THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略
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カテゴリー: 対談・インタビュー
連載: 在タイ日本人駐在員の挑戦
公開日 2024.05.10
慣れ親しんだ日本の職場とは全く異なる環境に飛び込み、異国の地で成果を求められる在タイ日本人駐在員。責務を全うしようとすればするほど「自分はこんなに頑張っているのに、なぜタイ人社員は動いてくれないのか?」と、やりきれない感情に圧し潰されそうになることはないだろうか。
「タイ人社員と一緒に成果を生み出すためには、双方向の関係性構築が大切だと実感しています」こう話すのは、2019年に来泰した三菱自動車タイランドの小林善幸氏。自動車の生産、販売、輸出を通してタイ社会への貢献に向け奮闘する彼に、日々の挑戦や、タイ人と働くにあたって意識していることについて話を聞いた。
弊社は1961年に創業し、今年で64年目です。2023年12月末時点の従業員数は7,000名程度、うち日本人は100名強。自動車の生産、販売、輸出事業をタイで行っています。
私は2019年春に三菱自動車工業株式会社へ中途入社し、同年秋に駐在員としてタイに赴任しました。前職で経営企画の仕事に従事していたこともあり、現在はCorporate Strategy Divisionを率いています。中期経営計画・年間計画などの全社計画の策定、経営会議等の全社会議の運営、そして渉外対応を担当しています。
私の部門では、主にタイ政府の出す自動車関連の政策に対して「当社の戦略と照らし合わせた上でどう対応していくか」「どのようなリクエストをタイ政府に要望・交渉していくのか」といった観点から関連部署と一緒に検討をしています。
もちろん、自社の利益のために一方的にタイ政府へ要求を伝えるのではありません。そのリクエストによりタイ政府、タイの国民の皆さんがどのような恩恵を受けられるのか、双方向の視点から適切に伝えることが必要です。
伝える相手は様々で、日々の実務間で関係省庁職員と調整することもあれば、セター首相や各大臣へ直接リクエストすることもあります。昨年12月のセター首相訪日では、弊社のこれまでのタイへの貢献、並びに弊社の要望を直接伝える機会をいただき、タイと一緒に自動車産業を成長させていきたいとお伝えしました。
日本のように「一を伝えれば十を理解してくれる」前提でタイ人と仕事をすると、うまくいきません。
一分一秒単位でスケジュールが詰まっている役員に何かを説明しなければならない場面が多々ありますが、そんな多忙な人たちに向けた資料作りが良い例です。前置きや周知の事実を長く説明してしまうと、結論に辿り着く前にタイムオーバーしてしまうことが少なくありません。そのため、構成、枚数、文字の大きさまで、我々のゴールをきちんと考えて意識してもらった上で「このように作ってほしい」と伝えるようにしています。
仕事における共通言語は英語。お互いにとって第二言語です。完成イメージや例えの提示なしで「すべて分かってくれるだろう」は通用しない、と考えるようになりました。
その通りです。最近では、タイ政府の電気自動車(EV)普及支援策に応じた中国メーカーが、補助金を活用して多くの中国製EVを中国から輸入し、タイで販売しています。タイの国民の皆さんにとってEVという新たな選択肢が増えることは望ましいものの、完成車を輸入する中国メーカーと、タイで現地生産している日本メーカーでは状況が全く異なるため、日本メーカーに対する支援内容の充実をタイ政府に強くリクエストしたいのが正直なところです。しかし「フェアじゃない!日本にも、もっと支援してくれ!」と一方的に叫ぶだけでは、耳を傾けてもらえません。
電気自動車を普及させること自体を否定する訳ではありませんが、例えば現状のチャージングステーションの設置状況を提示しながら「特に郊外ではチャージングステーションの数が乏しい実情があるけれど、このままEVを増やし続けることがタイの国民の皆さんにとって最善なのか」といった観点からの訴求が考えられます。
間違ったアプローチを取ると自分の意図とは異なる結果を生む可能性があるため、その都度「適切な伝え方」を考えて工夫する必要があります。
「タイの会社の成長をけん引するぞ」と気負ってタイに来ましたが、夜な夜な仕事をしている時にふと「自分一人が頑張っていても、たかが知れている」と思うことがあります。日本人としてすべき仕事はもちろんありますが、いくら日本人が頑張っても、日本人だけの力で成長をけん引できるはずがありません。それこそ、タイ人社員の力が必要なのです。
例えば、渉外対応ではタイ政府の方が相手なので、基本的には英語を使用しています。一方で正確性を期するために、最終的な細かいニュアンスについてはやはりタイ語が必須となり、タイ人社員との連携が欠かせません。会社の求めることをきちんと理解し、その上で交渉を任せることが大切です。
「では、どうすればタイ人社員にもっと動いてもらえるのか」そう考えた結果、辿り着いた答えは〝信頼関係”でした。「日本人とタイ人」も、結局は「人と人」。誰でも、好きになれない人の話は聞きたくないはずです。この人と働いて一緒に成果を出したいと思ってもらえる環境でなければ成果は生まれません。そのため「人として、自分のことをいかに好きになってもらえるか」を意識するようになりました。
具体的には、一緒に働くタイ人社員のキャリアプランや個々の成長に向けたトレーニングの機会を提供したり、彼らの「やってみたい」を尊重して仕事を任せたりすることで、「この人は私のことをきちんと考えてくれている、この人についていこう」と信頼を寄せてもらえるのではないでしょうか。
よりよい信頼関係を築くには、仕事の場だけでなくプライベートも重要だと私は考えています。「趣味や家族のことなど、プライベートな話題も気軽に話せる関係を築くためには、私自身のプライベートな部分も知ってもらう必要がある」そう考えて先日はホームパーティーを計画し、一緒に働いているタイ人社員を自宅に招待しました。打ち解けた雰囲気の中で腹を割って色々な話ができたのはもちろんのこと、それまであまり交流がなかった社員同士でも話が弾んでいたようで、想像以上に有意義な時間を過ごすことができました。
このように、例え任期中だけの一時的な関係だとしても「仕事仲間でいる間は、一緒にいい成果を残そう!」といった雰囲気を醸し出すことで、一体感が得られるように思います。
そうだと思います。私の考える駐在員としての役割は、タイの人たちとの絆をできる限り深めて、後任にバトンタッチする土台を作っておくこと。タイで働けることに感謝しつつ、残りの任期も大切に過ごしたいです。
小林 善幸氏
Division General Manager, Corporate Strategy Div.
Mitsubishi Motors (Thailand) Co., Ltd.
前職にて約10年事業計画、経営企画に携わった後、2019年に三菱自動車工業株式会社へ中途入社。同年秋より三菱自動車タイランドに異動。全社計画の策定、全社会議の運営、渉外対応の業務を担う。タイ駐在5年目。
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THAIBIZ編集部
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