パーパスで日本企業は「V字回復」できるのか

THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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パーパスで日本企業は「V字回復」できるのか

公開日 2024.08.09 Sponsered

近年、よく耳にするようになった「パーパス(存在意義)」という言葉。歴史の長い企業は「今さら何だ」と、中小企業は「そんな余裕はない」と、一蹴してきたかもしれない。しかし、パーパスを日本でいち早く導入した先駆者であるグラムコ株式会社の山田敦郎会長は「パーパスの策定で、V字回復した企業や社員エンゲージメントが向上した事例を幾多も見てきた」と明かす。日本企業のプレゼンス低下が叫ばれる今、在タイ日本企業もパーパスブランティングに正面から向き合う必要性がありそうだ。

なぜ、あなたは毎日ベッドから這い出して出勤するのか

パーパスで日本企業は「V字回復」できるのか

経営学者のピーター・F・ドラッカーが「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」の重要性を提唱したことを契機に、日本企業も社是や社訓を「ミッション」に置き換えるようになって久しい。しかし、長い時を経て、このミッションにも綻びが出始めているという。

ミッションとパーパスの違いについて山田氏は、「ミッションは『自分たちは社会やステークホルダーに対して何をすべきか』と使命を自発的に宣言するものだが、徐々に自社の活動とは直結しない、曖昧で他社と似通ったミッションを掲げる企業が増えてしまった。

一方で、リーマンショックの時代に生まれたパーパスは、自分たちの存在する本質的かつ社会的な意義を示すものであり、自社にしか成しえないことを考え抜き策定するものだ」と説明。さらに「WHYから始めよ!」の著者であるサイモン・シネックの言葉を引用し、「なぜ、あなたの会社は存在しているのか。なぜ、あなたは毎朝、ベッドから這いだし、会社に出勤しているのか。この答えがパーパスだ」と、社員一人一人の存在意義にも紐づくことを強調した。

山田氏は、大手総合商社の出身だ。アフリカでの繊維加工工場建設プロジェクト担当者として、物資調達先の一つであるフランスの企業とも仕事をしていた。同氏は「既にブランディングに注力していたフランス企業の打ち出し方や在り方を間近で見て、日本企業との違いに驚愕した。ブランディング戦略という概念を日本にも持ち込みたいと考え、1987年にグラムコを創業した」と当時を振り返る。

その後、500社以上のブランディング支援を手がけ、日本国内で最大の実績を持つブランディング会社に成長した同社は、2004年の中国法人設立を皮切りに、グローバル展開に本腰を入れた。2008年のリーマンショック時代に米国で生まれたパーパスブランディングを、初めて日本に持ち込み普及させたのも山田氏だ。

世界でパーパスが急速に広まった背景について山田氏は、「企業経営の目的が、株主価値の最大化から社会課題解決・持続可能性の追求へと大きく転換したことが最大の要因だ。株主も、ESGで企業を評価するようになった」とした上で、「さらに、SDGsの実現に向けた企業活動を重視するY世代とZ世代が消費者として大きな力を持ち始めていることも大きく影響している」と説明する。

バンダイナムコ:総合エンターテインメント企業のリブランディング。グローバル調査や海外含む社員とのセッションなどで、パーパス「Fun for All into the Future」が完成。思いを視覚表現した新しい吹き出しロゴへ刷新し、パーパスとともに2022年4月より世界展開。

UACJ:古河スカイと住友軽金属が統合し発足したUACJは、世界最大級のアルミニウムメーカー。石原社長(当時、現会長)が旗を振り、2020年新企業理念(パーパス)を制定。グラムコ社は企業理念やスローガン開発、ロゴ、ブランドスタイルの策定に貢献した。

時を超えた基盤としてのパーパス

では具体的に、どのようなものがパーパスと呼べるのだろうか。例えば、グラムコ社のパーパスは「人、組織、世界を鼓動させる。」だ。山田氏は、この言葉の持つ意味を「人々が議論しながらパーパスブランディングに取り組むことで、企業と社員が鼓動する。その鼓動がステークホルダーに伝搬することで、ひいては世界が鼓動する」と説明する。

「鼓動」とは、常に脈動し元気がある状態を意味するそうだ。また、昔ながらの稟議決裁システムや昭和のマネジメントスタイルが残る在タイ日本企業にとっては耳が痛い話かもしれないが、「このパーパスには『脱・JTC(Japanese Traditional Company)』の意味も込められている。世界の最先端に追い付いていない日本の伝統的な企業体質を脱するための支援がしたい」と補足する。グラムコ社のパーパスは、言葉の背景にある想いまで明確に言語化し、日本におけるブランディングの先駆者だからこその存在意義を、唯一無二の言葉で表現している。

また、グラムコ社の支援のもと、2018年に大手日本企業で初めてパーパスを発表した東芝の例も参考になる。同社は2006年以来使用してきたタグライン「Leading Innovation」を廃止し、新たに「新しい未来を始動させる。(We turn on the promise of a new day.)」をパーパスに定めた。「世界をよりよい場所にしたい。それが私たちの変わらない想いです」から始まる表明文の主旨は、「安全でよりクリーンな世界、持続可能でよりダイナミックな社会、快適でよりワクワクする生活を、自社の発想力と技術力で実現させる」というものだ。これまで培ってきたグループ全体の力を明るい未来へと繋げるために、強い覚悟を表したパーパスだ。

山田氏は「企業には、目先の利益だけを考慮した3ヵ年計画や5ヵ年計画ではなく、時を超えた基盤が必要だ」と、長期的な目線でのパーパス策定の意義を強調した。

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THAIBIZ編集部

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