カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2017.08.30
(1)相互認識の相違に注意
タイ人の特徴から、日系企業のオペレーションにおけるポイントをまとめます。
まず、お互いの共通点と相違点を認識し、共通点はお互いに尊重し合い、相違点は仕組みでカバーするという考え方が必要です。相違点を話し合いによって相互理解をしようとすると、お互いにストレスとなり感情論に発展するトラブルとなることがあります。相違点を正しく認識した上で、それをカバーできる仕組みを導入することが大切です。
上記の考え方を前提に、マネジメントとして重要なことは、社内外の現場、特に人の動きを観察することです。日本人とタイ人の間には必ず相違点がありますので、日本人として頭の中で考える「想定」や「常識」はほとんど意味がなく、むしろ経営判断を誤るリスクにもなり得ます。
毎日現場に出て人の動きを観察し、微細な変化に気付くことがトラブルを未然に防ぐことに繋がります。トラブルが表面化する頃にはオペレーション上の問題は大きくなっており、カバーすることは困難です。
日々人の動きを観察することで、各個人の顔色や勤務態度、出社人数などの従業員の様子、整理整頓、ライン稼働率、資材搬入・在庫・スクラップの状況など現場の雰囲気の変化に気付き、問題が大きくなる前に手を打つことが可能となります。
また、仕組みの導入の実績上のポイントは、相違点をカバーすることに加え、定期的なメンテナンスです。
ここでいう定期的なメンテナンスとは、日々の従業員教育(朝礼や外部セミナー・研修の活用等)、週次や月次、あるいは四半期や年次といった一定期間における定点チェック(福利厚生委員会などの定例会の開催、出退勤時の従業員のIDカード確認、健康診断実施等)、そして配置転換を含む従業員の入れ替えを指します。特に後述する不正防止の観点からも、従業員の定期的な入れ替えは有効です。
長年同じ部署にいるタイ人従業員は頼りになりますし、タイ人従業員が辞めるリスクを取ってまで配置転換をすることは抵抗があります。しかしながら、日系企業におけるトラブルや不正の大きな原因の一つが、タイ人幹部や長年勤務しているタイ人従業員に起因するものです。
タイでは年功序列の思想や年長者に対する敬意は日本よりも強く、うまく活用すれば現場の取りまとめに有効活用できるものの、頼りになるあまり責任と権限を持たせすぎると日本人駐在員では全く歯が立たない程の強い影響力を持った影の実力者を作ることに繋がります。日系企業の事例として、タイ人幹部の影響力が強すぎるため、止む無くタイ法人の閉鎖に追い込まれたケースもありますので注意が必要です。
なぜ法人閉鎖のような重大なトラブルに陥るケースがあるかと言えば、コミュニケーションギャップに起因することがほとんどです。すなわち、通訳を通した会話で真意が通じたと思っていたものの、実は根本的な認識相違があるというのはよくある事例です。あるいは、ちょっとした言い回しの違い、使用する単語の選択、通訳する順番などによって、思いもよらない誤解を生むことがあります。
極端な例では、商談において相手を褒める話をしているにも関わらず、なぜか突然怒り出して破談になるといった実例もあります。多くの場合、これらのコミュニケーションギャップは、両者が気づかないうちに起こってしまうため、完全に無くすことは困難です。
しかしながら、コミュニケーションギャップが存在していることを認識することが非常に大切であり、そのリスクを回避するためには、重要な事項についてはどんなに優秀だと思われる通訳を介していたとしても、口頭での伝達のみでなく必ず文書による再確認と記録を残す、といった対応が重要です。
特に就業規則などのタイ人従業員の雇用に大きく関連する事項は、社内での情報の歪曲を避けるためにも、外部翻訳業者などを活用した文書による情報伝達が有効です。
特にコミュニケーションギャップが起こりやすく、実際に日系企業からの相談が多いのは、タイ人従業員のボーナス査定や昇給査定などの人事評価制度についてです。
タイ人従業員にとっては、分かり易さ、納得感が重要であることから、日本式の複雑な人事評価制度は、従業員の不満につながるケースが多いです。タイ独自の評価制度を導入できる場合には、シンプルな定量評価を推奨しています。究極的には個別の人事面談をせず、自動的に評価結果が算出される形が理想です。
よって、評価基準について原則定量評価にすることが重要であり、例えば事務系社員における一般的な評価軸は下記のようなものを推奨しています。
他社事例では、間接部門以外のエンジニアなどの職種では、上記の定量評価に加え、独自の試験制度(テスト)を導入し、点数に基づき加点する方法もあります。このように徹底した定量評価にすることで、最終的な金額や昇給率に満足するか否かは別としても、査定プロセスについての疑問を払拭することができます。その結果、会社の査定結果に納得する従業員の定着率が上がることになり、会社にとって必要な人材(定量評価の査定で良い結果となる人材)を雇用できる可能性が高くなります。
一方、評価者によって査定結果が変わるリスクのある定性的な評価基準では、部署間の公平性は保たれているか、評価者間の基準は統一されているか等、評価される側から見たときに疑問を感じる点があり、特に言語と文化面でギャップのある日本人とタイ人の間で、誤解なく理解してもらうのは至難の業となります。
また、定性評価の場合はタイ人従業員にとっても何をすべきで何をすべきでないかが不明確となり、査定結果と会社に必要な人材のミスマッチを引き起こすリスクもあります。したがって、コミュニケーションギャップは確実に存在しているという前提で、できる限り致命的な問題を発生させない対策が重要となります。
日系企業のオペレーション上、特にタイ人と協業するうえでのポイントは下記の5点となります。
①現場主義であること
→微細な変化に気づけば早期対策が可能となります。
②率先垂範であること
→日本人が模範となる行動をしていれば、社内外のコミュニケーションが円滑となります。
③仕組を活用すること
→コンプライアンスの考え方、不正防止策の実行、規則・規程・ルールの遵守を例外なく適用することが重要です。
④定期的なメンテナンスを実施すること
→従業員教育、定点チェック、配置転換などが該当します。
⑤コミュニケーションリスク対策をすること
→通訳のみでは誤解を生じる恐れがあるため、重要事項は文書でやり取りすることが大切です。また定性的な人事評価制度は納得感に欠ける可能性があり、できる限りの定量化が重要です。
次ページ:座談会 コンサルティングの現場から見た、日系企業におけるタイ事業のポイント
THAIBIZ編集部
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