第5回 ビジネスに国際化もグローバル化もない

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第5回 ビジネスに国際化もグローバル化もない

公開日 2020.06.10

 日本で最初のデジタルクリエーター養成学校「デジタルハリウッド」を四半世紀以上も前に設立し、2004年には日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学した。日本のコンテンツ業界を牽引する多様な人材を輩出する一方で、毎年多くの留学生を受け入れ、東南アジアの学生の優秀さ、勤勉さを知る同校の杉山知之学長に、デジタル時代の人材育成の心構えを聞いた(聞き手:藤岡資正)。

人付き合いに国籍は関係ない

 杉山学長は約30年前に単身米国に渡り、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボで3年間過ごし、デジタルコミュニケーションの未来について理解を深めた。

 「日本人がアジアで仕事をする際に、自分たちの国の文化やアイデンティティを大切にする。ビジネスの場では『これをやる』と決めたら、それを達成するための最良の方法を話し合うだけであって、そこに人種や国籍は関係ない。思い通りにならないことの方が多いが、下手な英語と身振り手振りを交えて、最後は心を通わせながら、少しずつ信頼関係を築いていくしかない。人付き合いに国籍は関係ない」という。

才能ある人の邪魔をしない:求められるリーダーの器

 杉山学長のポリシーは、才能ある人の邪魔をしないこと。「才能がある人は自己主張をする。既存のルールを越えて、これをやりたい、あれをやりたいと言ってくる。そういう人達をルールに押し込めてしまうと意味が無くなってしまう」。逸脱を認めるということは、既存の枠組みの中で対応するのに比べ、時間も手間もかかる。その都度、ルールを再確認しながら、意思決定者が個別のケースの評価を判断しなくてはならない。

 「学校教育の最高レベルは、何と言っても一対一の対応じゃないですか。この学生にはこういう教育、あの学生には別の学習、ということを考えていきます。少なくとも既存の枠を飛び出そうとしたり、はみ出して来る学生には、こちらもある程度コストを掛けてやってあげます」。

 とはいえ、すべてのルールを壊すわけにはいかない。「学長に判断してもらおうか」とスタッフから話が上がってくる。決断後はみんなも「まあ、学長が決めたのだから、そうするか」となることもある。杉山学長は笑顔でこう話す。「創造力はみんな持っていますが、自分の創造性が見れないような心理状態になっているので、私たちはそれに気付かせてあげます。『俺って、創造性あるじゃん』『私のこの感覚は創造性なのだ』ということを分からせてあげようとしています」。

 「これは言葉で教えるより環境の問題や文化の問題です。だから、そういったことをさせる学校の雰囲気作りに気を使っています。変なことをする、変な表現をする、でも誰もそれを変だと言わない。どんな服を着て来ても、“そんな変な服着て来て”という否定はしません」。

対談を終えて by 藤岡 資正 氏

 トップには責任が伴う。責任とは「既存のルールに従うこと」ではなく、「ルールではこうだが、多元的に状況を熟慮したうえで、自らの責任において、主体性を持って状況へ対応する能力」である。「トップが決めたのなら仕方ない」という組織内のコンセンサスを導くところまでを含めて責任ということになる。ルールがこうだからできないというのであれば、ルールがあればよいだけで、リーダーは必要ない。コロナ禍において、杉山学長が30年前から構想してきたデジタル社会の重要性とリーダーのあり方がクローズアップされている。

杉山知之
写真撮影:石田直之氏

略歴

杉山知之
デジタルハリウッド大学学長。日本大学理工学部建築学科卒業、大学院理工学研究科修了後、日本大学理工学部助手となり、コンピューターシミュレーションによる建築音響設計を手がける。その後、米MITメディアラボへ客員研究員として3年間派遣され、1994年にデジタルハリウッド株式会社を設立。2004年、05年にデジタルハリウッド大学院大学、同大学を続けて開設し現在に至る。

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THAIBIZ編集部

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