連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2024.03.11
中所得国の罠の脱却を目指すタイは東南アジアの自動車生産ハブとなり、4輪車の普及が急速に進んだが、それでも2輪車、バイクは今でも人々の生活に根差した必須の移動手段となっている。そうした中、1社で80%近い圧倒的なシェアを誇るのがホンダだ。2021年3月に2輪の生産会社、販売会社が合併して再出発したタイ・ホンダの木村滋利社長に、現在の事業概要、生販統合の背景と効果、電動バイクの見通し、そして安全教育などについて話を聞いた。
(インタビューは2月14日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
木村社長:昨年の販売台数は全体市場が前年比4%増の188万台で、ホンダは同6%増の147万台でシェアは78%だった。ホンダの2輪車のカテゴリーには、「アンダーボーン」の WAVE(ウェーブ)に代表される遠心クラッチのお仕事バイク的なCub(カブ)と、 AT(オートマチック)車と呼んでいるクラッチ操作の必要がないスクーター、それからスポーツと呼ばれるモーターサイクル系がある。直近ではスクーターのシェアがカブを抜いて半数を超えた。構成比が逆転した背景には、他のバイクメーカーからも新しいスクーターの投入が増え、スクーターの多様化が進んできたこともある。
ベトナムやインドネシアではスクーターの構成比が8割を占めている。タイではこれまで45パーセントぐらいだったが、この2~3年で非常に伸びてきた。Waveは「スーパーカブ」から東南アジアのお客様の嗜好にあったデザインと仕様に進化していった。Waveシリーズはアンダーボーンカテゴリーの中で92%のシェアを占めている。坂道を上る時やタフな道などパワーが必要な時は、カブの方が利便性は高いし、燃費もいい。しかしながら、道路の改善などインフラ整備が進んできたことや多様なデザインの150㏄以上の排気量のスクーターの登場で、スクーターの地位が再認識されてきている。
一方、ホンダはパワープロダクツ(耕うん機や芝刈り機などの生活を支える製品)事業では汎用エンジンを全世界で約560万台作っているが、タイではその半分の280万台、生産・販売している。
木村社長:市場全体では最大で約7-8%減の170万~175万ぐらい。ホンダは130~135万台にとどまる見込みだ。全体の経済が回復していかないと予想していることと、2輪車はローンで買う人たちが6~7割を占めているので、昨年来のファイナンスの厳格化がピックアップ車だけではなくバイクにも影響してきている。さらに、タイ経済の課題となっている家計債務の増加を抑制しようという動きがあり、昨年1月に導入されたファイナンス規制の第2弾が今年上期に導入される可能性があり、マイナスの影響を与えるかもしれない。ただ、需要は非常に堅調なので、その兼ね合いを見る必要がある。
木村社長:タイ・ホンダの事業は2輪車とパワープロダクツの生産・販売だ。2輪車は約8割が国内向けで、約2割が高付加価値系バイク(趣味性の高いバイクで排気量は650㏄まで)で、全世界に輸出している。一方、汎用エンジンなどのパワープロダクツ事業は逆に約90パーセントが輸出で、タイ国内向けは約10%しかない。グローバルのホンダでも、タイはパワープロダクツの非常に重要な輸出拠点となっている。「品質の良い製品を適正な価格で」というのが社是で、タイは全世界に輸出できる生産拠点として37年間揺るぎなくやってきた。
ホンダは2輪車を全世界で約1900万台、生産・販売している。そのうちタイは160万~170万台、生産・販売しているので、10%少し切るぐらいのシェアだ。生産台数が一番大きいのはインドで、インドネシア、ベトナム、タイと続く。タイは台数的には4番目ということだが、世界のハブなので、例えば初めてビッグバイクの専売店を作るなど、先鞭を取る取り組みが多い。「ウィングセンター」「ビッグウィング」「カブハウス」という3種類の販売店ネットワークを持っているのはタイだけだ。カブハウスはまだタイだけでしかやっていないが、ビッグウィングはタイから始まり、インドネシアなど他の国に展開している。
ウィングセンターは約1300店舗あるがすべて地元資本のディーラーで、直資(直営)ではやっていない。ビッグウィングは22店舗で、1店舗だけバンコクに直資のディーラーを持っている。タイのプレミアムブランドのグレイハウンドさんがパートナーとなっているカブハウスは15店舗あり、直資はバンコク・エカマイにある1店舗だけで、その他は地元資本のディーラーに経営してもらっている。
タイではアンダーボーン(カブ)の構成比が他国と比べて高いままである理由として再販価格が大きく影響している。燃費や動力性能だけでなく中古の再販価格が、カブの方がスクーターより高い傾向にある。カブの方が頑丈で信頼性があるということ。タイ人のイメージもあって、スクーターに急激に移行しなかったが、最近、大分変わってきた。
木村社長:長い歴史の中で、生産を先に始めて、販売は当初パートナーのポンプラパー家の「P Thailand Machinery」という会社を含む複数の地元資本の会社に任せていたが、販売事業を一緒にやっていこうということになり作った合弁会社が「A.P.ホンダ」だった。その後、モビリティー事業の変革期を迎えるにあたり、経営効率向上のため生販一体会社にした。他の国でも、生販別会社というのはスタンダードではない。
生販一体化した時にたまたま新型コロナウイルス流行に見舞われ、市況が悪化したが、われわれのディーラー、サプライヤーは1社も倒産しなかった。これは、全体のサプライチェーンの在庫をとにかく減らしキャッシュを守ること、そして売れる商品を適材適所に早く供給するなどの対応において、生販一体になることで早い決断ができた。経営判断のスピード化、効率化が図れた。
木村社長:生産現場で感染者がたくさん出てしまったので「1勤」にしたりして生産量は上がらなかった。加えて4輪に続き2輪も半導体不足の影響が出ることが予測されていた。2輪は4輪のような先進的なものではないが、メーターや燃料噴射装置などで半導体を使っていて、それすら供給不足が生じると社内で想定した。
実はコロナの2カ月前にWAVEの一番売れている機種で、アナログメーターからデジタルメーターに切り替えた。液晶の針はアナログだが、信号はデジタルで、ここでは簡易的な半導体を使う。半導体がなくなることを察知した時点で図面をアナログに戻した。これだけで約50万個以上の半導体の節約になり、ホンダにとってもグローバルに助かる。サプライヤー様にも協力いただいて、お客様にも納得いくよう売価設定もした上で販売した。ディーラー様からも売るものがあって良かったと言っていただいたし、何よりお客様に製品を供給し続けることができた。生販統合で1社になったことで、こうした経営判断は迅速にできるようになった。二輪のコロナ後の需要回復は想定通り早く、工場の生産を止めなかったことで、追随することができた。2輪は生活に根差した商品であり、ニーズは一定してあると改めて感じた。(下へ続く)
TJRI編集部
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