カテゴリー: ビジネス・経済
連載: THAIBIZ NOW
公開日 2024.12.11
本記事の解説動画をYouTubeにアップしています。併せてご覧ください。
11月5日に投開票が行われた米大統領選挙で、ドナルド・トランプ氏が圧勝で再選を果たした。この結果を受け、世界経済やビジネス環境は大きく影響を受ける可能性が各国で取り沙汰されている。タイにおいては、政府やシンクタンクが来年以降の対米関係のマクロ経済に対する見通しを発表しているが、対中関税の引き上げにより、中国製品のさらなる大量流入への懸念の声が広がっている。本稿では、タイメディアで取り上げられている有識者の見解などから、トランプ2.0がタイ経済に与える影響について考察する。
タマサート大学東アジア研究所のノパドン・チャートプラサート博士は、タイ地元メディアで米国の東アジアに対するスタンスについて、「米国は第二次世界大戦後から東アジアにおいて『バランサー』としての役割を果たしてきた」とし、「安全保障面では、1947年の日本国憲法起草への関与や、ソ連と中国に対する朝鮮戦争での戦いが挙げられる。
中国に関しては、現在は米中対立等の問題はあるが、国民党が率いる『中華民国』時代、孫文の革命の遺産に対して全面的な支援を行なった。そのため、米国の指導者が交代しても、同国が長年築いてきた『東アジアをサポートする姿勢』は変化することはないだろう」と持論を展開した。
同博士は東南アジア地域について、「ASEANという枠組みはあるが、実際には非常に脆弱で、各国は互いに競争関係にある。そのため、トランプ政権後の米国の変化にどのように対応できるか、国ごとに検討する必要がある」とした上で、「インドネシアとベトナムが最も準備が整っている。インドネシアはG20のメンバーであり、国内市場も十分な規模がある。
一方ベトナムは、最も多くの貿易協定を結んでいるため、生産・輸出拠点として機能することができる。マレーシアもハイテク分野における人的資源という強みを持っている」と分析した。さらに、「タイはこれらの国々と何で競争していくのかを慎重に検討する必要があり、利益を重視するトランプ氏の考え方では、タイが重要視される可能性は極めて低い」と指摘した。
タイ政府は長年、産業の高度化を目指し外国直接投資(FDI)を経済政策の一つとして推進している。最近では米国のAWSやMicrosoftに続き、Googleもデータセンターの建設に360億バーツの投資を発表し、タイ社会で話題を呼んだ。これに対し、タイのEコマース業界のパイオニアとして知られるパーウット・ポンウィタヤパーヌ氏は、「データセンター事業は多額の設備投資を必要とするが、その収益の大半は海外のテクノロジー企業へ支払われ、タイの経済へ与えるインパクトは少ない。さらに運営も少人数で可能なため、現地の雇用創出効果も限定的だ」と警鐘を鳴らしている。
商務省は、トランプ次期政権の影響として、「トランプ氏は『米国第一主義』を掲げており、内向きの優遇政策が進めば、米国企業のタイへの投資の減少が予測され、ハイテク産業を中心にタイへの技術移転や技術開発に影響を及ぼす可能性がある」とする一方で、「対中関税引き上げに伴い、米国企業が中国からタイに生産拠点を移管する可能性があり、タイにとって新たなチャンスとなり得る」と示唆している。
これまでの歴史から見ても、タイ政府は今後も全方位外交を堅持することは間違いないだろう。その中で米国の利益重視政策にどう対応するかは、注視していく必要がある。タイが競争力を維持するためには、産業の高度化やインフラ整備をさらに推進し、近隣諸国との差別化が不可欠である。特に、FDI政策においては一時的な設備投資に留まらず、現地経済に持続的な効果をもたらす構造づくりが求められる。
一方で、日本企業がタイで今後も事業を展開していくには、実質的に経済政策を舵取りしているタイの官僚とのパイプ作りが重要であり、常に最新の情報を入手しながら、タイ市場での戦略を再構築できる体制を整えておく必要がある。
Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の2009年にメディエーターを設立。日本政府機関や日系企業のプロジェクトをコーディネート。日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナーを実施(講演実績、延べ12,000人以上)。
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