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公開日 2025.10.22
本講座シリーズは、タイにおける日系企業の人事・組織マネジメントの知識を深め、優秀人材のリテンションとより効果的な組織運営を実現することを目的としています。人事戦略、採用と育成、評価制度、組織文化の変革など、日々の実務に直結するテーマについて学び、議論し、実践に活かすことを目指します。
THAIBIZは9月25日、Asian Identityと共催で「タイ人事マネジメント塾」第三回講座を開催しました。Asian Identityオフィスにて対面で実施した本講座には、大手製造業からITスタートアップまで幅広い業界からの参加者が集い、「適切な給与を正しく払うための評価制度」について学びました。本講座の講師はAsian Identityの中村 勝裕氏および山内 崇氏が務めました。
本講座シリーズは、タイ人事の基礎知識の実例を交えた学習および、参加者同士の“熱いコミュニティ”づくりを目的として、①「人事戦略」、②「人材採用と育成」、③「評価制度と報酬」、④「カルチャー変革」の4つのテーマで4回にわたり開催。本記事では③「評価制度と報酬」をテーマとした第三回の様子をお届けします。
目次
「良い人材を採用してもすぐ辞めてしまう」「給与面で同業他社に流れてしまう」。こういった課題を抱える日系企業は少なくありません。ジョブホッピングが一般的とも言われるタイでは今、給与水準の競争だけに頼らない人材定着のしくみづくりが求められています。
第三回目は、シリーズ最多の24名が参加。タイでの就労1年目の新任者から、10年以上のベテラン駐在員まで幅広い参加者が多数集まり、長年タイに携わる経営者や人事担当者であっても評価制度に難しさを感じているということがわかりました。
セミナーの冒頭で中村氏は、「人事制度は業種や企業規模、組織の成熟度によって設計の形が異なり、正解のない世界である」と説明。一方で評価制度の考え方には共通の原理があり、「自社の状況に合った制度をどう設計するか、そしてその設計思想を地域の文化とどうすり合わせるかが、人事マネジメントの鍵になる」と訴えました。
次に、評価制度をどのように設計し、運用すべきかがテーマに取り上げられました。中村氏はその基本として、①等級(グレード)②評価③報酬の3要素を挙げ、「これらが連動してこそ制度は機能する」と説明。その上で、タイの組織文化に見られる「見えない階層(メンツの文化)」「ハイコンテクスト」「集団主義」などが、評価基準の共有を難しくしていると指摘しました。
続いて、タイでは「等級が多すぎる」「年功的に上がる」といった傾向が見られ、等級運用の形骸化が課題だといいます。そのうえで、「等級は役割(ポジション)とは異なる。この区別が曖昧なまま評価や給与を決めると、制度全体が機能しなくなる。この2つを切り分けたうえで、等級に意味を持たせることが人事制度の土台になる」と強調しました。
報酬設計については、上位層の昇給率はあえて抑えることで長く同じ等級に留まることを防ぎ、成長を促す構造が望ましいと解説。評価制度には「目標評価(パフォーマンス)」と「行動評価(コンピテンシー)」の双方が必要であり、評価にあたっては難易度よりも、会社の戦略と結びつけ「何を期待しているのか」を明確にすることが重要だとしました。
続いて山内氏が、評価制度が機能しづらい背景として「目標設定が形骸化している」「5段階評価で“3”ばかりつけてしまう」といった課題を挙げました。その上で、「なぜ個人が目標を立てるのかをタイ人マネジャーにまず理解してもらうことが重要。個人の目標が会社のゴールにつながることを伝え、KPI設定などを通じて“考える力”を育てる必要がある」と述べました。
セミナーでは、フレームワークを用いた実践的なワークショップも実施。「自分がGMだったら、人事総務マネジャーの立てた目標にどうフィードバックするか」「実際の行動評価シートに点数をつける」など、現場を想定した演習を通じて、参加者それぞれの評価観が交わり、活発な議論が展開されました。
ワークショップの結果を踏まえ、山内氏から評価の際に意識すべき点として、①基準の言語化、②事実に基づいた観察、③良い点と改善点の伝え方をコーディネートすること、④今後への期待を示すためのフィードバックの設計、が挙げられました。
最後に中村氏により、「評価とは、査定のためではなく、育成と信頼のために行うもの。自身の事実観察に基づいた具体的なフィードバックで次の行動を促し、期待しているということを伝えることで、社員は成長できる実感を得られる」といった視点が共有されました。
今回の講座を通じて、「タイ人社員が辞める理由」は必ずしも給与や文化だけではなく、制度設計や運用の“ずれ”にあることが見えてきました。評価制度は、文化を理解し工夫を重ねて運用することで、組織をより強くしていくことができる無限の可能性を秘めているかもしれません。
今回の参加者からは、以下のような感想が寄せられました。
「人事制度のタイにおける、よくある課題や留意事項を学ぶことができた」
「人事評価に悩んでいたが、具体的なポイントと対策をつかむことができた」
「様々な質問に対しても、事例などを交えて丁寧に解説していただけた」
11月21日に開催予定の第四回のテーマは「変化に強い組織になるためのカルチャー変革」です。本講座の最終回となり、制度や仕組みを超えて、社員が主体的に動き出す組織文化をどう築くかを学びます。第一回からの参加者はもちろん、単独受講も可能です。ぜひ組織づくりのヒントを得る機会としてご参加ください。
>>第四回のお申込みはこちら
Asian Identity Co., Ltd. Founder & CEO
株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。YouTubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」を運営。
Asian Identity Co., Ltd., Senior Consultant
株式会社アジアン・アイデンティティー シニアコンサルタント
熊本県出身。一橋大学経済学部/経済学研究科修了。信託銀行勤務を経てデロイト・グループ、楽天株式会社にてリーダーシップ開発や企業内研修の企画・実行、また組織風土改革プロジェクトを推進。楽天を退社後、イギリスへ留学しビジネス・スクールにてHRMを専攻。現在はAsian Identityにて人材開発コンサルタントとして従事。
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、”Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
THAIBIZ編集部
和島美緒
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