公開日 2024.08.06 Sponsered
東京都中小企業振興公社(Tokyo SME)タイ事務所は7月23日〜26日の4日間、オンラインにて「Tokyo SME ビジネスウィーク2024」を開催した。本イベントは、新規駐在員やタイ進出を検討する経営者のビジネスの一助となることを目的として、2022年より毎年開催されており、今年で3回目だ。タイでの企業経営における留意点や業界最新動向を専門家らが現場目線で解説した。4日間で267名が参加し、参加者から78件の質問が寄せられるなど高い関心を集めた。
目次
1日目は、タイでビジネスを行う上で押さえておくべき人事・労務の基礎知識や、トラブルの対応方法について事例を交えた解説が行われた。
第1部
タイ日系企業からの”法律相談あるある”と対処方法
~採用・評価・解雇・裁判など タイで最低限抑えるべき法律について~
講師
ONE ASIA LAWYERS (THAILAND) CO., LTD.
日本国弁護士
藤原 正樹 氏
まずOne Asia Lawyers (Thailand)の藤原正樹氏が講演を行い、タイの労働法に基づき最低限押さえるべき基本情報(労働時間・休暇・賃金・解雇等)と、日本人駐在員が留意すべきポイントについて、日本の法律・慣例と比較しながら解説した。また、従業員の解雇時の注意点や横領・着服が判明した際の対処法について、よくある相談事例をもとに説明した。
第2部
タイ日系企業からの相談事例から見る人事労務のい・ろ・は
~トラブル対応や人手不足解消・社員定着に向けたポイント(昇給・インセンティブ付与等)~
講師
TOYO BUSINESS SERVICE PUBLIC CO., LTD.
益雪 大助 氏
第2部では、TOYO Business Serviceの益雪大助氏が、在タイ日系企業が共通して持つ悩みやトラブルと対処方法を解説した。よくある相談項目として①人材採用・育成、②昇給・昇格、③休暇・福利厚生、④罰則・解雇を挙げ、事例をもとに対策や予防策を紹介した。同氏は、こうしたトラブルは、「経営者自身が模範となることを忘れ、現場 (職場・取引先・経営環境)の変化を見過ごしていることに起因する」と指摘し、「従業員とのコミュニケーションを意識的に取ることに加え、外部機関や仕組みを上手く活用し環境を整えることが重要である」「問題を発見した場合は、早めにわれわれ相談員を頼っていただければ」と呼びかけた。
2日目は、タイ進出の手段の一つであるM&Aによる参入について、全体像から中小企業が理解しておくべき注意点 、財務デューデリジェンスで確認する実務上のポイントなどについての講演が行われた。
第1部
タイにおける中小企業にとってのM&A戦略・留意点
講師
YAMADA Consulting & Spire (Thailand) Co., Ltd.
吉越 廉朗 氏
YAMADA Consulting & Spire (Thailand)の吉越廉朗氏は、タイにおける日系企業のM&Aについて、「合弁やアライアンスを通じた市場参入から、最終的にM&Aに至るケースがある。」とコメントした上で。「特に成長〜成熟期の企業の場合、何らかの取引関係にある企業とのM&Aが多い」「スケールメリットを狙った水平型とバリューチェーン強化を狙った垂直型のM&A戦略に分類される」と外観した。また、タイ特有の規制や法律についても解説し、「現地パートナーや買収候補先選定においては、①現地パートナーの資金力、②業界での経験値・実績、③事業方針の整合制、④現地ネットワークの確認、⑤経営理念の共感—の把握が成功の鍵となる」と強調した。
第2部
タイにおけるM&A財務デューデリジェンス(FDD)
~現場から見た良くある検出事項と対応策~
講師
BIZWINGS (THAILAND) CO., LTD.
公認会計士
倉地 準之輔 氏
続いて、BIZWINGS (THAILAND) の倉地準之輔氏は、タイでのM&Aに付随する財務デューデリジェンス(FDD)において、売掛債権の貸倒引当金計上不足や棚卸資産の滞留在庫引当金計上不足、関連当事者取引など、「よく検出される12のリスク事項に関する問題点および対応策」を解説した。また、FDDを実施する上で「タイ特有の会計実務や税務リスクをある程度想定した上で臨むことが重要」と解説し、これらの課題を対処するためには「現地の専門家を活用し、タイのFDDに詳しい人とチームを編成することが、M&A交渉の成功に繋がる」と強調した。
Tokyo SMEでは今回登壇した相談員による現地経営相談を無料で行っております。タイにおける企業経営や現地進出に際するお困りごとは、お気軽にご相談ください。相談予約は以下より受け付けております。
3日目は、タイ工業団地における各国の入退去状況や、国際情勢から見る日系製造業の将来展望、さらに生産性向上に向けた対応についての講演が行われた。
第1部
タイ工業団地への各国入居状況と日系企業の動向
講師
Rojana Industrial Park Public Co., Ltd.
Manager
大西 宏佑 氏
ロジャナ工業団地の大西宏佑氏は、タイ国内の同工業団地8ヶ所における各国企業の入居状況について、「4年前は日系企業の比率が約50%を占めていたが、現在は中国企業の進出が増え、日系企業の比率は35%に減少している。」「地域別では投資が中部エリアと東部エリアに集中しており、中部ではプリント基板(PCB)産業、東部では中国のEV産業の進出が際立つ」と概観した。日系企業の進出状況については、「工場の集約が進んでおり、拡張案件が全体の約80%を占め、新規進出は限定的」と紹介した。
また、ロジャナ工業団地では、「経済産業省の事業(グリーン水素活用の調査)を開始するなど、市場や環境の変化に対応しさまざまな分野での新規事業にも力を入れている」とし、「日タイで協業できるアイデアやスキームがあれば、ぜひ連絡をいただきたい」と参加者に呼びかけた。
第2部
タイ製造業の将来展望と生産性向上に向けた日系企業の現場改善について
講師
JMAC (THAILAND) CO., LTD.
シニアコンサルタント
寺田 厚 氏
JMAC (THAILAND)の寺田厚氏はまず、タイの製造業の現状について「タイは『タイランド4.0』で先端技術を推進し、自動化機械設備やロボット産業の促進、スマートエレクトロニクス(電気・電子)産業の強化、EV産業の強化に注力している」と概観、在タイ日系企業の課題として「人材不足や自動化への取り組み」を指摘した。特に「自動化を推進する上で高度人材は必要不可欠であるが、その課題を解消するには自社での教育や人材育成が鍵となる」と訴えた。また、生産性向上の向けた現場改善のポイントとして、「改善対象の見極めや、目標設定・進め方の手順、評価と褒章など」を挙げ、事例を交えながら解説した。
最終日は、都産技研バンコク支所の事業紹介と、タイにおける環境・気候変動対策技術の動向と関連産業・ビジネスについての講演が行われた。
第1部
都産技研バンコク支所の紹介
講師
地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (TIRI) バンコク支所
支所長
川口 雅弘 氏
東京都立産業技術研究センター (TIRI) バンコク支所の川口雅弘氏が、TIRIのサービスについて紹介した。TIRIバンコク支所では主に、「技術支援と情報発信・交流促進の二本柱で、タイに進出している日系企業の技術的課題を解決するための支援を行っている」と説明。また、「TIRIとTokyo SMEは、共に東京都が運営する団体であり、技術支援と経営支援の相乗効果を活かして、日系企業の包括的な支援を目指している」と訴えた。
第2部
タイにおける気候変動対策の動向と関連する産業・ビジネス
講師
ECMS LTD.
Managing Director
北村 淳 氏
ECMSの北村淳氏は、タイの気候変動対策の動向として、「2023年の温室効果ガス排出量は、前年比2.4%減の2億4,400万トンで、エネルギー部門と輸送部門、工業部門が排出量の大部分を占めている」と指摘し、「タイ政府は2050年までにカーボンニュートラルを達成、2065年にはネットゼロを目指している。2022年にはカーボンクレジットの取引所が開設され、2025年からは炭素税の適用も開始予定だ」と概要を説明した。
また、「環境対策に積極的に取り組むタイ企業も増えており、特にPTTやSCGなどの大手企業はその取り組みがグローバルでも評価されており、ESGを活用してうまくビジネスに繋げている」と述べた。さらに、カーボンニュートラルを実現するための施策として、「①温室効果ガス排出量の見える化、②省エネ、③グリーンエネルギーの創出・購入、④カーボンオフセット—の4つのステップがある」とし、それぞれ具体例を挙げながら解説した。
最後に、タイにおける脱炭素ビジネスについて「採算性が重要視されるため、便利なサービスであれば短期間でマーケットが一気に変わる可能性もある」とコメントし、脱炭素ビジネスのチャンスを示唆した。
THAIBIZ編集部
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