「ランドブリッジ」で「タイ中蜜月関係」強化へ、なぜイスラエルか

「ランドブリッジ」で「タイ中蜜月関係」強化へ、なぜイスラエルか

公開日 2023.10.25

タイのセター首相が精力的な外交活動を続けている。20日付バンコク・ポスト(1面)によると同首相は19日、訪問先の北京で中国の習近平国家主席と初会談し、習首席のタイ公式訪問を要請したという。この会談で両国首脳は、タイと中国の協力関係の強化を約束するとともに、2025年に両国が国交樹立50周年を迎えることを受けて両国の高級レベル協議の促進を訴えた。そして両国首脳は経済協力や、世界の景気減速と米中の地政学的紛争が中国とタイの経済にもインパクトを与えるなどの経済トピックも協議。特に電気自動車(EV)、バッテリー、半導体、クリーンエネルギー、そしてタイのバイオ・循環型・グリーン(BCG)関連などのターゲット産業分野での貿易と投資の拡大で協力することで合意したという。

また、セター首相はタイ南部のマレー半島を横断する「ランドブリッジ」プロジェクトのメリットについて習首席に説明し、中国からの投資を呼び掛けた。これに対し、習首席は中国の投資家もタイでのメガプロジェクトに関心を持っていると答えた。このほか、タイが9月25日から導入した中国人旅行者に対するビザ免除制度にも言及する一方、10月3日にバンコクのサイアム・パラゴンで発生した銃乱射事件で中国人観光客が犠牲になったことに哀悼の意を示すとともに、犠牲者への補償提供と外国人旅行者の安全確保に全力を尽くすと表明した。

セター首相の訪中は巨大経済圏構想「一帯一路」国際協力サミットフォーラム参加も目的だ。19日付バンコク・ポスト紙(1面)によると18日に行われた同フォーラム関連の「グリーン・シルクロード」をテーマとした会議で、同首相はタイの3つのグリーン戦略を説明した上で、ランドブリッジ構想についても報告した。タイ政府報道官は、中国の輸送インフラ開発大手「中国港湾(CHEC)」がタイのランドブリッジプロジェクトへの参加に関心を示していると明らかにした。この訪中に先立ってタイ政府は16日、総額1兆バーツ相当のランドブリッジプロジェクトの継続を閣議承認するとともに、セター首相は運輸省に対し、同プロジェクトの加速を指示した。来年4月までに建設現場の調査を完了する予定だという。


パレスチナのイスラム組織ハマスとイスラエルとの軍事衝突・紛争がタイ社会にも大きな波紋を広げている。バンコク・ポスト紙などの報道によると、同紛争発生後、イスラエルでこれまでに30人のタイ人労働者が死亡、16人が負傷、17~19人が人質になっている。13日付同紙(1面)がフランスのAFP通信電(12日)として伝えたところによると、この時点までに判明した犠牲者数ではタイは21人で、米国の22人に次ぐ2番目だったという。タイ政府のデータによると、イスラエルには約3万人のタイ人が滞在しており、その大半が農業分野の労働者だという。そして19日時点でタイ労働省が明らかにした最新数字では、タイへの帰国便への搭乗希望登録者数は8273人で、既に1424人が帰国済みだ。

さらに20日付バンコク・ポスト(9面)の寄稿記事は興味深い指摘をしている。「タイ人にとってハマスによるタイ人労働者の大量殺害は不可思議だ。タイは、ハマスに何らかの被害を与えたこともなく、パレスチナ領域内で住民と何かトラブルを起こしたわけではない。安全に帰国したタイ人労働者の証言によると、タイ人はハマスから特にターゲットになったようだ。多分、ガザ地区のパレスチナ人はイスラエルの農場で働くタイ人に対して怒っているのだろう。その仕事は本来パレスチナ人に行くべきであり、行く可能性があったためだ」と指摘。そして、「タイとサウジアラビアの関係が昨年、正常化するまで30年間疎遠であったことで、タイ人にとってイスラエルが魅力的な職場だった」としている。このタイとサウジアラビアとの関係についてネット情報を調べてみると、1989年にサウジアラビアの王室で清掃員として働いていたタイ人男性が王室の宝石類を盗むという「ブルーダイヤモンド事件」以来、タイとサウジアラビアの関係が冷え込んでいたという。パレスチナとイスラエルの紛争は、タイ人の移民労働者の過去と現在、そしてその課題を浮かび上がらせてくれた。

TJRI編集部

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