燃料危機で電動二輪が急拡大 〜動き出す市場、滞るインフラ整備〜

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

燃料危機で電動二輪が急拡大 〜動き出す市場、滞るインフラ整備〜

公開日 2026.06.12

NNA掲載:2026年6月2日

タイで伸び悩んでいた電動二輪車の販売が、エネルギー危機を背景に急拡大している。ガソリン供給への不安が高まり、一般消費者の間でも電動車への関心が高まっているためだ。ただ、充電インフラは規格の不統一や巨額の投資負担から整備は限定的で、本格普及には官民一体での市場基盤整備が求められている。

クロントイ地区にある電動二輪デコの販売店では、4月の販売台数が前月比で5倍となった=5月、バンコク(NNA撮影)

「電動バイクは在庫切れ。1カ月先まで予約が埋まっている」。5月に訪れた都内の地場電動二輪デコの販売店で店員はこう話す。4月の販売台数は約50台と前月の5倍に増えた。中東情勢の悪化を受け国内では一時、燃料価格が高騰したほか、給油量を制限する動きが広がった。先行きへの不安感から、燃料費を抑えられる電動二輪へ需要が流れているという。

運輸省陸運局によると、4月の電動二輪の新規登録台数は前年同月比44.1%増の2,453台と、3月の30.3%減から一転して2桁プラスとなった。電動二輪比率は1.8%と、前月から1.0ポイント上昇した。

タイではこれまで、電動二輪は配達員やバイクタクシー運転手らによる業務利用での活用が先行してきた。ただ、足元ではエネルギー危機を機に、一般消費者の利用も増え始めている。

前出の店員によると、この店での購入者の中心は通勤・通学で利用する会社員や学生だ。取り扱う電動二輪は、家庭用コンセントなどから直接充電するプラグイン式で、価格は4万~7万バーツ(約19万5,000~34万2,000円)と、ガソリン車の主力モデルの約1.5倍だ。それでも、燃料代の節約につながる点が支持を集めているという。

航続距離の短さや充電環境に課題

タイでは近年、電気自動車(EV)を普及させる補助金政策「EV3.0」を追い風に四輪EVの販売が急速に伸びた。二輪車も対象だったが、2025年の二輪新規登録に占める電動車の比率は1.4%にとどまり、同年目標の20%を大きく下回った。価格以外の要因として、四輪に比べてEVの航続距離が短いことに加え、十分とはいえない充電環境が普及のボトルネックになっていた。

110ccのガソリン車は、一般的に航続距離が200~300キロメートル台といわれるのに対し、デコのモデルは60~140キロと短い。また、自宅での充電が前提となっており、デコの店員も「長距離利用にはまだ制約がある」と話す。

電動二輪車のバッテリーの着脱方法を説明するデコの店員=5月、バンコク(NNA撮影)

ホンダの二輪生産・販売子会社タイ・ホンダの担当者はNNAに対し、タイの電動二輪市場について「まさに黎明(れいめい)期にある」とした上で、「ガソリン車と並ぶ本格的な普及フェーズへと進むためには、充電インフラ水準の底上げと、車両の航続距離の向上に欠かせないバッテリーの軽量化や大容量化を含む技術進化の両輪が鍵となる」とコメントした。

交換式とプラグイン式、用途ですみ分け

電動二輪の普及プロセスが四輪車と大きく異なるのは、バッテリー交換式とプラグイン式の2種類が展開されていることだ。交換式は配送用途で求められる航続距離や即時性、プラグイン式は短距離移動や自宅充電との親和性にそれぞれ強みがあり、タイ・ホンダの担当者は「用途別のすみ分けが進む」との見方を示す。

主流となるバッテリー交換式のインフラ面では、政府製油大手バンチャーク・コーポレーション傘下のウィンノーニー(Winnonie)が、交換スタンドを最多の107拠点で展開しており、地場Hセム・モーターやホンダ、シンガポール新興企業のオイカ(Oyika)などが続く。

一方、タイ国営石油PTTが100%出資し、バッテリー交換式事業を手がけていたスワップ・アンド・ゴー(Swap and Go)は年内の解散が発表されている。

ホンダの担当者は、交換式について「配送業者などのビジネス用途で充電待ち時間ゼロを実現できる現実的で即効性の高いソリューション」と位置付ける一方、初期のインフラ投資負担は大きいと指摘する。

タイ国立キングモンクット工科大学トンブリ校(KMUTT)のポンパン・ケオタティップ准教授も「交換式は充電ステーションや予備バッテリーの大量配備が必要となり、事業者側の投資負担が大きい」とコメント。利用者側では交換ステーション不足が購入行動の障壁となる一方、事業者側も利用者数が限られる中で投資判断に慎重にならざるを得ず、インフラ不足が普及を阻む「鶏と卵」の構図が続いていると課題視した。

プラグイン式については、自宅で充電できる手軽さがある一方、充電に時間がかかる。アユタヤ銀行の調査部門クルンシィ・リサーチによれば、プラグイン式では家庭用電源による充電に2~7時間程度を要する。短時間で給油できるガソリン車と比べると、長距離利用や商業利用での使い勝手を不安視する声も根強い。

このほか、交換式とプラグイン式の双方で、屋外の充電施設はバンコク周辺や北部チェンマイ県、南部プーケット県など一部の都市に集中しており、地方部での整備は限定的だ。さらに、バッテリー重量が一般的に10キログラムを超える点も利便性を損なう要因となっており、市場拡大の足かせとなっている。

ホンダがプラグイン投入、鍵はインフラ網

タイ・ホンダは今年、一般コンセントで充電できる新型モデル「UC3」を展開し始めた。価格は13万2,600バーツ。最大航続距離は122キロと、プラグイン式としては高い水準を確保した。

それに伴い、プラグイン式の充電スタンドの整備も開始した。同社の担当者はインフラ整備について「(電動二輪を普及させるためには)広範囲に設置する必要があり、膨大な設備投資と設置費用、メンテナンス費用がかかる」と説明。各メーカーによる単独の取り組みには限界があり、「統一した充電規格で広げていくこと」が課題との認識を示した。

こうした課題に対し、同担当者は「電動化への移行は確実に本格化していく」とした上で、「市場形成の初期段階においては、国や地域による制度的・財政的な支援を含めた官民が一体となった投資環境の整備が不可欠である」と強調。ホンダとしては、「交換式とプラグイン式の双方のモデルをタイ市場へ投入・推進していくことで、あらゆる顧客ニーズに寄り添った電動化の形を構築していく」とした。

>>本連載「タイビジネスインサイト」の記事一覧はこちら

NNA ASIA

12カ国・地域から1日300本のアジア発のビジネスニュースを発信。累計100万本以上の圧倒的な情報量で日系企業のビジネス拡大に貢献します。

NNAの購読について詳細はこちら

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE