脱「コピー天国」に向けて 知的財産 最新情報(後編)

ArayZ No.77 2018年5月発行

ArayZ No.77 2018年5月発行知的財産 最新情報(後編)

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脱「コピー天国」に向けて 知的財産 最新情報(後編)

公開日 2018.05.21

知財制度に関するセミナー開催
(日系企業向け、政府機関向け、現地人向け)

日系企業のタイ駐在員向けセミナーなどを不定期で開催しており、今後も各種セミナーを実施していく。2015年11月にはタイ商務省知的財産局との共催で「タイ営業秘密セミナー」を、2017年6月には政府機関向け「タイ真贋判定セミナー」を開催した。有益な内容であったため紹介する。

タイ営業秘密セミナー

法的保護に欠かせない契約書と
適切な管理

タイ知財局法務官より「営業秘密法」について解説頂いた。営業秘密の範囲としては、製造ノウハウだけでなく特許出願前の実験結果や従業員のトレーニングマニュアルなど幅広い情報が該当すること、コンピュータの普及や従業員の転職が容易なことから、営業秘密が流失し易くなっていること、営業秘密と見なされる要件は、一般に知られていない情報で商業的価値のあるものであることに加え、契約書などの営業秘密を含む文書を金庫に入れるなど、企業が適切な管理をしていることが法的保護を受けるためには必要とのこと。外部の者が容易にアクセスできる場所に情報を保管していたケースや、図面による製作発注で契約書が作成されていなかったケースなどでは、営業秘密の侵害の訴えが却下された事例があり、法的に営業秘密と認められるには、適切な管理や守秘義務を盛り込んだ契約書の作成が重要である。

また、営業秘密が侵害された場合の法的措置として、民事訴訟において仮使用差し止め請求や損害賠償請求を行うほか、過去に例はほぼないものの、刑事訴訟を起こすことも可能とのことだ。

侵害に対する訴訟は実務上困難

次にTilleke&Gibbins法律事務所より、「営業秘密法による法的保護を受けるための実務上の問題点」を解説頂いた。明確な委託契約がない場合は、営業秘密の所有権は会社ではなく、社員に属し、親会社のノウハウなどを活用している場合には、所有者が不明確になるという。営業秘密であるかどうかは、適切な管理手段を取っているかがポイントであるが、何が適当な手段かは法律に定めがなく、曖昧とのこと。営業秘密の管理については、(1)物理的なセキュリティーとして、一般の人が簡単にアクセスできないようにしているか、アクセス制限を行っているか、(2)電子上のセキュリティーとして、パスワードによるアクセス権限などの設定、データトラフィックの保持などを行なっているか、(3)営業秘密である証明として、秘密保持契約の締結があるか、などが法的な判断ポイントになるとのことだ。

営業秘密の侵害があった場合の措置として、民事訴訟は証拠集めの手間や証明の困難さ、認められる賠償額の少なさなどから効率が悪く、一方で刑事訴訟は警察を巻き込むことになると述べた。例えば、機械製作に関わる営業秘密が侵害され、同じ様な機械が作られた場合、侵害された営業秘密がその機械の中でどう使われているかを証明するのは極めて困難だ、とした。ほかの実務上の問題として、開発中の製品に関する営業秘密については商業価値を証明することが困難な点も挙げた。

また訴訟になれば、その過程で多くの営業秘密に関する情報を提出しなければならず、相手側(ライバル企業)の知るところとなるため、訴訟にしない方が企業としては損害が少ない、と断言した。なお、営業秘密の侵害に対する訴訟は平均4年、証人は20人程度必要、損害賠償額に比べ費用は高額、とのことだ。

訴訟は最後の手段で、企業にとって価値のある情報は何で、それをどう保護するのか、が重要だという。例えば、分解・解析が容易で仕組みや仕様などが分かりやすいものは特許を取得して保護する一方、そうでないものは営業秘密にするなどの対策が考えられるとしている。

管理システム構築や
従業員教育が重要

最後に民間企業を代表して、サイアムセメントグループより、企業が付加価値の高い製品を生み出すために研究開発がより重要となっており、営業秘密の管理の必要性が増している、と前置きして、同社の「営業秘密管理の取り組み」を紹介頂いた。

同社は2009年に営業秘密などの情報管理システムを導入したという。営業秘密の管理においては社内の手順を定めることが特に重要とし、情報に対して、社内向けか公表していいものか、営業秘密かどうか、アクセス権はどうするかなどの格付けを行っていると述べた。具体的な秘密の保護策として、複製(コピー)の管理や、誰に複製を渡したか、いつ廃棄したかなどの記録の徹底を挙げ、企業の取り組みとしては、秘密が漏れた場合にどのような損害が会社に生じるのかについて繰り返し教育する必要があり、企業がそれぞれ管理システムを構築しなければならない、とした。

営業秘密の保護が難しい事例として、営業秘密を管理していない外注先から新しいパッケージの情報が漏れたケースを挙げた。

新しい技術が開発された場合に、それを特許とするのか、営業秘密にするのかについては、その技術に商業的な価値があるかどうかだとし、特許を出願するにしても最小限の情報にし、重要な部分を保護するのが企業の基本的な戦略だとした。同氏は、そのことを「料理のレシピが分かっていてもプロと同じようには作れない。レシピには書いていない、細かい多くの技術があるからだ」と例えた。


△セミナー講師としてタイ知財局法務官、大手法律事務所の弁護士らを招聘

政府機関向け
タイ真贋判定セミナー

ジェトロと日本経済産業省による共同開催により、タイで4度目となる真贋判定セミナーをバンコク及び今回初となるラオス国境のムクダハンにおいて開催した。
同セミナーはタイの執行当局が模倣品の取り締まりを効率的に実施することができるよう、日系企業から模倣品と真正品の判定手法をプレゼンテーションするものである。セミナー会場では、日系企業が模倣品と真正品とを比較展示し、実物を見せながらその違いを当局に説明することで、当局関係者の理解促進を図っている。

バンコクでのセミナーでは、日本から過去最多の11社1団体が参加し、当局としてタイ知的財産局(DIP)、タイ税関、特別捜査局(DSI)、経済警察(ECD)、検察局(OAG)などから約100名が参加した。ムクダハンでの開催には、日本から8社が参加、ムクダハンを含むタイ東北地域の税関からは約30名の税関職員が参加した。大手スポーツ用品メーカーや大手服飾メーカーをはじめタイで人気の高い日本企業が一堂に会する機会だったこともあり、メディアの関心も非常に高いものとなった。当局からは、同セミナーを税関職員の真贋判定技術の向上につなげ、より一層、模倣品撲滅に向けて取り組んでいく旨が述べられた。

模倣品を効率的に取り締まるためには、水際措置、すなわちタイ国内に流入する前にタイ税関によって差し止めてもらうのが望ましく、税関に対し真贋判定情報を伝えるには同セミナーなどを通じて、直接税関職員に繰り返し伝えなければならない。また、税関職員は定期的に異動してしまうため、真贋判定セミナーに参加した当局職員に提供した情報が、他の当局職員に対しても十分に共有されるような仕組み作りを検討していく必要がある。本セミナーは今後も継続して開催していくので、参加希望などご質問はジェトロ知財部まで。

△セミナーの様子
△ブース展示の様子

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THAIBIZ編集部

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