THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意
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カテゴリー: 対談・インタビュー, 特集, 食品・小売・サービス
公開日 2024.08.09
目次
タイの国内総生産(GDP)の約10%は農業により、その一つが生鮮フルーツと農産加工品で、以前からタイの特産品となっている。その中でも代表的なブランドといえば、タイ王室財産管理局(CPB)傘下で「王室プロジェクト」の農産品を利用したジュースやドライフルーツなどの加工食品で知られるドイカム(Doi Kham)だ。
タイ在住者やタイに旅行で訪れたことのある人なら、コンビニやスーパーマーケットで一度は目にしたことがあるだろう。ドイカムはどのようにして誕生し、商品をヒットさせたのか。同社の歴史やブランド戦略などを探る。
タイ北部の山岳地帯の農家は、かつて貧困により麻薬の一種であるアヘンの原料となるケシ栽培で生計を立てているという問題があった。この問題を解決するため、1972年に故プミポン前国王(ラーマ9世)が農家に代替収入源を提供するために、農家から農産物を購入し、製品開発・加工を行う「ロイヤル・フード工場」を開設した。これがドイカムのはじまりだと言われている。
その後、1994年に「ドイカム・フード・プロダクツ」として法人を設立し、現在まで農産加工業を展開している。同社は、地元の農家を支援することを目的とした社会的企業で、工場は農業が盛んなチェンマイ、チェンライ、サコンナコーン県の3ヵ所にあり、工場周辺の農家から農産物を直接購入し、それらを使用したさまざまな農産物加工品を製造している。
例えば、ドライフルーツや野菜(果物)ジュースなどの健康的な商品が広く知られているほか、ジャムや蜂蜜なども製造している。
同社の知名度を一気に上げることなった要因は、タイ最大のオンライン掲示板「Pantip」で消費者の口コミで流行りはじめたことだ。さらに、2016年にはSNS上で同社のトマトジュースは「肌に栄養を与える効果がある」という話題が拡散されたことも後押しした。
これを機に、同社はまずブランドロゴやパッケージをリニューアルし、時代遅れのイメージからモダンなイメージへ刷新した。当時、顧客は35歳以上の健康志向の人が大半だったが、チャンスを的確に掴み、リブランディングを行なったことで新たな顧客層の拡大にもつながり、現在の地位を築いた。
2023年7月、タイ紙クルンテープ・トゥラキットによると同社のトマト加工食品の売上高は引き続き伸びており、トマトジュースは売上高の第1位で、果物ジュース全体の売上の90%以上を占めている。
同社のブランディング戦略では、健康的なトマトの加工食品を主力商品にすることで、「ドイカムのトマトは、ただのトマトジュースではない」というブランドイメージを顧客に認知させることだ。この戦略が功を奏し、同社は継続的な成長ができたという。
現在、同社はケチャップやドライトマトなど、トマト製品の種類を増やしている。その他にも、プレミアム果物ジュース、ドライマンゴーやドライストロベリーなど、23の商品グループで220以上の商品があり、タイ全国に直営店を30店舗以上展開している。
さらに2024年5月には、ホテルやレストラン向けに業務用の濃縮果汁やパン用スプレッドなどの「ドイカム・プロフェッショナル」を発売しており、継続的な新製品開発のみならず、新規販路開拓にも力を入れていることがうかがえる。
ドイカムは北部地域の農家の貧困の課題を解決することを目的にはじまった事業で、トマト事業で大成功をおさめた今もその理念は脈々と受け継がれている。タイ東北部には「トマトベルト」と呼ばれる農業地帯があり、ここではドイカムが農家にトマトの栽培方法を指導し、毎年1万5,000トンものトマトを市場価格よりも高い価格で買い取り、利益を農家に還元している。
また、奨学金制度やインターンシップで地域の若者を支援しているほか、より高度な栽培技術の実証やノウハウ移転も推進している。タイはさまざまな農産物に恵まれており、このように農産物の付加価値を高め、タイの強みを活かした事業はタイ社会の持続可能な発展にも寄与している。
一方で、企業や商品のブランディングには寿命があるが、時代の流れやトレンドに合わせて、自社のサービスや商品を再構築すること、いわゆるリブランディングは、社会的企業である同社にとっても持続的な成長には欠かせない重要な戦略の一つであるといえる。
過度な食品添加物やフードロスが問題となる中、ドイカムは故プミポン前国王が提唱した「足るを知る経済」思想を軸とした事業展開とマーケティング戦略で、「軸ブレしない経営」を変わらず続けている。「変化しない=古い、未開拓」という捉え方もあるが、別の見方をすれば「時代に流されず、無駄な動きがなかった」ともいえる。
一方で、同社のマーケティング戦略では、サイモン・シネック氏が提唱しているゴールデンサークル理論の「Why(なぜするのか)」が明確で、「ドイカムの商品を買うことで直接農家の支援につながる」という信念が消費者に浸透している。
同社の消費者に媚びない信念やユニークな広告はたびたび話題を呼んでいる。最も話題になった広告が「ドイカムからの謝罪文」だ。トマトジュースの味が「大半の消費者の口に合わない」ことを認めた上で、「トマト本来の味に手を加えずに届けたいから、この味だ(余計な添加物を加えていない)」というキャンペーンを展開し、この逆説的なアプローチが話題を呼んだのだ。
その後も誠実さを押し出したキャンペーンを続け、新たな顧客層にも認知を広めている。近年は、フルーツを加えて飲みやすくしたトマトジュースや、ジュースを凍らせたアイスなど10代の学生やさらにその下の層をターゲットとしたポップなパッケージの商品も続々と発売している。
THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意
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THAIBIZ編集部
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