Q&Aと実務解説 タイ・ビジネス関連法務

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    Q&Aと実務解説 タイ・ビジネス関連法務

    公開日 2016.11.29

    訴訟編

    Q8
    タイの司法制度について教えてください。

    A8
    日本の裁判所は最高裁判所の下特別裁判所が認められず、すべての案件を通常の司法裁判所で処理していますが、タイでは2007年憲法の下、日本と異なり、通常の司法裁判所のほか、憲法裁判所、行政裁判所、軍事裁判所の4つの種類が存在し、それぞれ以下の役割を担っています。

    (1)憲法裁判所
    法令の有効性、法令の適用、政府の行為の合憲性を判断するための裁判所です。
    (2)行政裁判所
    行政裁判所は、政府機関又は国家公務員と私人又は民間企業との間の紛争及び政府機関又は国家公務員同士の紛争に関する裁判所です。
    (3)軍事裁判所
    軍人に関する刑事事件を主に扱う裁判所です。
    (4)通常裁判所
    上記(1)から(3)の裁判所で扱う事件以外のすべての事件を扱います。通常裁判所は、第一審裁判所、上訴裁判所、最高裁判所の三審制度が執られています。そして、第一審裁判所については、事件の内容に応じて、以下のとおり、特別裁判所が設置されています。

    ①労働裁判所
    労働裁判所は、労働法や雇用関係に関する事件を扱います。労働裁判所の判断は原則として終局的な判断と扱われますが、法律問題に対する判断ついて不服申立をすることは可能であり、直接最高裁判所に対してなされます。

    ②知的財産権及び国際取引裁判所
    知的財産権及び国際取引裁判所は、知的財産権及び国際取引に関する民事事件・刑事事件を扱います。知的財産権に関する事件には、商標法、著作権法、特許法及び技術移転・ライセンス契約に関するものが含まれ、国際取引に関する事件には、国際的な売買、製品の交換、交際的なサービスや輸送等に関する事件が含まれます。 証人尋問がテレビ会議でできたり、書面の提出で電子メールが使えたりと、通常の裁判所より迅速な解決が図られる設計になっています。また、知的財産権及び国際取引裁判所においては、英語の書面を提出し、手続も英語ですることができます。知的財産権及び国際取引裁判所の判断に対する不服申立は、直接最高裁判所に対してなされます。

    ③税務裁判所
    税務裁判所は、税金に関する事件を扱います。主に、税務当局の判断を争う場合に利用される。税務裁判所の判断に対する不服申立は、直接最高裁判所に対してなされます。

    ④破産裁判所
    破産裁判所は、破産及び再生案件に係る民事・刑事事件を扱います。税務裁判所の判断に対する不服申立は、直接最高裁判所に対してなされます。なお、アメリカの陪審員制度や日本のような裁判員制度は、タイにはありません。

    訴訟編

    Q9
    相手方に対して裁判を行おうと思います。日本とタイとどちらで行うのがいいでしょうか。また、タイで行う場合の、その手続きについて教えてください。

    A9
    【1】裁判を提起する場所の決定
    日本とタイのどちらで裁判を起こすべきかという問題は、最終的に勝訴判決を獲得して、相手方の財産への執行をどこで行うかということから判断されるべきでしょう。例えば、本件における取引の直接の相手方はタイ法人ですが、日本の親会社に対して責任を追及する契約上の根拠があり、他方でタイ法人には保有する財産もなく、親会社の財産を執行したほうが経済的な回収が見込まれるのであれば、日本の親法人を相手方として、日本で裁判を提起したほうが良いでしょう。一方、親会社に対して責任を追及する法的・契約上の根拠がなく、タイ法人に強制執行をしても経済的な回収が見込まれるのであれば、タイにおいて裁判を起こすことも可能でしょう。
    なお、タイ法人を相手に日本で裁判を起こすことは、あまりお勧めできません。なぜなら、タイはハーグ条約に加盟しておらず、タイの民事訴訟法においても外国判決の承認・執行についての定めを置いていないことから、外国での勝訴判決をそのままタイで執行することができず、タイ法人に対して執行するには、結局タイにおいて裁判を行わなくてはならないからです(この場合、外国で得た勝訴判決は、自己の主張の正当性を示す一つの証拠としては使うことができます)。

    【2】タイでの裁判
    タイで裁判を提起することになった場合、まずは訴えを提起する裁判所を決めることになります。タイの裁判に関する管轄裁判所は、原則として、被告の普通裁判籍の所在地となります。そのうえで、以下の流れに従うことになります。

    ①訴えの提起
    訴状を提出することで訴訟手続は開始されます。訴状にはすべての事実・主張・証拠を記載する必要はありませんが、管轄裁判所、当事者の氏名、訴額、訴えの基本となる事実が記載されている必要があります。また、訴状と同時に訴訟費用も裁判所に支払う必要があります。
    ②訴状・呼出状の送達
    通常、訴状の提出後1週間程度で送達がなされますが、案件によりその期間は異なります。
    ③答弁書・反訴状の提出
    原告より訴状を受け取った場合には、送達日から15日以内に裁判所に対して答弁書を提出しなければなりませんが、提出期限については、裁判所に請求することで、30日まで延長されることが一般的です。
    ④争点整理
    答弁書が提出された後、最初の争点整理の期日が設定されます。
    ⑥口頭弁論
    争点が整理されれば、口頭弁論期日も設定され、これは訴えの提起から8ヵ月から1年後に設定されます。
    ⑦判決
    結審後30日から90日後に判決が下されます。タイの裁判を利用した場合、一審の判決を得るまでに1年から1年半程度を要し、案件が複雑になれば、数年を要する場合もあります。また、タイの裁判制度は三審制であるため、控訴、上告とされ審理が継続される場合もあるが、その場合最終的な判断が出るまで、さらに数年を要する場合もありえます。

    訴訟編

    Q10
    取引の相手方から訴えの提起をされました。どのように対応する必要があるでしょうか。

    A10
    原告より訴状を受け取った場合には、送達日から15日(延長が認められれば30日)以内に裁判所に対して答弁書を提出しなければなりません。答弁書においては、訴状に書かれている原告の主張に対する認否をしなければならず、原告の主張に対する認否が明確でない場合には、原告の主張を認めたものとみなされるため、注意が必要です。また、被告は答弁書の中で、反訴を提起することもできます。
    なお、当事者は裁判所に自ら出頭しなくともよく、自らの代理人として弁護士を選任することができます。なお、知的財産権及び国際取引裁判所以外においては、すべてタイ語で行わなければなりませんので、訴状を受領したら、速やかに弁護士に相談するのがよいでしょう。

    訴訟編

    Q11
    タイの独占禁止法について教えてください。

    A11
    日本の独占禁止法に相当する法律として、タイには1999年取引競争法(Trade Competi-tion Act B.E. 2542)が定められています。取引競争法では、日本の独占禁止法と同様に、市場支配的地位の濫用の禁止、国内事業者と共同で行う取引制限的行為、外国事業者と共同で行う取引制限的行為、取引競争法により禁止されるその他の活動、競争制限的合併に関する規定が定められています。したがって、いわゆる優越的地位の濫用、カルテルや談合といった行為は禁止されます。
    もっとも、取引競争法の執行機関は競争法委員会ですが、これまで競争法委員会によって刑事告発されたケースは1件しかなく、またその1件も刑事事件として立件されなかったことから、タイの取引競争法が適切に運用されているとは必ずしも言えない状況にあります。
    競争法による規制については厳格に適用するということが世界的な傾向でもあり、タイでのそのような傾向の表れとして、取引競争法の改正案が2016年10月に閣議決定されました。今回の改正案においては、市場支配的地位の濫用に関連して、「市場支配的地位」の基準が改正される見込みであり、現在の基準より厳しくなる予定です。また、取引競争法違反の効果も現在よりも重くなる見込みです。
    以上のことからすれば、取引競争委員会もその運用を厳格化し、今後は摘発事例が増える可能性もあります。
    そもそも、グローバルに活動する日本企業にとっては、事業を行っている当該地の競争法だけではなく、少しでも影響が及ぶと思われる市場が存在する国の競争法をグローバルに遵守すべきというのが現在の傾向でもありますので、タイで活動する多くの日系企業にとってタイの取引競争法の動向は、今後も注視すべき事項でしょう 。

    arayz tokushu

    arayz tokushu
    安西明毅 弁護士(日本法)
    タイ・マレーシアを中心として東南アジア全域における日本企業による進出・M&A案件及び進出後の労務・紛争案件並びに国際金融、証券取引及びイスラム金融等の金融案件を扱う。2016年5月よりアンダーソン・毛利・友常法律事務所バンコクオフィス代表。

    アンダーソン・毛利・友常法律事務所
    バンコクオフィス
    12th Floor, Unit 1206 Mercury Tower,
    540 Ploenchit Road Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330
    02-658-5670
    www.amt-law.com/office/bangkok.html

    THAIBIZ編集部

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