ArayZ No.78 2018年6月発行知らないことがリスクです!国際相続
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カテゴリー: 会計・法務
公開日 2018.06.25
しかしタイを含むASEAN5ヵ国の2015年のGDPは平均5・5%と、不動産の「時価(実勢価額)」が不動産取得時点より大幅に上振れする可能性が高まっており、タイで所有している不動産を相続発生の時点で何の対策も立てずに日本の相続税法で評価すると、不動産の「時価(実勢価額)」で評価することになるため、多額の納税となる可能性があるのです。
※1 時価(実勢価額) 時価(実勢価格)とは、実際の取引が成立する価格のことです。売り手と買い手の間で需要と供給が釣り合う価格をいいます。
※2 公示価額 公示価額は、地価公示法に基づいて、毎年1月1日における標準地を選定して「土地取引のバロメーター」を判定し公示するもので、公共事業用地の取得価格の算定等の基準とされています。
目次
金融機関の口座については、ステートメント(定期的に送られてくる取引内容の通知書)に記載されている問合せ先に電話か手紙で問い合わせることになります。
また、マニュアルに沿った形式的・標準的な回答が中心で、日本人の相続手続きについて具体的で的確な回答がすぐに得られるかは不明なため、むしろ、時間はかかるものの、英文の手紙で事情を説明し、回答をもらうようにしたほうが、記録も残るのでよいと思われます。
問い合せを行う場合は、名義人が○月○日に死亡したこと、自分は名義人の相続人であること、相続手続きに当たって必要な書類を送って欲しいこと、などを説明する必要があります。
また最近はステートメントを郵送せず、口座明細をオンラインで確認するケースが増えてきているようです。オンライン明細を利用している場合は、家族が口座のあることすら確認できない可能性も高いため、タイに財産をお持ちの方は、なるべく財産の一覧を作成の上、家族同士で情報をあらかじめ共有しておくことが重要です。
(1)被相続人の必要書類整備
(金融機関他によって提出資料が異なる場合があります)
相続手続きを行う際には、亡くなった方の①戸籍謄本②婚姻証明書③遺産分割協議書※1④死亡診断書※2を日本側で揃えて、下記の手続きを行いタイの金融機関他に提出します。
(2)法定相続人(または相続管理人)の必要書類整備
(金融機関他によって提出資料が異なる場合があります)
相続財産を取得する相続人は、①戸籍謄本②婚姻証明書③パスポート等を日本側で揃えて、次の手続きを行います。また亡くなった方の銀行の通帳が紛失している場合は、タイの警察署で④紛失届(通帳紛失等の場合)も取得しタイの金融機関他に提出します。
(3)法定相続人がタイの金融機関口座未開設の場合
法定相続人がタイを訪れ、被相続人の預金がある金融機関で法定相続人の口座を新しく開設します。
タイの金融機関(銀行・証券会社)
①銀行に上記書類を持ち込み、被相続人の相続財産を法定相続人の口座に移動する ②証券会社に上記書類を持ち込み、被相続人の株式を法定相続人の名義に変更する
タイの不動産
タイの土地局にて被相続人の不動産の名義を法定相続人の名義へ変更します。
※1 遺産分割協議書
日本の「遺産分割協議書」をタイの金融機関に提出する場合、法定相続人が「本人であること」の確認が求められます。この場合相続人全員の署名についてそれぞれサイン証明書を要求されます。
日本の相続手続きにより相続人間で遣産分割協議書を調印し、関係者全員の印鑑証明も集めていましたが、さらに相続人全員に公証役場に行ってもらい、署名の公証(本人がサインしたことを証明する)を取得してもらうことはかなりの負担です。
タイには印鑑証明書が無いので、代わりにサイン証明書を要求されますが、法定相続人が「本人であること」が先方で確認できれば、印鑑証明書(英訳付きの必要あり)でもよいはずです。
なお遺産分割協議書のため「サイン証明書」の発行を受ける時には、サイン前の遺産分割協議書および日本国籍であることが確認できる書類が必要です。「サイン証明書」は、証明を行う領事の前で署名等を行う必要があるため、必ず本人が申請に行かなければなりません。
※2 死亡診断書(除籍謄本)
タイでは被相続人が亡くなったことを証明する必要がありますが、日本で死亡を公的に証明する書類は「除籍謄本」となります(「死亡診断書」という公的書類はありません)。死亡診断書は、除籍謄本を英訳し、除籍謄本を添付した翻訳書に公証人による公証を受けることになります。
海外では、日本国大使館が英文の「Death Certificate」を発行してくれますが、これはもともと英文なので、英訳の必要がなく便利です。ただ、日本国大使館は除籍謄本を確認の上、「Death Certificate」を発行してくれますが、現地の窓口に直接出向く必要があり、日本から除籍謄本を郵送しただけでは「Death Certificate」の発行には応じてくれない場合が多いようです。
すなわち、翻訳者が、「英訳の内容が原本の内容と相違ないこと」などを宣誓して翻訳書に署名し、これについて、公証人は「記載内容(翻訳)が真実である旨を(翻訳者が)宣誓した上で署名した」ことを認証します。
POINT
被相続人はこれらの手続きを行わなければならない。注意すべきは、日本への納税は相続人が死亡して10ヵ月以内に現金で納付しなければならない点。タイの銀行預金を凍結された場合、解凍までに数カ月かかることも。タイの預金から納税をと考えている場合、すぐに手続きを始めなければ間に合わない可能性も。
具体的なケースを前に、納税義務者の対象と近年の法改正を見ていきます。
《所得税法上の納税義務者》
所得税法上は、日本国籍を有する個人でも、日本に住所が無いかまたは1年以上継続してタイに居所(住んでいるところ)がある人は「日本の非居住者」となり、それ以外の「日本の居住者」が所得税の納税義務者となります。
この判定においては「住所」=「生活の本拠地」が重要な要素となり、所得税法・相続税法上もいずれも「日本国籍を有し、日本国内に生計を一にする親族がおり、また日本国内において職業、資産の有無等に照らして、その人が日本国内において継続して1年以上居住するものと推測するに足る事実があるとき」は、その人は日本国内に住所があるとみなしています。
《相続税法上の納税義務者》
日本国籍を持っている相続人及び被相続人がともに10年超継続して海外に住んでいると、相続人は「制限納税義務者」となり日本国内の財産にのみ課税され、タイの財産には課税されません。
上記の条件を満たさない場合、相続人は「居住無制限納税義務者」又は「非居住無制限納税義務者」に区分され、タイと日本両方の財産が日本の相続税の課税対象となります(一時的滞在者の場合は対象外)。
「居住無制限納税義務者」及び「非居住無制限納税義務者」は日本・タイの財産両方に課税されるため財産の所在を判定する必要がありません。
しかし「制限納税義務者」は日本の財産のみに課税されるため、財産の所在地がどこか、判定を行う必要があります。
【改正点①】過去のタイ居住期間の拡大
被相続人・相続人共に相続時前10年以内の住所地での判断と範囲が拡大しました。
【改正点②】一時的滞在者の場合
一定要件の場合、一時的滞在者の場合は国内財産のみが課税対象とされました。
【改正点③】制限納税義務者の範囲の拡大
国外に居住する被相続人等が相続等の時前10年以内に国内に住所を有していることがある場合に、外国居住、かつ外国籍の相続人等については非居住無制限納税義務者となり国外財産を含む全財産が課税対象となります。
POINT
改正点①は5年から10年に変更されている。5年で記憶している人は注意が必要。
CASE1:
親(被相続人)がタイ在住、子供(相続人)が日本に居住している 工作機械を製造するタイ法人であるタイ山田機械株式会社(国外財産)を20年以上経営している山田社長は、アユタヤでコンドミニアム(国外財産)を所有しています。また日本にも兄弟会社である山田機械株式会社(国内財産)を経営しています。この山田社長には太郎さんという息子がいますが、東京で銀行に勤めています。タイで山田社長が亡くなった場合、太郎さんが相続した財産は日本から課税されますか。
→太郎さんは日本の国内財産とタイの国外財産の両方に課税されます。
解説:
被相続人である山田社長はタイに10年超居住しており、日本の国内に住所はありませんが、相続人である太郎さんは日本の住所があるため「居住無制限納税義務者」となり、日本の国内財産である山田機械株式会社の株式とタイの財産であるタイ山田機械社株式・コンドミニアムの両方に課税されます。
CASE2:
親(被相続人)が タイから日本に 帰国するケース タイで30年にわたってクリーンタイランド社を経営していた佐々木社長は、70歳になったため日系企業に会社を売却し、日本に帰国することになりました。この佐々木社長には陽子さんという一人娘がおり、日本の佐々木社長の自宅(国内財産)に住んでいます。タイには会社を売却した代金が銀行預金(国外財産)として残されています。佐々木社長が亡くなるときに陽子さんが相続した財産は日本から課税されますか。
→陽子さんは日本の国内財産とタイの国外財産の両方に課税されます。
解説:
被相続人である佐々木社長は10年超年タイで暮らしていましたが、日本に帰国してしまったため日本に住所のある居住者となります。また相続人である陽子さんは日本に住所があるため「居住無制限納税義務者」となり、佐々木社長が所有しているタイの財産としての銀行預金(在外財産)と日本の自宅(国内財産)の両方に課税されます。
CASE3:
由香さん(制限納税義務者)と敦さん(無制限納税義務者)両方が相続人のケース 武者小路社長は日本で中古タイヤの輸出を行う日本タイヤダイヤ社(国内財産)を経営していますが、15年前に子会社のタイヤシラチャ社(国外財産)をシラチャに設立しました。今は奥様である由香さん(社長と同時期に来タイ)とパタヤのコンドミニアム(国外財産)で暮らしています。武者小路社長には息子敦さんがいますが、日本タイヤダイヤ社の役員になっており、日本には銀行預金(国内財産)もあります。武者小路社長がタイで亡くなった時、由香さんと敦さんが相続した財産は日本から課税されますか。
→息子敦さんは日本の国内財産とタイの国外財産の両方に課税されます。妻由香さんはタイの国外財産には課税されず、日本の国内財産のみに課税されます。
解説:
被相続人である武者小路社長は10年超タイで暮らしており、日本に住所もありません。相続人である由香さんは日本国籍ですが、10年超タイで暮らしており、日本に住所はありません。そのため、「制限納税義務者」となり、日本タイヤダイヤ社株式・銀行預金(国内財産)のみに課税され、タイの財産には課税されません。相続人である敦さんは日本に住所があるため、「居住無制限納税義務者」となります。そのため日本タイヤダイヤ社株式・銀行預金(国内財産)とタイヤシラチャ社株式・コンドミニアム(国外財産)の両方に課税されます。
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THAIBIZ編集部
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