変化の時代、日本企業に求められるASEANビジネス戦略 2017

変化の時代、日本企業に求められるASEANビジネス戦略 2017

公開日 2016.12.22

現地消費者の立場で考える

高齢化社会に適応したバリアフリー住宅など、住に関するソリューションを提供する企業も出てきています。タイでは道路は道路だけ、鉄道は鉄道だけ、学校は学校だけ、ショッピングセンターはショッピングセンターだけといった風に、単体で考えたプロジェクトが取り組まれがちですが、部分的なものだけでなく、街全体を創り上げていくという発想の重要性がようやく広く認識されるようになりました。
日経BP社が世界各地で企画している「アジアスマートシティサミット」が今年はバンコクで開かれ、タイの関連4省から大臣クラスが出席し、NESDB、BOI、EGATなどの主要機関が丸一日かけて、日本から参加した日立製作所、阪急阪神東宝グループの代表者らと、日タイ連携の可能性について話し合う場を設けました。
同様に日本企業から参加した神姫バスグループは、その後アーコム運輸大臣やタイ観光局ユタサック局長と会談するなど、少しずつですが民間主導のチーム・ジャパンの取り組みが実を結びつつあります。

また積水化学工業社も、日本の高齢住宅や環境負荷の低い住環境の提供に向けてタイの現地企業や日系企業との連携を進めています。2017年度からは、在タイ日本大使館とも協力して、こうした取り組みをさらに前進させていきたいと考えています。

日本企業は目に見える、使ってもらえれば良さがわかる、カメラや自動車といった「製品」を売り込むのは得意ですが、目に見えない「価値」を売り込むのが苦手な面があります。
日本企業や自治体が培ってきた街づくりのノウハウは、日本人同士なら数値化や明文化しなくても、深いところで理解し合えているので、価値観の共有は難しいことではありません。また日本人同士ですと、プロジェクトの完成時点でのコストではなく、ライフタイムコストという長期で街づくりの価値を捉えることができますが、この考え方が相手に理解されないケースもあります。
例えば、「日本では初期投資にこれ位かかりますが、20年、30年使ってもらうと費用対効果はこうなります」といった説明は、日本人同士なら理解できます。もちろんタイでも、20年、30年後に費用対効果や価値が生まれるということ自体は理解してもらえますが、タイと日本ではコミットの仕方に相違があります。終身雇用・長期雇用の労働慣行が強い日本とは異なり、タイは数年後には違う会社に転職していたり、違う組織に属していたりというのが当たり前の社会です。
ですから、「初期投資額は高くても後々に価値が出る」日本の商品やプロジェクトは、現在のポジションで成果を挙げて数年後にはそれを売りにして次の組織へ転職したい担当者にとっては、成果が目に見えるまで時間がかかりすぎてしまい、必ずしも社会の厚生につながるプロジェクトが選択されるとは限らないのです。
彼らは、投資効率を計算する際の時間軸を長くしたり、アウトプットをより広義に定義するということの重要性を理解していないのではなく、十分な説明責任を果たすための労力や個人としての時間軸を考えたうえで、意思決定をしているのです。

日本企業は、製品やサービスの素晴らしさを売り込むだけでなく、担当者の説明責任に対して、どのようなソリューションを提供できるかということを考えなくてはなりません。よく、現地の方々のニーズを汲み取ることが大切だと言われますが、往々にして、消費者というものは予め明確なニーズを持っているわけではないのです。

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日経BP社が主催するアジアスマートシティサミット

長期戦略に必要なのは組織の〝根幹〞

日本企業は「新しい商品を作るためのニーズ把握」を目的に市場調査を行いますが、スマートフォンがなかった時代に市場調査を行って、果たしてスマートフォンのニーズを把握することができるでしょうか。市場のニーズは必ずしも明確ではありません。
だからこそ、企業が夢やビジョンを持って社会をどう変えていきたいのかという想いを持ち、10年、15年、20年といった長期で戦略を立てていかなければ小手先だけの商品開発になってしまいます。これは企業だけではなく、国家にも同じことが言えるでしょう。要素技術の素晴らしさを誇ることは大切ですが、日本の技術を新興市場という文脈で組み合わせることでどのような価値を創出していくことができるのか、その実験室となるプラットフォームを形成していかなくてはなりません。現在のゲームでいかに勝ち続けるのかということのみならず、どのようなゲームを主導していくのか、ゲームのルールを創り上げなくてはなりません。

経済学では、部分的に正しいことであっても、全体で見たら意図しない事態が起こることを「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」と言います。部分的な応急処置も大切ですが、場当たり的な対応ではなく、仕組みそのものを強くしていかなければ、構造的な問題に対する本当の解決策にはなりません。
先述しましたが、10年、15年、20年単位でのビジョンと、そのビジョンを実現するためのミッションや戦略が問われる時代です。高度化を目指すこれからのタイにおいても、そのリーダーとしての資質が問われてくると思います。
タイは今まで、海外からの援助などを受け入れる立場でしたが、これからは蓄積してきた経済発展のノウハウを近隣国に提供、援助を行う、ドナーに変わっていかなければなりません。それが先進国への仲間入りを果していくということであり、先進国の責任でもあると思います。

次ページ:日本にもビジネス・プロデューサーを

THAIBIZ編集部

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