カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2017.02.28
大手財閥の大半は華僑・華人によって形成されたもので、タイの経済に多大な影響を与えてきた。
タイは経済が実質的に動き始めたと言える1960年代頃から外貨流入が始まり、80年代には建設ラッシュ、85年の円高以降はタイ国外からの民間直接投資が急増し、高度経済成長を迎えた。この過程で中心的役割を果たしていたのが華僑・華人の政商らであり、国家的事業を推進、外資の資金力や技術力、経営ノウハウを吸収して新事業を展開していく中で財閥は形成されていった。
彼らの経営・運営の行動基盤は「商人資本的、同族経営、ファミリービジネス」にあると言われるが、時代の変化と経済発展に伴い、ビジネスチャンスを拡大させ、企業組織として多角的な事業展開を繰り返すことでコングロマリット・企業グループ化してきた。
一方、タイ王室財産管理局が筆頭株主となっているサイアム・セメント社は非華僑系の財閥だ。同社は1913年、デンマーク人の生産技術・経営ノウハウと国王・王族などの資金・人脈が融合して誕生した、タイ人による初の製造業企業と言われているが、74年に初めてタイ人社長が誕生するまでの60年間はデンマーク人が社長を務めていた。
設立当初、資本金のおよそ半分を出資していたのは国王財産局(国王の私的財産を扱う機関)であり、設立から8年後に行われた3倍増資の際には、その80%を同機関が出資するなど、国王の私的事業的な性格を持っていた。
しかし、32年の立憲革命の際に同機関は解体、現在の王室財産管理局に引き継がれ、現在所有しているのは全株式の30%程度。これを機に国王の私的事業から議会の監視を受ける公的機関へと変わり、さらに王室から独立した経営者らが事業を取り仕切る、近代的な産業コングロマリットへと変化を遂げることとなる。
現在では重化学工業や技術集約型産業分野の企業買収や資本参加などにより事業展開を拡大、サイアム・セメントグループとして不動の地位を確立している。
同グループは日系企業との関わりも深く、タイ人社長二代目のソムマーイ・フントゥラグーン氏が戦後日本の高度経済成長や技術力に注目し、欧州企業との関わりしかなかったグループを日系企業と結びつけたことから、日本からの投資を呼び込むきっかけを作ったと言われている。
企業はどのようにして財閥へと変貌を遂げたのだろうか。タイにおいては、創業時に行っていた母体事業に関連する製品や分野に展開していったケースが多く存在し、製品の生産工程上で発生する原料や中間製品などを製造したり、生産した製品を使用して次の製品を製造する「垂直的統合」と、既存の流通体制やブランドを活用して他製品の製造販売する「水平的統合」の両方を併せ持った動きが繰り返されてきた。
例えば、「シンハー」ブランドを展開する1933年設立のビール醸造会社大手、ブンロート・ブリュワリー社では、東洋製缶との合弁によるビール瓶の王冠製造会社をはじめ、ビール瓶製造のガラス会社、運搬用プラスチック・ケースの製造会社、原料である大麦の栽培農園、モルト工場などを買収や出資によって次々に設立した。また、タイ国内のビール市場における競争企業の出現、度重なる酒税引き上げの対応策として、ソーダ水や飲料水の製造販売に乗り出し事業を多角化。不動産など一部の事業を除いては、今も本業のビール醸造が事業の基幹にある。
同様に飼料の輸入販売から始まったCPグループも、飼料の国内生産、ブロイラーの飼育と解体処理、ブロイラー原種・種鶏の生産など垂直統合を進め、そのパターンをアヒルや豚、エビなどにも適用した。さらにはそれらの畜産物をハム、ソーセージ、牛乳、冷凍食品といった最終加工品の製造や小売販売事業へと拡大してきた。
財閥が生産統合や関連製品など新規分野へ進出する目的が、経営の安定性と収益性の強化にあったのは確かだろう。タイ国内という規模の限られた市場では「規模の経済」というスケールメリットが十分に得られなかったこと、タイが外国企業に頼って工業化を進めた「後発的工業国」だったこともその背景として考えられ、このような事象に起因して多角化・コングロマリット化は促進されていったものと思われる。
サイアム・モーターを例に挙げてみよう。タイにおける自動車生産市場の規模は、1980年代初頭まで乗用車、商用車、トラックなど全体で8万台程度のものだった。そこでは12の組立メー カーが90種類以上の車種を製造しており、サイアム・モーターが自動車部品や二輪車、トラック製造の事業を拡大していく中、利益追求のために鉱山やゴルフ場経営など、母体事業と関連しない事業を展開していったのも、この市場の狭さが理由にあったと考えられる。
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THAIBIZ編集部
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