タイを知る。タイ人を知る。タイ人部下の育て方を知る。日経ビジネススクール

タイを知る。タイ人を知る。タイ人部下の育て方を知る。日経ビジネススクール

公開日 2017.07.31

「タイ・メコンマネジメント&人材育成フォーラム」の2回目、「タイ人を知る」では、タイの歴史や道徳教育、社会構造などを背景とした一般的なタイ人の仕事への価値観(就労観)、人生観について考えるとともに、日本とは大きく異なるタイの商習慣やビジネス文化にも着目。
日本で働いた経験を持ち、日本人以上に日本企業・日本人ビジネスパーソンの特徴や考え方の傾向を意識し理解するタイ人講師として、mediator co., ltd.のガンタトーン・ワンナワスCEOが、日本人・タイ人双方の視点からタイでのビジネス効率化、コミュニケーション円滑化のために、在タイ日系企業のリーダーたちが知っておくべきタイのビジネス文化に迫った。

お互いの「違い」を理解し、「共通点」を活かす

タイ人の国民性と価値観形成に大きく影響した要因として、自然環境と歴史的背景が挙げられると思います。これらについて紐解く前に、基本的な考え方として頭に入れておきたいのが、日本人とタイ人の間に「正しい」や「間違い」はなく、あるのは「違い」のみだということです。その違いを理解し、お互いが持っている「共有点」をどのように活かしたら良いのか考えていきましょう。

まず自然環境ですが、日本では食料が調達できない冬を乗り越えるためにどうすれば良いのか考え、効率よく食料を生産して先を見据えた備蓄をすることが昔から積み重ねられてきました。一方のタイは肥沃な大地に年間を通して気候は温暖、食料自給率も高く、いつでも食料を調達することができたので、タイ人は先を見据えて行動するという「考える練習」をしたことがありませんでした。蓄える文化のない、先のことを予測して考える必要がない環境で生きてきたのです。

私はいつも「タイという1つの国の中には、2つの国がある」と説明するのですが、食料の豊かさは経済型社会を形成する必要性を低下させ、バンコク首都圏とその他の地方という、まったく異なる社会を生み出しました。

歴史的背景がタイ人の国民性に与えた影響

次に歴史的背景を見ていきます。現代のタイ人の心の奥にも受け継がれている「国王は国民の父」という考え方の起源は、スコータイ王朝3代目のラームカムヘーン王の時代まで遡ります。ラームカムヘーン王は「ポーポックローンルーク:家父長的温情主義政治」に基づき施政を行った人物で、この温情主義とは、親が子どものことを慮(おもんばか)るように、温情を他者に対してもかける保護者的立場を意味します。

この温情主義に加えてタイ人の価値観形成に大きな影響を与えたのが「サクディナー:封建制に似た制度」です。これはアユタヤ王朝時代の1454年に作られたシステムで、王族・貴族・官僚・役人・領主・農奴・奴隷という階級が定められ、支配する側と支配される側を生み出しました。

また、領主は生産者である農民を農奴として支配する代わりに、農民の生活は領主が保証するという、いわば属人的な終身雇用のような制度「ウタパム:パトロンシステム」も存在していました。サクディナーは、1932年のタイ民主革命で廃止されましたが、タイは実に485年間に渡り、つい85年前までこの完全なる「階級社会」で成り立ってきたことになります。自然災害が少ないタイでは、敵は「厳しい自然環境」ではなく、「上の階級の人間」であり、良い「人間関係」こそすべてなのです。

1940年代に入り経済活動が活発化、社会全体が経済型社会に変化していく中で、タイは現代版の階級社会を生み出しました。経済力による階級です。現代の階級制度がサクディナーと異なるのは、努力次第で富裕層、上流層、中上流層、中流層、低所得層の階級を選べる点です。ただし、経済型社会の影響を受けて価値観が変化したのはバンコク首都圏に住む住人のみで、地方はあまり影響を受けていないか、変化する必要性を感じておらず、現状に満足して必要以上の努力はしません。

タイ人と信頼関係を築くには仕事以外の会話が重要

タイ人は基本的に、「仕事はプライベートを充実させるもの」だと考えています。今この時、好きな仕事を好きな人たちと好きな環境で、程よい経済力が手に入れられれば十分と考える傾向にあり、仕事は無理してまでするものではなく、仕事から直接、人生の幸福感を得ようとも思っていません。

日本人とタイ人は共に空気を読む国民性です。またネガティブなフィードバックを好まず、さりげなく伝えることを良しとする共通点もあります。私たちはこの「ハイコンテクスト」を通じて日々生活しているわけですが、日本人とタイ人では指示の伝え方にも、信頼関係を築くベースの考え方にも相違点があります。日本人が一緒に仕事をするなかで相手がしてくれたことに対して信頼を積み重ねる「タスクベース」であるのに対し、タイ人は一緒に食事をしたり、おしゃべりをしたりして人として付き合えるかどうかの「関係ベース」で信頼を築いていきます。「タスクベース」をドライと表すなら、「関係ベース」はウェットということになります。

本講座は好評につき、11月にも開催を予定しています! 詳細は決定次第、日経ビジネススクールアジアの公式サイトに掲載されます。

日本人、日本企業を熟知したタイ人だからわかること。


CP ALL Public Company Limited, General Managerのマナ・アマタノン氏(左)

講座の第2部では、ガンタトーン氏とCPALLのマナ・アマタノン氏が会場からの質問を受け、在タイ日系企業が抱える組織運営についてディスカッションを行った。

Q 怒った理由を理解してもらえたのかどうかが分かりません。

マナ氏:まず、人前で怒ることはタイでは絶対にタブーです。理解してもらうことが目的なら、怒ることは逆効果になる恐れもあります。理解しているかどうかを確認したい時は、「なぜ怒られたのか」を文章にして提出してもらってみてはどうでしょうか。理解度を確認することができます。

ガンタトーン氏:問題が起きた時、タイ人は先に説明してから謝り、日本人は先に謝ってから説明に入ります。これが日本人には〝言い訳〟として捉えられがちなのですが、タイ人にとっては〝謝罪すること=非を認めること〟であり、階級制度があった時代は非があると鞭打ちなどの罰が下ったことが心理的に影響しているのかもしれません。

マナ氏:家父長制度の影響からか、タイ人は社長や上司、先輩を、親や兄姉だと思っていて、上の人には親や目上の兄姉と接するような関係を期待しています。他社の方に自社のタイ人スタッフを紹介する時は、部下としてではなく「私のチームの一員です」と紹介するとモチベーションアップにつながりますよ。

Q スキルアップのために所属部署の異動を命じたところ、難色を示されてしまいました。

マナ氏:一般的に、日本ではさまざまな職種を経験させて仕事のスキルを向上させる方法を取りますが、タイでは「その道のプロ」を目指す方法が取られます。部署異動を命じられると、タイ人によっては「自分は何か悪いことをしたのかな」と思ってしまう。そのタイ人スタッフも、そう捉えたのではないでしょうか。

ガンタトーン氏:部署異動をさせたい時は、「会社にはさまざまな仕事があり、嫌なこともあるだろうけど、多様な業務をこなせる人材になってほしい。この変更は悪い意味ではない」ということをしっかり説明することで、納得してもらえるのではないかと思います。

Q ローカル化を進めたいのですが、人選に苦労しています。

マナ氏:タイ人の間には、会社が定める組織とは別に、インフォーマルな組織が存在していることが多いです。もし候補者が数名いるのであれば、社内パーティーを企画させてみると良いかもしれません。日本人と異なり、タイ人は通常“飲み二ケーション”をしません。代わりに社内パーティなどオープンな場をつくり観察することは、タイ人の間で誰に人望があり、認められている存在なのかを見極めるひとつの良い方法になるでしょう。

Q 最後にメッセージを一言。

ガンタトーン氏:日本本社からの指示命令を、そのままタイ人スタッフに投げるのではなく「こんなことを言われたけれど、どんな方法を取れば良いと思う?」と打ち明け、タイ人スタッフと一緒に考えてみてください。タイにいる時は日本側の立場ではなく、タイ側に立つことで関係性も変わってくると思います。

マナ氏:そうですね。営業目標や戦略構築の具体的な方法を日本人とタイ人が一緒になって考えて、一緒に達成することが、組織の一体感につながるはずです。

次ページ:3現主義に基づいた、体験から学ぶタイ・メコンビジネス戦略

THAIBIZ編集部

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