AECで何が変わる!? ASEAN物流網の課題と展望

AECで何が変わる!? ASEAN物流網の課題と展望

公開日 2016.02.18

残された課題〝非関税障壁・措置〞

ATIGAの規定において、非関税障壁に関する部分を見ると、①非関税障壁・措置に向けたASEANの取り組みは、スタンドスティル(貿易的制限措置を新たに導入しない)および、ロールバック(既存の貿易制限措置を段階的に削減・撤廃)を原則とする、②ATIGAの定める非関税障壁の撤廃期限(目標)はタイ、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、インドネシアについては2010年、フィリピンは12年、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムは15〜18年、③ATIGAの条項により、各国が新たな非関税障壁を導入する場合、もしくは既存の措置を改定する場合、高級経済事務レベル会合(SEON)、およびASEAN事務局に通報(発効の60日以上前)する必要がある―と定められている。しかし、これらの撤廃期限を過ぎても非関税障壁に該当する多くの貿易制限措置が残存。
また、ASEANの一部の国では、関税削減に反比例する形で強制規格(鉄鋼製品など)導入や、輸入ライセンス制度の運用強化、アンチ・ダンピング措置の発動増加などの事例がみられている。新たな措置の導入における60日以上前のASEAN事務局への通告義務も遵守されていない。とりわけ問題視されているのが、インドネシアやフィリピン向け輸出における船積み前検査要求、インドネシアの鉄鋼製品に対するインドネシア規格(SNI)の取得義務付けなど、アンチ・ダンピング措置の濫発(国内品と競合しない製品も対象に含む)などがある。
「関税などと異なり、非関税障壁には明確な定義がなく、撤廃すべき措置の特定が困難です。また、撤廃に向けた取り組みは各国内の措置に委ねられているため、国内法や規制との調整が困難で、対処されないままとなっています」。
事実、JETROが行った〝2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査〞で、日系企業がAEC実施項目で期待することの第1位には通関手続きの簡素化(輸出入のシングルウィンドウ化)、第4位に原産地規則などに係る解釈・運用の統一化が、そして第7位に非関税障壁(ライセンス要件、強制規格など)の削減、第9位にASEAN共通の基準・認証・表示制度の導入が挙がった。

非関税障壁・措置の撤廃への取り組み

ビジネス上、直面する具体的な事案を取りまとめた〝NTM・貿易障壁に関する事例マトリクス〞がASEAN事務局のウェブサイトに公開されている。これは加盟国が具体的な事案をもとに域内相手国の非関税措置、貿易障壁を申し立てる形式で、非関税障壁を求める企業が自国政府に申し立て←自国内での協議←ASEAN事務局への報告←相手国への通報←相手国での協議←回答―という仕組みが取られている。
「回答を求める仕組みが取られているという点が、具体的な事案の〝解決・改善〞を図るスキームであると評価できますが、各国での活用はほとんど進んでいません」。
15年11月に開催されたASEANサミットで、民間企業が求める各種非関税措置(NTMs)の削減に取り組む機関として、官民合同による〝貿易円滑化共同協議会(ATF―JCC:ASEAN Trade Facilitation Joint Consulta – tive Committee)〞の設置が報告された。
民間企業からの参画を通じて企業が抱える課題・問題が適切に聴取され、協議会での議論に反映される仕組みづくりが約束された。また、企業がビジネス環境上の問題、各種制度の運用上の問題などに関してASEAN共通のインターネット窓口に直接申告を行い、回答を求める新たな枠組みを構築した。
「この新たなシステムは16年から〝ASEAN Solutions for Investments, Service and Trade(ASSIST)〞という名称で運用開始される見込みです。
ASEANはASSISTを通じて寄せられた各種クレームを受け付けて処理、回答する仕組みを目指しています」。
また、在ASEANの日系企業でいえば、08年9月に発足したASEAN各国の日本人商工会議所や商工会など(総会員数は15年8月現在で約6500社)によって構成される連合組織〝ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)〞があり、ASEAN事務局に積極的に要望を伝えている。ASEAN域内のFTA原産地証明書へのFOB価格(販売価格に売り主が国内で貨物を本船に船積みするまでの費用を加算したもの、〝本船渡条件価格〞)の不記載要望により、企業ニーズに即した運用に改善されたほか、ASEAN各国が貿易・通関手続きの電子化と窓口の一元化を行い、域内の標準化と情報の共有を図る〝ASW(ASEANシングルウィンドウ)〞のパイロットプロジェクトの実施、原産地証明書発給に関わる自己証明制度の導入要望により、発給に係る手続きの簡素化や時間短縮に向けて動き始めたといった具体的な成果も出ている。
「ASWは16〜17年中に一部で運用開始される予定です。紙ベースの通関手続きは煩雑さに加え、現場の職員による判断に任されるため、職員によって通関手続きに差異が発生していました。ASWが導入されれば電子申請となるので、手続きが簡素化され、標準化されることが期待できます。また、原産地証明の自己証明制度は16年中に運用が開始される可能性が高いと見ています」。
15年8月にマレーシア・クアラルンプールで開催された〝第8回FJCCIAとASEAN事務総長との対話〞、および〝日ASEAN経済大臣との対話〞において、FJCCIAはASEAN事務総長・ASEAN各国の経済大臣に直接、在ASEAN日系産業界の抱える経営上の課題とASEANの経済統合に関する要望を伝えた。FJCCIAは16年以降の10年間〝ポスト2015(AEC2025)〞を見据えて次の提言をしている。
①物品貿易(通関手続き、ASEAN自由貿易地域(AFTA)の活用促進、非関税障壁の削減・ 撤廃)、②基準・認証の合理化および調和、③サービス自由化(サービス分野の投資自由化を含む)、④ヒトの移動の自由化(ビジネスパーソンの域内移動、外国人労働者雇用の自由化など)、⑤東アジア地域包括的経済連携(RCEP)およびASEAN+1による地域経済統合の加速、⑥税制関連(2国間租税条約の相互締結、対外送金規制の緩和など)、⑦知的財産権の保護、⑧インフラ開発(官民連携の推進・強化、ハードインフラ整備など)、⑨競争政策(自由かつ公平な競争環境の整備)、⑩中小企業(地場企業育成策の導入など)、⑪エネルギー・環境(安定的なエネルギー供給、省エネルギーなど)―。
「ASEAN域内にFJCCIAのような、企業による連合組織を持っている国は日本以外にはありません。ASEAN各国のモチベーションを高めて、AEC運用にしっかり反映させられるかどうか。それには在ASEAN企業が声をあげて、ASEANに訴えていくことが重要です」。

AECと新たな経済連携TPP

2015年10月、日本、アメリカ、オーストラリアなどに加え、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、シンガポールのASEAN4ヵ国を含む12ヵ国でTPPが大筋合意となった。また、インドネシアとフィリピンが参加の意向表明を行い、タイも〝参加を積極的に検討〞としている。
TPPの物品貿易分野では、電子化、税関手続きの上限時間設定、事前教示制度の回答期限設定など、国内措置にも言及される高いレベルでの貿易円滑化措置を導入しなければならない。
今後、TPPに加盟するASEAN4ヵ国のみならず、加盟に関心を寄せるそのほかの国にとっても、TPPの定める措置が新たなベンチマークとなり、規制緩和や貿易関連手続きの簡素化が進む可能性もある。AECにとって、新たなステージが始まる16年。今後の動向に注目が集まる。

ARAYZ FEB 2016

 

ARAYZ FEB 2016
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THAIBIZ編集部

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