THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意
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公開日 2024.08.09 Sponsered
パーパスブランディングを理解するためには、まずブランディングの本質を紐解く必要がある。山田氏は「ブランディングは企業の価値向上のためにある。いわば、顧客やステークホルダーに選ばれるための戦略だ」とした上で、「ブランディングに成功した企業の製品やサービスには付加価値が生まれ、プレミアム価格で市場に出回る例も多数ある」と解説する。
さらに同氏は「店頭に並ぶカップラーメンの中から、多少値段が高くても、馴染みのある見慣れたロゴが印字されている商品を手に取った、という経験はないだろうか。これこそが好事例だ」と、複数の選択肢の中から自社を選んでもらうためにはブランディングによる差別化が必要不可欠であることを強調した。
「ただし、ブランディングとマーケティングは明確に異なる」と山田氏は続ける。マーケティングは1900年代初頭に生まれた「売るための手法」だ。米国のフォード社が、当時は富裕層しか手に入らなかった新型自動車を、普及価格帯で量産・販売するにあたり顧客への訴求方法を模索。これがマーケティングという概念の始まりだった。
同氏は「マーケティングの前段階として、ブランディングは必ず必要になる」とし、「例えば伊藤忠グループの企業理念『三方よし』のように、商いの根底にある考え方によって、企業価値の向上に努めるのがブランディングだ」と説明する。つまり、「売り方」がマーケティングなら、「在り方」がブランディングであり、ブランディングで高めた製品・サービスの価値があってこそ、マーケティングが生きる、ということだ。
ブランディングにおける留意点の一つとして、山田氏は「スタイルコントロール」という言葉を用いた。現代は広告、CM、ウェブ、店舗、イベントなど、消費者やステークホルダーが企業(ブランド)と接点を持つ場面が多様化している。
同氏は「それぞれの接点の印象が不揃いだと、同じブランドに触れたと理解されずコミュニケーションロスになるだけでなく、企業のアイデンティティークライシスにも繋がる」とし、各接点における印象を揃えること(スタイルコントロール)の重要性を強調した。これは、海外拠点においても言えることだ。日本の本社でブランドを作りあげたなら、それを「自分たちの世界観」として、海外における接点でも印象を揃えて発信する必要がある。
ブランディングの要としてパーパスを据えたものが、パーパスブランディングだ。山田氏によれば、今や、日本国内の売上トップ企業100位のうち、約3割がパーパスを持っている。同氏は「中には『パーパスブランディングは、本当に売上向上に繋がるのか』と懐疑的な意見もあるが、実際にV字回復した企業や業績がアップした企業の事例は多く、データからも有効性が読み取れる」と解説する。
図「パーパス策定による効果」では、パーパス策定を機に収益の増加スピードが4倍になった、株価が12倍に上昇した、といった調査結果が示されている。グラムコ社がサポートしたこれまでのプロジェクトでは、従業員エンゲージメントも軒並み改善されている。2022年に発売された「THE HEART OF BUSINESS(著者:ユベール・ジョリー)」では、米国の家電量販最大手ベストバイが、ネット通販の普及が打撃となり一時は倒産しかけた危機的状況から、全社員を巻き込んだパーパス経営の実践を機に、誰一人解雇することなく会社を立て直したストーリーが描かれている。
山田氏は、「ベストバイの事例からも分かるように、パーパスは経営層だけが考えて策定するのでは意味がない。策定段階から全従業員を巻き込むことが、『パーパスの浸透』という意味でも非常に重要だ」と説明する。例えば、本社から「新たにパーパスを策定したので、タイでも実践せよ」と通達が届いたとして、タイ拠点の駐在員やタイ人スタッフは本当の意味でパーパスに基づいた行動ができるだろうか。
グラムコ社独自のブランディング工程「Gramco BrandOne」では、顧客、取引先、従業員へのヒアリング調査(プレリサーチ)および、従業員を巻き込んだセッションやブランド体系整理(ブランドコンセプト)が欠かせない。
プレリサーチにおいては、独自メソッド「Gramco ImagineCard」を使用する。オンラインで従業員に簡単なアンケート調査を実施し、会社の現状や彼らの本音を匿名で聞き出した上で、今後在りたい姿との差分を分析する方法だ。これがブランディングの土台となる。「策定の段階で、如何に当事者である従業員の意見を吸い上げられるかどうかが要だ」と、山田氏は念を押す。またパーパスの浸透にあたっては、「各部署毎に役割を細分化したアクションプランの策定や、パーパスを体現した従業員を表彰するパーパスアワードの実施なども効果的」だという。
山田氏は「多くの日本企業が進出するタイにも、パーパスブランディングの重要性を伝えたい。そして一人でも多くの人、一つでも多くの組織を鼓動させ、世界を明るくしたい」と今後の展望を語った。企業価値の向上、売上の促進、従業員エンゲージメントの向上など、あらゆる面で効果を発揮するパーパスブランディング。存在感が低迷している在タイ日本企業にとっても、「今さら何だ」「余裕はない」と言って跳ね除けられるほど非力な存在ではなさそうだ。むしろ低迷しているからこそ、現状打破のための「飛躍台」となりうるのではないだろうか。
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ブランド構築で日系最多の実績を持つ専業ブランディングファーム。1987年設立。調査分析・戦略立案、コンセプト構築から、ロゴ・シンボルの開発、スペースブランディングまで、ブランディングに関するサービスをワンストップで提供している。出版書籍に「パーパスのすべて」(中央公論新社)などがあり、年内にも国内大手出版社からパーパスブランディングの具体事例を含む書籍を出版予定。
ABC HORIZON PTE. LTD. [Web]
(東南アジア代理店)
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THAIBIZ編集部
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