カテゴリー: バイオ・BCG・農業
公開日 2024.01.15 Sponsered
中所得国の罠からの脱却と環境問題への対応は、タイにとって国をあげた重点課題の一つである。こうした課題に技術開発面で国際協力に取り組んでいるのが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)だ。NEDOは、日タイの技術交流の促進や新たな共同事業の創出を目指し、タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)と共に定期的に合同ウェビナーを開催している。1月30日(火)には、同ウェビナーシリーズでは初となる「バイオリファイナリー」をテーマとしたウェビナーを開催予定で、当該分野における最新の日タイのビジネス連携の情報を発信するという。
科学技術やイノベーションを活用し、タイの強みである生物資源・農産物の高付加価値化は、化石燃料使用の削減と新たな産業の振興でタイ経済の活性化にもつながる––––。
日タイの新たなビジネス創出をサポートするTJRIとしても興味深いトピックだ。そこで今回はガンタトーンが、NEDOバンコク事務所の川村寛範所長に突撃インタビュー。NEDOとNSTDAの関係や今回のウェビナーのポイントについて聞いた。目次
川村所長: NEDOは、エネルギーや環境問題を解決するための技術の開発・実証・導入・普及をメイン事業としており、海外での日本の技術導入にも協力しています。一方、NSTDAは、日本で言う産業技術総合研究所(産総研)のような機関で、タイの研究開発やイノベーションを司る研究所です。タイでわれわれが活動するためにはタイ側のパートナーは必要不可欠です。政策や技術面での協力をしながらビジネスを考える上ではNSTDAが最良のパートナーだと考えています。
実は2012年にもNSTDAとMOUを締結し、いくつかの共同プロジェクトを実施しました。今回、日タイ両国の政策や技術協力で事業連携を強化していきたいという双方の意向が一致し、2021年に改めて協力MOUを締結しました。
川村所長:NEDOの存在や活動内容、日本の技術についてタイの方々に知ってもらうことが目的としてあります。NEDOは、技術開発を行っているほぼ全ての日本企業と関係を持っていますが、民間企業だけでは投資リスクがあり、実用化や普及が難しい重要技術もあります。タイの社会課題を解決するための技術開発や実証、導入事業においては、タイと日本のお互いの強みを活かして共同でプロジェクトを推進していくことが一番あるべき姿です。その際にファンディング機能もあるわれわれがタイ政府を含めタイ企業との間に入って新技術の市場化や課題解決に貢献していきたいと考えています。
しかしNEDO単体でタイの人々にPRするには限界があり、タイ側のパートナーが必要です。タイで認知度があり、NEDOの活動とも親和性があるNSTDAがベストなパートナーだと思っています。
川村所長:ウェビナー開催後に技術を持つ日本企業だけでなく、タイ側からも詳しく話を聞きたいといった問合せが増え、NEDOの認知度を広めるきっかけづくりとして効果はあったと思います。ウェビナーをきっかけとして、これまで互いにコンタクトを取ることがなかった企業間との関係が生まれ、NEDO事業を始めとした両国の共同プロジェクトにつながることに期待しています。
川村所長: NSTDA傘下のエネルギー技術センター(ENTEC)と共同でバイオディーゼルの開発プロジェクトを行なっています。タイではディーゼル燃料にバイオ燃料が10%程度混合されています。この比率を高めることにより化石燃料由来の軽油利用量を減らすことができますが、現状はバイオ燃料の比率を高めると、酸化劣化、流動性、窒素酸化物(NOx)などの問題が起きるため、混合比率30%以下(タイでは20%以下)までしか入れることができません。しかし、バイオ燃料の比率を高められる技術が日本の産総研にあり、その技術をNEDOバンコク事務所とENTECが共同開発しています。まだ課題はありますが、技術的には走れるところまで開発が進んでおり、各社の協力を得て実証範囲を広げていきたいと思っています。
B100(バイオディーゼル100%)が実現すればカーボンニュートラルにも貢献でき、今後PRにも力を入れていきたいと考えています。
川村所長:タイ政府の政策の一つということもありますが、新たな産業を考えた時に、バイオリファイナリー分野こそ大きなポテンシャルがあります。タイは農業大国で、バイオマス資源がたくさんあるので、それをうまく利活用していくことで、農家の収入アップになり、ひいては経済発展につながります。特に野焼きは深刻な環境問題になっていますが、農業残さは有用成分に転換できるので、もっと有効な利用方法に変えていくべきです。バイオリファイナリーを活用すれば、化粧品や化成品などものによっては何十倍もの付加価値のある物質に転換できます。
現在NSTDAがバイオリファイナリーのプラントをラヨーン県に建設中で、タイ政府も本格的に取り組んでいるベストなタイミングであるため、今回ウェビナーのテーマにしました。
川村所長:日本は古くから発酵・酵母・菌などの技術を身近に活用しており、現代においては科学技術の進歩で、機械化・自動化も進んでいます。バイオリファイナリーにおいて、日本は技術があるもののバイオマス資源が少なく、輸入に頼っている実態もあります。そこで日本の強み(技術)とタイの強み(豊富なバイオマス資源)を活かすことができれば、日タイの新たな経済共創にもつながると考えています。
川村所長:日本側からは、バイオ技術でタイでも活躍している企業を代表して東レ、花王、スパイバーが各社の技術を紹介します。いずれの会社も国内外においてNEDOが支援をしてきた企業です。一方タイ側は、NSTDA含め、研究機関や学術機関よりタイのバイオリファイナリー産業の最新情報と今年EECiに完成するバイオリファイナリー施設の概要を説明します。今回のウェビナーを通じて、まずは当該技術に関する現状を知っていただき、今後の日タイの新規ビジネス創出のきっかけになれば幸いです。
登壇者のプレゼン概要は、以下の通り。
NEDOがナショナルプロジェクトとして実施しているバイオリファイナリー関連事業を紹介。バイオマスエネルギーとして利用が期待されるバイオジェット燃料や、バイオマス資源の活用としてセルロースナノファイバーの利用、また、新たに大型の基金としてバイオものづくりで開始されたバイオものづくり革命推進事業など、最新の具体事例・取組について取り上げます。
水処理分離膜技術とバイオ技術を融合した「膜利用バイオプロセス」技術を紹介。サトウキビの搾汁した後の残さであるバガスには付加価値の高いオリゴ糖やポリフェノール成分が含まれる。この膜技術を利用すれば、従来の熱処理に比べ50%も省エネとなり、CO2の削減のみならず、高付加価値の製品が生まれ、新たなビジネスチャンスが見込まれます。
バイオリファイナリーの事例として、キャッサバの農業残さ(キャッサバパルプ)を活用し、洗剤など石油由来の代替品となるバイオ由来の生活用品をつくる技術を紹介。現在、実現可能性調査の段階で、まだ実証段階には至っていませんが、BCG(バイオ・循環・グリーン)経済の理想とした形を実現しつつある好例です。
人工タンパク質素材の開発において、植物由来の原料をもとに循環型の素材の幅を広げる技術を紹介。原料の一つである糖を可食資源から非可食資源であるバガスなどの農業残さから作ったセルロースを利用することを目指しており、循環型経済実現の可能性が見込まれています。
BIOTECはバイオマス資源の有効利用に関する研究開発を行っており、具体的な取り組みや研究の進捗を紹介します。
EECiに建設中のバイオリファイナリーのパイロットプラントの詳細を紹介します。完成後は、産学官が共同で研究開発やデモ、実証できるタイのバイオリファイナリーのハブを目指し、国や業界を超えたネットワークや協業が期待される注目の施設です。
タイのバイオリファイナリー産業(どのようなタイ企業が参入し、どのような技術があるかなど)の現状を共有します。
PMUCは競争力向上事業管理ユニットであり、国家高等教育・科学・研究・イノベーション政策評議会事務局の監督下に置かれています。国の競争力を向上させることを目的とし、研究資金を支援する業務を行っています。国内外の官民連携の促進を図り、研究成果を実用化し、社会実装を目指しています。今回のウェビナーでは当組織の取り組みをはじめ、バイオリファイナリー事業に関わる研究支援について紹介します。
日時 | 2024年1月30日(火) 9:00-12:00(タイ時間)/ 11:00-14:00(日本時間) |
場所 | Webexによるオンライン配信 |
言語 | 日本語・タイ語(字幕付き) |
費用 | 無料 |
申込〆切 | 1月29日(月)16:00(タイ時間)/ 18:00(日本時間) |
主催 | タイ国立科学技術開発庁(NSTDA) 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) |
後援 | タイ王国高等教育科学イノベーション省 在タイ日本大使館 |
※チラシのダウンロードはこちら
タイ時間 | プログラム |
---|---|
09:00 – 09:05 | ガイダンス・イントロダクション |
09:05 – 09:15 | 開会の挨拶 Dr. Uracha Ruktanonchai Executive Vice President, NSTDA |
09:15 – 09:35 | タイのネットゼロ社会に向けた バイオリファイナリー産業の将来に関する進捗状況 Assoc. Prof. Dr.Jintawat Chaichanawong Head of Advanced Material Processing Research Laboratory Faculty of Engineering Thai-Nichi Institute of Technology (TNI) Dr. Mahunnop Fakkao Lecturer, Faculty of Engineering Thai-Nichi Institute of Technology (TNI) |
09:35 – 09:55 | 微生物細胞工場と酵素プロセスによるリグノセルロースの 汎用および特殊バイオケミカルへの変換 Dr. Verawat Champreda Director of Biorefinery and Bioproduct Technology Research Group National Center for Genetic Engineering and BioTechnology (BIOTEC) |
09:55 – 10:15 | EECiのバイオリファイナリープラントについて Dr. Pitichon Klomjit Senior Engineer Infrastructure Development Department (IDD), NSTDA |
10:15 – 10:35 | PMUCによるバイオリファイナリー製品の開発支援 Prof. Dr. Apanee Luengnaruemitchai Chairperson Energy, Chemicals and Biomaterials Program Board Program Management Unit for Competitiveness (PMUC) |
10:35 – 10:55 | NEDOのバイオリファイナリー技術開発 Ms. KINOSHITA Riko Chief Officer Bioeconomy Promotion Division Materials Technology and Nanotechnology Department, NEDO Japan |
10:55 – 11:15 | 膜を利用したセルロース系バイオマスの持続可能な製品 KIMURA Masahiro, Ph.D. Deputy Representative, Toray Group (Thailand) Vice President, Toray Industries (Thailand) Co., Ltd. President, Cellulosic Biomass Technology Co., Ltd. |
11:15 – 11:35 | 花王のバイオリファイナリーの取り組み Mr. SHIBATA Nozomu Group Manager, Biological Research, Kao Corporation |
11:35 – 11:55 | 循環型素材の幅を広げるタンパク質利用技術 Mr. SUGAHARA Junichi Managing Director, Spiber Inc. |
11:55 – 12:00 | 閉会の挨拶 Mr. KAWAMURA Hironori Chief Representative, NEDO Bangkok Office |
【本ウェビナーに関するお問い合わせ先】
タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)Ms. Mullika Kulsiripruck
TEL:+66-(0)2-564-7000 # 71486
Email:[email protected]
NEDOバンコク事務所 木内 茂
TEL:+66-(0)2-256-6725
Email:[email protected]
TJRI編集部
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