THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2024.06.07
タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。
タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。
タイ商務省による2019年6月の省令(第4号)は、外資規制緩和において、さらに重要な省令となりました。これまでの省令で除外された11事業に加えて、外資規制が適用されないサービス事業として、図表1の通り「グループ会社向けサービス」を定めています。
ここで論点となるのは、本件によって外資規制が緩和される「サービスの内容」の具体的な中身と、適用される「グループ会社の範囲」の2点です。
今回はまず、サービスの内容について、外資企業が許可なく実施できるようになった3つのうち、1つ目の「国内における貸付」からご紹介します。
タイにおいて、余剰資金を他の法人に貸し付けることは、たとえグループ会社が相手であったとしても、「その他サービス業」に該当して外資規制に抵触する、というのが従来の基本的なルールでした。このため外資企業が貸付を行う際には、予め商務省に申請してFBL(外国人事業許可証)を取得しなければならず、申請に要する煩雑な手続きや、数ヶ月を要する審査期間がネックとなっていました。
これに対して2019年の省令第4号では、タイ国内グループ会社向けに限るものの、貸付が外資規制対象から外れ、許可を得なくても実施できるようになりました(図表2)。
上述した手続き上の負担が大幅に改善された点で、画期的な規制緩和といえます。しかしながら、国内グループ会社の定義は限定的であること(次回解説予定)、海外グループ会社向けの貸付は依然として規制対象であること、および下記の事例1、2の通り「貸付」の形態が限定的に捉えられている点には注意が必要です。
【案件番号】2019年11月 No.2
● 案件概要
外資企業O社は、P社・Q社・R社・S社で構成されるグループ会社間での貸付管理(Inter-company Cash Pooling)を進めるために、マスターアカウントの役割を担うことを検討しており、自社は4社いずれとも貸し手・借り手の両方の関係となる。O社は4社に対して、許可なしで貸付を行うことはできるか。
● 商務省の判断
商務省令第4号に照らして、グループ会社に該当するP社・Q社・R社に対しては、許可なしで貸付を行うことができるが、グループ会社に該当しないS社に対しては、許可なしで貸付を行うことはできない。また、「グループ会社間での貸付管理(Inter-company Cash Pooling)を進めるために、マスターアカウントの役割を担うこと」は、外資規制を受ける「その他サービス業」に該当し、許可なしで行うことはできない。
【案件番号】2020年9月 No.2
● 案件概要
外資企業である4社は、同じ外国企業が最大株主である。4社は、外国銀行のタイ国内支店をキャッシュプーリングの管理者として、相互に貸付を行うことを検討しているが、このキャッシュプーリングを許可なしで行うことはできるか。
● 商務省の判断
許可なしで行うことができる貸付には、財務センターとしての役割を含んでいない。これは外資規制を受ける事業に該当し、許可なしで行うことはできない。
出所:タイ商務省資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成 (注)論点整理と明確化のため筆者が内容を一部編集しています
案件概要から察するに、これらの2つの事例は、いずれも同じ照会者によるものと推測されます。事例1でS社がグループ会社と認められていない点については、グループ会社の定義に関する論点ですので次回ご説明します。
ここでの商務省の判断によれば、グループ内での管理であるか、金融機関への委託であるかは問わず、「キャッシュプーリング」そのものが規制緩和の対象とはされていません。商務省の許可が不要となった国内グループ会社向け貸付とは、あくまで単純な貸付のみを指すものであって、キャッシュプーリングを含めた高度な、あるいは派生的な仕組みまでを想定しているものではない、と解釈されます。
このため外資企業としてキャッシュプーリングを行いたい場合は、従来通り商務省から個別に許可を取得するか、または投資委員会(BOI)から財務センター(TC)の機能を含む国際ビジネスセンター(IBC)の認可を取得する必要があると考えられます。
もっともグループ会社向け貸付は、どちらかというと海外のグループ会社向けの方が、実態としても事例が多いように思われます。規制緩和が国内向けに限られているということは、今なお外資企業にとっては制約が残るものです。
ただし、海外グループ会社向け貸付についても、2021年に貿易投資支援事務所(TISO)の一部、もしくは国際ビジネスセンター(IBC)の一部として、BOI認可事業の対象に含まれたことで、実質的に規制緩和が大きく進んでいるといえるでしょう。
これについては機会があれば別稿でご説明しますが、こうした背景を踏まえて、タイにおける外資企業(日本企業)の資金活用手段の1つとして、グループ会社向け融資が大きな関心を集めています。
THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Head of Consulting Division
吉田 崇 氏
東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
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