カテゴリー: ニュース
公開日 2023.07.25
英エコノミスト誌7月15日号はアジア面で、7月23日のカンボジア下院総選挙の実施に合わせ、38年間も首相を務めているフン・セン氏と同国の現状を紹介している。タイトルは「カンボジアの独裁者は後継者を固めつつある」だ。
同記事は「14世紀末までにアンコール周辺は世界最大の都市圏となった。クメール王朝の王様は現在の東南アジアの多くの地域を支配した」と歴史をさかのぼり、同王朝の遺跡で世界的な観光地のアンコール・ワットに言及した上で、38年間首相を務めるフン・セン氏は田舎の貧しい小作農という出自にもかかわらず、伝説上の王様の1人のように振舞っていると表現。そして同氏は、アンコール・ワットをモデルに自らの統治を誇示するために、大理石とコンクリートで記念塔「ウィンウィン・モニュメント」を建設したと紹介する。
フン・セン氏は23日の総選挙と引退後をにらみ、既に長男のフン・マネット氏を後継者に指名している。米国の陸軍士官学校(ウェストポイント)を卒業後、ブリストル大学で経済博士号取得した45歳で、与党・カンボジア人民党(CPP)で昇進し、総選挙後に首相を引き継ぐと予想されている。ウィンウィン・モニュメントにはフン・セン氏とフン・マネット氏とともに中国の習近平国家主席が一緒に描かれたレリーフがあるという。
フン・セン氏は後継計画が覆らないようにするために、主要野党のキャンドルライト党(CP)の総選挙参加を禁止したほか、最後に残った独立系の報道機関「ボイス・オブ・デモクラシー」を閉鎖。アリゾナ州立大学の研究者によると、フン・セン氏の首相在任中に約6000人野党議員が脅迫や買収などにより、与党入りを余儀なくされ、残った少数の反政府活動家は恐怖とともに生きているという。
同記事は、現在のカンボジアでの中国の経済的、軍事的、政治的影響力の大きさを改めて説明する一方、フン・セン氏の個人的な「カルト」は、大量虐殺を行ったクメール・ルージュからカンボジアを救ったという主張にルーツがあるとし、その象徴として建設したウィンウィン・モニュメントには、作物の豊作、港湾整備、国内総生産(GDP)の成長などの功績もレリーフに記載されているという。
実際、カンボジアのGDPは1998~2019年まで、年平均8%という高い伸びを遂げた。新型コロナウイルス流行後は観光客も復活し、世界銀行は同国の今年の経済成長率は5.5%になると予測している。カンボジアの目覚ましい経済成長は数百万人を貧困層から救い、世銀によると貧困率は2020年までの10年間で半減して、18%に低下したという。こうした経済成長の代償として環境破壊、汚職、犯罪という別な問題が拡大しており、世界の汚職や腐敗を監視するNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)」の汚職番付では180カ国中、150位にランク付けされている。
今回の総選挙でも与党CPPが全議席を獲得する見込みで、選挙後も何も変わらないと予想されている。公務員は投票を強いられ、「選挙というよりは義務だ」との声も聞かれる。同記事は「このような見せかけの民主主義がフン・センのレガシーのもう一つの分かりやすい特徴だ」と指摘し、締めくくっている。
タイも含め東南アジアでは民主主義のない経済発展モデルがいつまで続くのだろうか。
7月21日付バンコク・ポスト紙(ビジネス1面)によると、タイ政府は2027年までにタイを東南アジア諸国連合(ASEAN)の「バイオハブ」にするために総額1900億バーツの投資を呼び込む「バイオ産業計画」に基づく新政策を推進している。2018年から2027年までのこの10年計画は現在、ちょうど半分が経過した。タイ工業省産業経済事務局(OIE)のワラワン事務局長は「タイ政府は目標を達成するためにこの計画のより効率的な実行を望んでいる」と訴えた。OIEは最近、この計画の調整のため政府機関や民間企業とブレーンストーミングを行った。同事務局長はこの会合で参加者が支持を表明した新対策として、バイオ産業で事業を行うのに必要な情報を潜在的投資家に提供するための「ワンストップサービスセンター」があるという。OIEがバイオ技術を活用する産業として想定しているのは食品、医薬品、食品サプリメント、ハーブ類、化粧品などで、少なくとも100億バーツの追加投資が期待できるという。さらに、政府当局はエネルギーや食品などを製造する原料として再生可能資源の開発を促進し、バイオエコノミーを通じた農家収入の拡大を支援することを望んでいるという。
TJRI編集部
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