カテゴリー: ニュース
公開日 2024.03.11
セター首相は昨年9月の就任後、世界主要国への外遊、トップセールスを繰り広げているだけでなく、新たな経済戦略も披露し、ビジネスマンらしいアピール力を発揮している。最近打ち出した「Ignite Thailand」ビジョンでは、2030年までに「観光」「医療・健康ツーリズム」「食品・農業」「航空」「ロジスティクス」「未来のモビリティー」「デジタル経済」「金融」の8分野で世界のハブ化を目指す構想をぶち上げた。しかし、こうした戦略や政治姿勢に懐疑的な見方も出始めている。
3月4日付バンコク・ポスト(1面)は「首相のハブ化の夢に専門家の見方は分かれている」との記事を掲載している。例えば、タイ開発調査研究所(TDRI)の上級経済リサーチャーのノンナリット氏はタイを地域の産業ハブに発展させることは「中所得国の罠」を抜け出すことに役立つ可能性があると指摘する一方で、政府機関は緊急に対処する必要のある分野を特定し、問題解決の焦点を絞り、資源をより効果的に投入すべきだとの認識を示した。具体的には、「もし政府がロジスティクス・ハブの促進を望むならランドブリッジ構想を捨て、温存した数十億バーツを国境問題の解決などに充てることができる」と訴えている。
同氏は「観光」「医療・健康ツーリズム」「ロジスティクス」の3分野ではタイは既に強みを持っているとする一方、他の5分野は課題に直面しており、例えば「航空」ハブに関しては、地域での競争が激化する中で、成長チャンスは狭まっているとする。また、世界の「金融」ハブとしては香港、シンガポールと競合できないと明言する。同記事はこのほか、「ハブのコンセプトは既に旧態依然のものだ」とし、セター首相の構想は「首相個人の夢に過ぎない。政府はより適切で、現在の問題に対処する短期的政策にフォーカスすべきだ」と批判する大学専門家の意見も紹介している。
また、3月7日付バンコクポスト(9面)で、「空っぽの約束をするのをやめる時だ」という辛辣なタイトルの論説記事を掲載している。同記事は、日経平均株価が過去最高値を更新している時に、タイ証券取引所のSET指数は「何年も水やりがなくしぼんでいく花のような動き」が続いており、今年の年初来では16%下落していると指摘。「なぜ投資家はタイの未来に悲観的なのか。タイが空っぽの約束しか伝えられていないからだ。私はこれらを“達成不可能な夢”と呼んでいる」との認識を示した。そして。日本が今、半導体産業の復活という1つの夢に賭けているのに対し、タイは「8つもの夢を掲げた」とし、セター首相の8分野のハブ化構想について皮肉を込めて表現している。
筆者もプラユット前政権が当初打ち出した「タイランド4.0」政策を初めて知った時、タイがこんなに総花的に先端産業を発展させることが可能なのかと感じたが、その後、バイオ・循環型・グリーン(BCG)戦略を前面に押し出し始めた時にはタイはこちらだろうと納得した。セター政権はもとに戻ってしまったかのようだ。セター氏も初めて政治家、そして初めて首相になって、張り切っているのは分かるが、まだ地に足が付いていない印象を受ける。
ちなみに3月9日付のバンコク・ポスト(1面)によると、セター首相はドイツでの観光イベントで講演し、タイ政府は今年、外国人観光客数で4000万人、観光収入は2兆3000億バーツを目指すとの目標を掲げたことを明らかにした。2023年の外国人観光客数は2800万人、観光収入は1兆2000億バーツだった。
シンガポールを拠点とする市場調査会社Differential(ディファレンシャル)が2月29日に発表した、2024年のタイの自動車正規ディーラーのアフターサービスに対する顧客度調査で、トヨタ自動車がトップとなり、2位にはいすゞ自動車、3位には米フォードがランクインした。この「2024タイランド・サービス・カスタマー経験指数調査」は、自動車購入12カ月から36カ月の間にメンテナンスや修理で正規ディーラーのサービスセンターを訪れたオーナーの満足度を調査したもので、同指数はトヨタが891ポイント、いすゞが886ポイント、フォードが885ポイントだった。4位以下はホンダ(883)、三菱自動車(883)、マツダ(877)、スズキ(876)、MG(871)、日産自動車(870)の順だった。中国の長城汽車(GWM)、比亜迪(BYD)、NETAはサンプル数が不十分なためランキング対象外としている。
TJRI編集部
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