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公開日 2026.02.23
タイでは生産年齢人口の減少が深刻化する中、産業高度化をどのように達成すべきかが社会課題の一つとなっている。この課題を解決するため、東京都中小企業振興公社(Tokyo SME Support Center、以下、東京公社)は1月29日、東京都立産業技術研究センター(TIRI、以下、都産技研)、およびタイ王国工業省産業振興局(DIPROM)と共催で、「日タイ企業交流会2026」を開催した。
近年急速に進化しているAIなどの革新的なテクノロジーを活用し、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)に取り組むスタートアップに焦点を当て、日タイ企業による新たな価値創出を目指すものだ。本稿では、その様子をレポートする。
目次
まずイベントの冒頭では、タイ工業省産業振興局(DIPROM)のドゥシット・アナンタラ副局長が挨拶に立った。同副局長は、世界経済の変動や自然災害、消費者意識の変化などを背景に、企業が生き残るためには従来のビジネスモデルを見直し、産業構造を変革していく必要があると指摘。
また、タイ政府が掲げる「Thailand 4.0」の下で、高付加価値型経済への転換を進める上では、人工知能(AI)やデジタル技術は単なる付加要素ではなく、コスト削減や業務効率化、さらには持続可能性を実現するための不可欠な基盤であると強調した。

次に登壇した、東京公社の中西充理事長はまず、東京公社タイ事務所が2015年12月の開設から10周年を迎えたことを報告。同所は、これまでの10年で3,000件を超える経営相談、5,000件を超えるビジネスマッチングを支援し、日タイ企業の連携を後押ししてきたという。本イベント会場に集まった約300人の参加者に対し、登壇するスタートアップ10社とのネットワーキングを通じて、活発な情報交換を行い「協業の種」を見つけてほしいと呼びかけた。

続いて、都産技研の黒部篤理事長が登壇。同センターバンコク支所も2015年4月の開設から10周年であることを述べ、東京公社が経営面、都産技研が技術面を担い、両機関が連携することで、企業が「技術と経営のワンストップ支援」を受けられる体制を構築してきたと説明した。

また、同所が開催するセミナー受講者は現在、4人に1人がタイ人技術者となるなど、現地スタッフへの技術普及も進んでいることを報告。今後も両機関が連携しながら、日タイ企業のオープンイノベーションを支援していく考えを示した。
午前の部では、タイ工業省産業振興局、都産技研に加え、日タイのテクノロジー企業2社が登壇し、パネルディスカッションが行われた。
AIテックグループのクルチョーク・ポッパタナチャイCEOは、「AIで知能化し、DXでつなぎ、その結果としてGXを実現する」というフレームワークを提示。GXは報告書作成ではなく、製造現場のプロセス改善から始まるものであり、現場データの可視化による効率化が不可欠だと述べた。
ハドラスホールディングスの小林善幸氏は、超親水・遮熱・抗ウイルスといったナノコーティング技術を紹介。雨で汚れを落とすセルフクリーニング効果や室温上昇を抑える省エネ効果を通じ、タイの社会課題解決と現地生産・輸出を目指す方針を語った。

パネルディスカッションでは、DX・GXを軸とした日タイ連携の現状と課題、今後の可能性についての議論も行われた。
都産技研の黒部理事長は、メッキ加工のAI化や土砂崩れ予知センサーなど、これまでの技術支援事例を紹介した上で、技術相談は無料で、アイデア段階から製品化まで一貫して支援していると説明した。また、単一技術ではなく、複数の要素技術を組み合わせて社会課題の解決につなげることの重要性を改めて強調した。
これを受け、タイ工業省産業振興局のドゥシット副局長は、「Thailand 4.0」に基づき、OEM中心の産業構造からイノベーション主導型経済へ転換していくためには、AIやデジタル技術の導入が不可欠であるとの認識を示した。一方で、タイの中小企業ではDXの理解度がまだ十分とは言えず、ツール導入に加えて、社内の理解あるチームづくりやERPなどの基盤整備が重要だと指摘した。
また、ハドラスホールディングスの小林氏は、日本企業の海外展開におけるスピード感を課題として挙げ、タイ企業の方が意思決定や実行が早い場面も多いと、現地での経験を共有した。
今後の連携の方向性について、AIテックグループのクルチョーク・ポッパタナチャイCEOは、日本の技術力と信頼性、タイの実装スピードと市場適応力を組み合わせることで、ASEAN市場全体への展開が可能になると提言した。
午後の部では、AIやデータ分析を活用し、労働力不足の解消や産業高度化(DX・GX)に取り組む日タイのスタートアップ10社が登壇した。各社の提案は、人間の感覚や判断をデジタル化・自動化する点に共通点が見られた。

Hutzper(日本):製造現場向けの画像認識AIにより、熟練工の目に頼っていた外観検査を自動化する。
MUI Robotics(タイ):電子嗅覚・味覚(AI鼻・AI舌)により、においや味をデータ化し、品質管理やレシピ開発を支援する。
Open8(日本):自然言語処理と画像解析AIを活用し、企業の知識や情報を「伝わる動画」に変換する。
MOBILE INNOVATION(日本):映像AIと音声プラットフォームを連携させ、現場への指示出しやモニタリングを自動化する。

R&D BI(タイ):組織の健全性や収益状況をリアルタイムで分析し、データに基づく意思決定を支援する。
WISESIGHT(タイ):消費者の声を収集・分析するデータアナリティクスにより、潜在ニーズを可視化する。
Doppio Tech(タイ):ソフトウェアテストを自動化し、開発プロセスの高速化とコスト削減を実現する。

eMotion Fleet(日本):商用車のEV導入支援と拠点の脱炭素化をワンストップで提供し、GXを推進する。
FingerVision(日本):視触覚センサーにより、ロボットに「指の感覚」を持たせ、繊細な盛り付け作業などを可能にする。
iCreativeSystems(タイ):ドローン(UAS)技術により、測量・点検・輸送を自動化し、低空域経済の可能性を提示する。
これらのスタートアップはいずれも、単なる技術提供にとどまらず、日タイ企業同士の連携によるオープンイノベーションを通じて、新たな価値創出を目指している。
本イベントを通じて、AI・DX・GXを軸にした日タイ連携の具体像と可能性が共有された。
東京公社は、こうしたオープンイノベーションを促進する場として日タイ企業交流会を毎年開催しており、今後も持続的な共創を後押ししていく方針だ。10周年という節目を迎えた今回の交流会は、次の10年に向けた日タイ産業連携の新たな一歩となった。


THAIBIZ編集部
和島美緒

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