カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2017.08.30
【座談会メンバー】
山田ビジネスコンサルティング株式会社
海外事業本部 専任部長
吉越廉朗
金融機関入行後、ニューヨーク、ロンドン、バンコク等海外支店勤務、その後技術コンサルティング会社 金融法人部長、金融機関 国際営業部等でタイ、ミャンマー、ラオス投資を推進。2013年からは金融機関 タイ現地関連会社 代表取締役社長 兼、タイ地場銀行 取締役。2017年より現職。
山田ビジネスコンサルティング株式会社
海外事業本部 ASEAN事業部 部長
古川友晴
M&A部隊の部長を経て現職。税理士。長年に渡るコンサルティングの知見から、戦略策定、再生、税務対応と幅広くクライアントの支援を実施。特にコンサル視点でのM&A案件経験が豊富。クロスボーダーM&AのPMIも含めて経験あり。
YBC & Spire(Thailand)Co., Ltd.
YBC Capital Co., Ltd.
Managing Director 小津雅彦
大学卒業後、東京にて事業改善、事業再生コンサルティングに従事。コンサルティング事業の部長、ODA事業担当責任者、海外進出支援担当責任者を経て、バンコク事務所の立ち上げのためバンコク赴任。2016年より現職。
YBC & Spire (Thailand) Co., Ltd.
General Manager
タウィカーン・キングトーン
タイの高校を卒業後、日本に渡航、一橋大学大学院卒業、その後、米国系大手金融会社、資産運用会社の日本法人での勤務を経てYBCタイに入社。タイ語、英語、日本語の3ヵ国語を扱い、主にタイ/日のM&A・JV案件を担当。
目次
吉越 製造業の進出は一段落しており、最近はサービス業や卸売業の進出相談が増えています。製造業でも、現地で「作りたい」会社から現地で「売りたい」会社の相談が増えていると感じます。「作りたい」会社が減っていることから、一件あたりの投資額が減っていますが、決して企業規模が小さくなっているわけではなく、大手企業からの相談も多いです。
古川 大手企業は、事前にしっかりとリサーチを行い、組織設計も詳細に検討することが多いので、当社に対する要請も多様化しています。また、「製造」から「販売」にニーズが変わったことから、現地で情報/チャネルを持っている企業との合弁や買収を検討する会社が増えています。
タウィカーン 競争に勝ち残るための一つの解が、「全てを自社内の経営資源で賄うのではなく、現地に根を張る企業とのパートナーシップを組むこと」ではないかと思っています。ただ一方で、現地企業との合弁・買収においてのトラブルも頻発していますので、慎重な対応が求められます。
小津 特に最近の進出は、「現地マーケットを開拓したい」というものが増えていますので、現地の状況を見ながら都度判断できる人材を配置することが重要ではないかと考えます。
吉越 特にオーナー企業の場合、現地に意思決定権者を配置しないとワークしないと感じます。「現地責任者にそこまでの権限を与えられない。日本本社からコントロールする方法を教えて欲しい」という相談をよくいただきますが、「権限を与えられる方を配置してください」とお伝えしています。
小津 任せるに値する人を配置したいが、それに見合う人材がいないというジレンマを感じます。そう考えると、中長期的に、海外人材を育てていくのが重要だと感じます。タイに進出したら、次に進出する国に派遣する予定の人材を日本の海外チームに配属する等の人材育成方針がポイントだと思います。
吉越 親会社との連携で苦しんでいる現地のMD(社長)は多いです。「親会社からはあれをしろ、これをしろと言われるが、現地の事情に即していない」という声もよく聞きます。その一方で、「あれがダメだ、これがダメだと言われて、身動きが取れない」という様な声もよく聞きます。
古川 逆に、親会社側では、「現地が報告をあげてこないから何もわからない」や「知らない間に子会社で不正が発生した」といった事案をよく耳にします。
小津 管理面もさることながら、営業面でも連携不足による悪い影響が出ているケースが散見されます。親会社の付き合いのある会社を紹介するだけで、タイ事業の売上拡大に繋がることが目に見えているのに、なかなかそれが為されない。
吉越 もう一段上の経営的な視点から、海外事業を俯瞰してみる必要があると痛感します。
古川 日本側で相談をいただくことが多いのは、事業の見極めや、撤退についてです。撤退の実務を行うことがありますが、進出するよりもエネルギーがかかると言っても過言ではありません。
小津 2011年~2012年の進出ピーク時にエイヤと出てきて、結果一度も黒字化することなく撤退を検討されるケースも最近多いです。そういう事案を見て思うのは、マーケットリサーチや適した進出形態を検討することは重要だという点です。人間の心理として、進出を検討している最中は「うまくいく理由」を探すものですが、一度冷静になって、「進出しないといけない理由」を考えてみることが有効だと感じます。
小津 中でも多いのは、「人事労務」・「株主間トラブル」の問題です。これも文化的背景などの理解不足に起因し、コミュニケーションの問題で悪化することが多いです。根っから悪い人がいる場合というのは稀で、もともとは良好な関係だったものが、いつのまにか裁判沙汰になるようなトラブルに発展していきます。また、不正が検出されることもよくあります。
古川 確かに、横領や着服といった事案が多いと感じます。総じて、親会社からの管理が無い、あるいは、あるスタッフの独裁状態になっている様な会社が多い気がします。適切な外圧をかけることがガバナンス上必要なのではないでしょうか。
タウィカーン 現地市場を狙った進出には、現地パートナーが不可欠ではないでしょうか。新規進出に際してパートナーを選定することもありますが、既にタイに進出して年数が経過した企業が、商売上付き合いのあるタイ企業とさらなる深い関係を求めて資本関係を締結するケースもあります。
小津 どちらの場合においても、タイでどういった事業を行うかをイメージして、それに足りない機能をパートナーに求めるような発想が必要な気がします。
古川 失敗するのは、「買収すればすべてうまく行く」、という発想の場合で、「過度にコントロールしようとする」あるいは「過度に任せる」という判断をしていることが多いです。
吉越 やはりトラブルになる事例は、スタート時にしっかりと話し合いができていないことが多いと感じます。
タウィカーン ジェントルマンアグリーメントという言葉がありますが、日本と外国ではジェントルマンの定義自体が異なったりしますので、しっかりと文化的な相違を認識した上で交渉しておくことが重要です。
吉越 その交渉結果を、会社運営に反映させるために、定款や付属定款に織り込む等、しっかりとした防御策を検討することも大切です。
小津 ASEAN共通だと思いますが、「最初に価格を合意したいと主張されることが多い」・「成長を前提としているので、利益倍率等の指標は日本と比べて高くなることが多い」・「簿外債務等に留意する必要がある」等があります。日本で買収を行う時よりも、検討時にしっかりと調査することをお勧めします。
日系企業からのトラブル相談事例で最も多いのは人事・労務管理、労使問題に関することですが、タイ人従業員の不正に関するご相談も数多く寄せられます。具体的な不正事例などについては後述しますが、ここでは不正抑止のポイントについてまとめます。
不正の抑止については前述の③仕組みを活用すること、と④定期的なメンテナンスを実施すること―の2点が重要となります。すなわち、基礎となる就業規則、各種通知、規則・規程、雇用契約書といった、ソフトウェアの整備に加え、これらの規則・規程を正しく運用することが重要です。
会社の理念に基づく素晴らしい就業規則があるものの、形骸化してしまい現場レベルでうまく運用できていないという事例は多々あります。例えば従業員が数百名規模の工場において、日本人MD(社長)がすべてのタイ人従業員の名前と顔を一致して把握することは困難です。
また、夜勤の際には日本人管理者や総務・人事担当者が不在となるケースがほとんどです。このような場合、すべての従業員に対して会社のルールを徹底させること、あるいはルール違反があった際に平等かつ公平な基準で警告書などを発行することは非常に難しくなります。しかしながら、規則の運用が徹底されず、会社の管理体制に不備があると従業員に思われてしまった場合、不正を誘発するリスクが高くなります。
大切な点は、会社での行動は常に見られているということと、違反があった場合には例外なく対処するということを、タイ人従業員が理解することです。会社の管理体制がしっかりしていることを認識すると、不正が起こりにくい環境となり、結果的に不正抑止につながります。
数百名規模の工場の事例で言えば、警備会社の活用、監視カメラの導入などにより、管理体制を強化することが可能です。警備会社は既に活用しているという会社も多いと思いますが、大切なのは警備会社に何をしてもらうか、そして何の権限を渡すかです。
例えば、夜間の出退勤時のIDカードの確認と記録、手荷物検査、車両チェックといった対応を依頼し、監視カメラの確認権限も渡しておき、就業規則違反が見つかった場合にはすぐに警告書の発行ができるようにする、といった活用です。
警備会社によって対応できる内容は異なってきますが、どのような対応ができるのかを一度確認することをお勧めします。もし、現行の警備会社では十分な対応が難しい場合には、警備会社切り替えの検討も必要となります。
管理者が不在となる夜間においては、警備会社が不正防止の肝となりますので、従業員と結託して不正を後押しすることなどが無いよう、適正な警備会社の選定が重要です。
上記のように社内のルール設定と、そのルールを徹底するための仕組みを導入した次の段階として、定期的なメンテナンスが欠かせません。特に重要となるのが、権限の分散と挨拶や文書管理など基本事項の徹底です。権限の分散は人、モノ、金の権限を分散し、各々の中でも特定の個人に権限が集中しないようにすることです。
例えば、受注業務と発注業務の担当者を分ける、入出金担当者と記帳担当者を分ける、入金用の口座と出金用の口座を分ける、資金決済の承認ルートの定期的な見直しをする、人事権はMD(社長)が掌握しておくといった対応です。特に小規模の会社では一人で何役も担うことがあり権限の分散が難しいこともありますが、不正防止の観点から会計事務所などの外部業者を起用するのも一つの手段です。
基本事項の徹底が重要となるのは、例外処理を排除するためです。典型的な不正事例の一つに製品の横流しがありますが、こういった不正は必ず例外処理をされた文書が見つかります。承認ルートが異なっていたり、手書き伝票であったりと手口は様々ですが、文書管理体制を改めただけで、不正がぴたりと止まるケースもあります。
挨拶や時間厳守など、一見関係ないように見える基本動作の徹底が、会社の管理体制を認識させることになり、不正抑止に最も重要な心のハードルを上げることに繋がります。
不正やトラブルを抑止する裏ワザはありません。日々の積み重ねによって、不正をやり難い環境を作ることが最大の防御策です。
最後に、不正が起こってしまった場合の対処として、犯人を追及して懲らしめることよりも、再発防止に注力することを強く推奨しています。仮に個人を特定し懲罰を加えることが出来たとしても、逆恨みをされて報復されるリスクがあります。不正が発生した背景に仕組みの不備が存在していますので、過去の犯人を特定することは、今後の不正を抑制することにつながらないからです。あくまで、不正抑制のためには不正が起こりにくい環境を作ることが重要である、という点を強調します。
「不正」は個々人の要因のみから発生するのではなく、「会社の経営体制の不備」が誘引となることが多いです。
根本的な解消のためには、「経営体制の再構築」が求められます。
その際のポイントは、「不正が起こりにくい環境」を作り、「仕組みのメンテナンスを実施」することです。
規則/規程類の整備、役割権限の分散等、「仕組み」を導入し、運用、改善、メンテナンスを行うことが有効です。
山田コンサルティンググループ
YBC & Spire (Thailand) Co., Ltd./YBC Capital Co., Ltd.
689 Bhiraj Tower at EmQuartier, Level 35, Unit 3502, Sukhumvit Road (Soi 35),
Klongton Nuea, Vadhana, Bangkok 10110, Thailand
【山田グループのタイでの役務提供】
1.タイおよび周辺国への進出時のリサーチ業務、戦略立案業務 2.タイ既進出先企業へのガバナンス体制構築業務、人事労務等の課題解決支援業務 3.現地パートナー探索支援業務、M&A・JV等のアドバイザリー業務 4.日系企業のタイ法人/タイ企業に対する出資ならびにアドバイザリー業務
■ 山田ビジネスコンサルティング株式会社は、YBC&Spire (Thailand) Co., Ltd.を通じ、タイに新規進出を検討されているお客様・既に進出されているお客様に対して、より付加価値の高いコンサルティングサービスを提供するため、2016年12月にToyo Business Service Public Company Limited(以下、東洋社)と業務提携契約を締結。さらに2017年7月には、連携を深化させるため、東洋社の第三者割当増資の一部を引き受け、資本参加いたしました。
【東洋社の業務内容】
1.タイ法人の労務・法務・会計等の問題解決支援業務 2.タイ進出支援業務(設立登記、BOI申請支援等) 3.月次支援業務(決算書/税務申告書の確認業務等) 4.各種申請業務(査証、労働許可証、各種ライセンス等)等
お問い合わせ
TEL:(日本から)03-6212-2515 / (タイから)02-261-3395~7
E-MAIL:[email protected]
・当記事情報に関して、当社は細心の注意を払っておりますが、情報に誤りがあった場合や第三者によるデータの改ざん等によって生じた損害等に関し、事由の如何を問わず、当社は一切責任を負うものではありませんのでご了承ください。
・当記事情報は、2017年7月時点でのものになります。
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サービス展開拠点・陣容
・全世界に、約500名の現地調査員ネットワーク(Spire社)
・山田グループ人員数:1,623名
うち海外コンサルタント数(駐在含む):150名超
タイ現地法人社員数:8名(全員日本語可)
※Spire Research and Consulting Pte. Ltd.は、新興国リサーチに強みを持つ会社(本社:シンガポール)で、2016年に当社グループの子会社となりました。
山田ビジネスコンサルティングと東洋ビジネスサービスによる機関紙「タイでの事業展開のポイント〜進出から改善・撤退まで〜」を発刊しました。お気軽にご連絡ください。
THAIBIZ編集部
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