公開日 2023.12.19
TJRI(タイ日投資リサーチ)は10月25日、日本企業とタイ企業の関係を強化し新たなビジネス創出のきっかけづくりを目指すTJRIビジネス・ネットワーキングの第2回として、タイ自動車部品製造業協会(TAPMA)と共催で、日タイ企業交流会を開催した。同ネットワーキングではタイの自動車部品メーカーの現状や、中国の電気自動車(EV)メーカーの進出ラッシュの影響などに関する講演とパネルディスカッション後、交流会が行われた。
同イベントではまず、タイ自動車部品製造業協会(TAPMA)のシラパン・オンアット副会長が基調講演し、「タイと日本は自動車・同部品産業で長年、緊密な関係を築いてきた。タイがアジアの自動車生産拠点になれたのも日本の貢献が大きい。次世代自動車は日本とタイ両国にとって喫緊の課題であり、ともに協力して取り組むべきだ」と呼び掛け、この日の交流会が新たなビジネスのパートナー探しや連携強化つながることを望んでいると訴えた。
続いてタイ自動車部品業界の幹部の講演に移り、まずTAPMAのスポット・スックピサ―ン副事務局長が「今年のタイ国内自動車生産台数は185万台になると予想している。この数字は新型コロナウイルス流行などの危機が発生した年を除き、過去10年間で最低だ。中国から約6万台の乗用車が輸入・販売されたことが原因だろう」と指摘。ただ、「タイ国内の自動車生産は主にピックアップトラックやバスなどが中心で、全自動車市場におけるそのシェアは66%、部品の国内調達比率は約90%だ。一方、乗用車のシェアは約34%で、部品の国内調達比率も40%以下にとどまっている」ため、「中国製バッテリー電気自動車(BEV)の進出ラッシュはタイの自動車部品メーカーに短期的にはそれほど大きな影響を与えないだろう」との見方を示した。
一方、同氏は電気自動車(EV)シフトがタイ自動車部品メーカーに与える影響について、「タイはピックアップ生産ではスケールメリットがあり、生産コストはベトナムより30%低いが、将来的に国内での内燃機関(ICE)車の生産量が減少すれば、スケールメリットに影響を与えるだろう」と指摘。また、「多くのタイ部品メーカーが機械的作業には強みを持っているが、電気・電子関連の技術が不足しており、参入障壁も高いのが課題だ。EVシフトに対応するため、この2つのスキルを同時に伸ばす必要がある。この分野では日本企業がタイ企業を支援できる」との認識を示した。一方で、「部品メーカーはリスク分散のために、鉄道や自動車の交換部品などの新たな市場を模索する必要がある」とアドバイスした。
さらに、「タイは2030年までにゼロエミッション車の生産台数を全体の30%にまで引き上げる国家目標(30@30)があり、タイの自動車産業が変革期を迎えているのは確かだ。しかし、残り70%を『未来のICE』で挑戦していくことが焦点となり、『ユーロ6』対応車やプラグインハイブリッド(PHEV)などのより良いクリーンエネルギーの自動車を支援する対策も必要だ」と訴えた。
続いて、自動車部品大手アーピコ・ハイテックのイェープ・シン・ルー最高財務責任者(CFO)が登壇。「当社は1996年の設立で、2002年にタイ証券取引所(SET)に上場した。タイ、マレーシア、中国などで自動車部品製造、自動車ディーラー、モノのインターネット(IoT)とコネクティビティーの事業を展開している」と会社を紹介した。また、部品メーカーの課題については、「タイ国内の自動車生産台数は年々減少すると予測している。部品メーカーの経費は毎年増えるのに売上高は増えず、コストを削減しなければならないという課題に直面している。タイではコストの上昇分を価格転嫁することが非常に難しい」と指摘。その上で、「タイの部品メーカーは国際市場で競争力のある品質と技術力を持っている。今後30〜50年先を見越した生き残りのためには国内市場だけでなく、適切なパートナーと組んだグローバル展開が必要だ。われわれも米国や日本などの国際市場での事業展開を計画している」とアピールした。
次に講演したキアトナキン・パトラ証券のラタギット・ラプウドムカーン氏は「タイは高齢化社会と家計負債の増加により、新車販売台数が減速傾向にある」と説明した上で、「タイで中国製EVの販売台数が大幅に増加した理由は、タイの人口の75%が50万~100万バーツの自動車が購入できるため、この価格レンジでは中国製EVのモデル数が多いからだ。また、中国とタイはそれぞれのEV支援要因もある。タイでは、①タイは東南アジアでEVの販売台数が最も多い②東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国との自由貿易協定(ACFTA)により、タイでは中国からのEVの無関税輸入が可能③タイ政府の奨励策で補助金の支援がある。一方、中国側の事情では、中国経済が減速傾向にあり、EV在庫が高水準のため、海外の市場を模索さなければならなくなった。現在の中国経済の状況が大きく変わらなければ、中国EVメーカーの輸出攻勢は続くだろう」との認識を示した。
その上で、タイ政府が国内自動車部品産業の支援策について、「タイのICEの付加価値は約54%だが、EV部品は輸入が必要なため、EVがタイ国内にもたらす付加価値は約34%にとどまっている。このため、政府は海外からの投資を誘致すると同様に、タイ国内生産の付加価値を増やす必要がある」と訴えた。
その後、アビームコンサルティングの鵜塚直人氏も加わり、EVシフトへの対応などについてのパネルディスカッションが行われたた。鵜塚氏は、「タイはEVの生産拠点になるために、日本企業でもタイ企業でも構わないが、サプライヤーをまとめて率いるリーダー企業が必要だ。タイ発の『Tier1』EV部品メーカーがアジア市場への進出をけん引していく形もあるだろう」と見方を示した。
TAPMAのスポット氏は「来年、タイの最低賃金は400バーツに上がると予測しており、現政権は最終的に600バーツまで引き上げるだろう。部品メーカーは早急に対応策を講じるべきだ」と助言。「タイは自動車製造拠点として、EVシフトの中で生き残るためには、スケールメリットの強みを維持し、例えばプラグインハイブリット(PHEV)部品の製造もタイで継続すべきだ」と訴えた。
一方、アーピコのイェープ氏は「日本企業はシステマチックな経営管理が特徴だが、保守的な考え方が強い。もっとスピードを上げ、創造性を高めたほうが良いと思う。また、技術開発は他国に比べて遅れたとしても、まず他国にリードしてもらい、後で顧客に対するより適切な対応で追随していく方法もある」と考え方を示した。
TJRI編集部
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