昔から水害に悩まされてきた。しかし、東京の通勤圏で、住宅地を整備するニーズが高まっていたことから、「水と共に暮らす、水と都市が融合した街」を共通のビジョンとして、洪水防止のための貯水池を街の中央に作り、その周辺に住宅や商業施設を整備し、弱点だった水を街のシンボルに変えることができた。構想段階で都市のレジリエンスを考え、特に気候変動対策ともなる「事前防災」の考えを取り入れることは非常に重要だと分かった。
(2)スマート技術で業界横断的に取り組む:デジタル技術を都市開発に集中させることが必要だ。例えば、協力しているバンコク新中央駅周辺では、複数業界の日本企業が勉強会を設置し、異業種の企業の知恵を持ち寄って、課題を解決するソリューションをパッケージ化したスマートシティを提案している。電車やバス、ライドシェアなどの公共交通機関の利用に関するさまざまなデータを一元化し、公共交通の利便性を高めることを目指している。
(3)インクルーシブ:タイは日本と同様に、高齢化が進んでおり、2022年のタイの平均寿命は77.7歳で、2000年よりも7歳長くなっている。われわれが開発する都市では、日常の生活圏内に医療・看護・介護サービスがあり、住宅やその周辺がバリアフリーで、若者や子育て世帯も住むようなコミュニティーを形成している。
また、大成建設常務執行役員・国際支店長の菅原達也氏はタイでの環境技術に関する活動について、「われわれは『T-eConcrete』というタイ産の材料を原料に使用した環境配慮コンクリートの開発に注力している。カーボンネガティブを実現するためには輸送コストを抑えた地産地消が重要になるためだ。また、建物の屋根への太陽光パネル設置は広がっているが、建物の壁面を活用する余地は残っており、日本国内で実績を積み上げている壁面太陽光パネル『T-Green Multi Solar』をタイでも展開しており、施工した工場の壁面への設置実績もある。このほか、タイでのネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)技術の普及や、チェンマイ大学建築学部とのコラボレーションによる学生の生活環境の改善、さらに、焼却処理している稲わらの繊維を建材に転用する技術開発も行っている。大成建設グループが持つ環境関連技術で、タイ社会の環境負荷軽減に貢献していきたい」との意欲を示した。
第二部の政策セッションでは、国土交通省幹部、内閣総理大臣補佐官などを歴任した東京大学特任教授の和泉洋人氏と、ERIAの最高執行責任者の八山幸司氏があいさつに立った。和泉氏は、「21世紀は大都市の時代と言われ、メガリージョンや都市の役割がますます重要になってくるが、都市をめぐっては、環境負荷の増大に加え、個人から地域間の格差まで課題が多い。こうした課題を克服し、サステナブルな都市をつくるためには、官民の垣根や国・都市・セクターを超えた政策対話が必要だ」と述べ、今回のセミナーの意義を強調。またスマートシティについて、「日本の経験や技術がバンコクをはじめ、タイやASEAN各国におけるスマートシティの実現に活かされることを期待している」と訴えた。
続く基調講演では経済協力開発機構(OECD)起業・中小企業・地域・都市センター次長のナディム・アーマド氏が、OECD加盟国の都市と建築分野の脱炭素化の現状と課題を指摘。その上で「スマートシティはデータを基にしているため、政策判断を効率化できる。例えば、より安全なコミュニティー、都市の運営・計画のサポートなどだ。一方、ネット・ゼロの目標を達成するためにはスマートシティの廃棄物管理ソリューションやビル・エネルギー管理システム、交通管理システムなどのネット・ゼロへの貢献が非常に重要だ」と強調した。
次に、バンコク都のチャチャート・シティパン知事が「バンコク:すべての人にとって住みやすい都市」と題して基調講演した。同氏はまずバンコクの課題と強みについて、「バンコクには交通渋滞や不動産販売の低迷などの課題があり、生活の質が低いのが現状だ。しかし、タイの国内総生産(GDP)の33%がバンコクにあり、観光収入の30%もバンコクから来ているという強みもあり、発展余地は大きい」と報告した。
そして、「バンコクは現在、世界の住みやすい都市指数(エコノミスト・インテリジェンス・ユニット=EIU)では世界98位で、生活の質は低いとの評価だ。このため、バンコク都庁(BMA)は生活の質を高める方針であり、9つの主要な政策を通じて、2027年までにバンコクを世界の住みやすい都市ランキングのトップ50位内まで引き上げ、『すべての人のための住みやすい都市』にするのが目標だ。BMAは都市の生産性の向上、生活の質の向上、全ての人々への機会の創出、信頼の構築に集中する。また、日本の政策を参考にして、モビリティー、公園、廃棄物処理、洪水対策の各分野を取り組んでいく」と訴えた。
その上で、「他都市とのコラボレーションが成功の鍵であり、バンコクと日本は協力できることは多く、BMAは日本の協力を歓迎する」と期待を表明した。同知事の講演の後、OECDチャンピオンメイヤーであるつくば市の五十嵐立青市長が登壇し、同市のスマートシティの取り組みなどを報告した。
その後、世界各国の専門家によるパネルディスカッションに移り、「ゼロカーボン住宅、建築及び都市」と「スマートシティにおける包括的な成長」について議論した。 閉会にあたり、バンコク都知事顧問のポーンプロム・ウィキットセート氏が参加者に感謝の意を表明。その上で、「本日は、さまざまな専門家から、バンコクを持続的ですべての人にとって住みやすい都市にするための貴重なアドバイスをいただいた。バンコクの気候変動は深刻化しており、建築分野の脱炭素化は重要だ。また、課題を解決するためにはこれらの知見を現実的な政策に落とし込み、実行していくことも大切だ。そのためにはチャチャート知事が述べたようにコラボレーションが鍵となる」と締めくくった。
TJRI編集部
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