ArayZ No.111 2021年3月発行コロナとタイ経済
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カテゴリー: 特集
連載: SBCS - タイ経済概況
公開日 2021.02.28
SBCS Co., Ltd.
Manager, Business Promotion Division
長谷場 純一郎
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、10年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。12年から18年までジェトロ・バンコク勤務。19年5月より現職。
SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。
2020年1月12日にタイで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されてから、1年と2ヵ月が経とうとしています。一時は感染拡大の抑え込みに成功したものの、昨年末に第2波が発生。本稿を執筆している2月下旬時点で累計感染者数は2万5000人を超えました。
昨年3月25日にタイ政府が発令した非常事態宣言も、さまざまな思惑から約1年もの間解除されることなく延長され続けています。
タイは観光立国であるにもかかわらず、国内感染の拡大を防ぐ対策として入国規制が敷かれた結果、4月から9月の間、外国人旅行者および観光収入はゼロにまで落ち込みました。
国の収支と雇用に大きく関わる観光産業の立て直しを図るため、政府は特別観光ビザ(STV)の導入や国内旅行の促進といった対策を講じていますが、大きな成果は挙げられていないのが実情です。
日系企業の関わりが深い自動車産業についても、一時生産停止などの影響を受けて20年通年の生産台数は143万台と、大洪水のあった11年をも下回る結果となりました。
一方で、観光と並んで国の収支に大きく関わる輸出については、5月と6月に大幅な減少が見られたものの、その後は回復傾向にあります。
移動制限により一気に導入が加速した在宅勤務や家の中での娯楽を充実させるため、パソコンやスマートフォンなどのデバイスおよび家電需要が高まり、電子部品や電気製品の輸出が好調でした。都市鉄道の拡充といったインフラ投資も引き続き注力されており、不動産市場の回復にも期待が掛かります。
今回はタイの経済と社会を理解する上で重要な、これら各テーマについて詳しく解説し、また今後の見通しについての個人的見解を述べていきたいと思います。
タイで初めて新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染者が発表されてから1年以上が経過しました。後世の人は歴史を「コロナ前」「コロナ後」と分けるのではないかと思うほど、世の中はすっかり変わってしまいました。当然、タイ社会も大きな影響を受けていますが「感染の拡大を抑止する」という点については他国と比べてかなり上手くいっています。
図表1をご覧いただければ分かりますが、タイの累計感染者数はASEANの中でもかなり低い方です。タイは6000万人以上の人口を抱えていることを考えると、タイより人口の少ないマレーシア、シンガポール、ミャンマーより累計感染者数が少ないということは誇って良いことではないでしょうか。
昨年12月から発生している第2波もタイは抑え込みつつあります。一方で観光客の受け入れ停止措置や活動制限等により経済は大きな痛手を受けてしまいました。こういった点について、現状を詳しく解説していきます。
最初に昨年12月から発生した第2波について少し詳しく見てみましょう。
図表2は新規感染者の推移です。1月上旬に多くの感染者が見つかった後、徐々に減少したものの、1月26日から再び急拡大し、2月に入ってから減少しているというのが分かります。
グラフの中でも分けて示していますが、新規感染者は
①医療機関での感染確認者
②積極的疫学検査(当初は外国人労働者の感染として発表されていたものの、途中からタイ人の感染も調査で見つかるようになったため名称変更)
③帰国者・入国者(隔離施設で確認)
の3種類に分かれます。
このうち③はタイ人帰国者も外国人の入国者も入国直後に14日間の隔離施設に入り、隔離施設で検査が行われています。従って感染者がいても感染確認まで一般の人と接することはないので、感染を広める可能性は低いと考えられます。
問題となるのは医療機関と積極的疫学検査で感染が確認されている人数です。ここで確認された感染者は市中感染を引き起こす(または既に起こした)可能性が高いからです。
一方、第2波では首都圏いわゆるバンコクおよびノンタブリ、パトゥムタニ、サムットサコン、サムットプラカン、ナコンパトムの5県と東部経済回廊(EEC)であるチョンブリ、ラヨンで全感染者の8割以上が確認され、他は国境を接している県を中心に散発的に感染が確認されています。
また、第2波がサムットサコンの外国人労働者の間で感染が広がったことがきっかけであったことから、主に同県で積極的疫学検査は行われています。また、外国人労働者の移動は制限されているため、積極的疫学検査で確認された感染者数は局地的な問題として分けて考えた方が良さそうです。
そこでバンコク首都圏とEECの医療機関での感染確認者数の推移をグラフにしてみました(図表3、4)。
図表4からはEEC3県では1月末から感染拡大の抑え込みに成功したことが分かります。
一方、傾向の掴みにくいバンコク首都圏ですが、最も感染者が多く確認されているのはサムットサコンです。
しかし、サムットサコンは2月下旬時点で「最高度厳格管理地域(ダークレッド)」に指定されています。この指定を受けると県内にいる人は県を跨いでの移動が制限される上、モーチャナというアプリケーションでの行動追跡が義務付けられます。従って、サムットサコン内の感染者が他県に感染を拡大させる確率は、他県の感染者と比較して低いと考えられます。
そこで医療機関で確認されている感染者数から、サムットサコンで確認された感染者数を除いたバンコク周辺県のグラフを作成してみます(図表5)。
すると右肩下がりのグラフとなり感染が落ち着いてきていることが分かります。しかも、バンコク首都圏(サムットサコンを除く)の感染確認者数は時間の経過とともにバンコクでの感染者数に近付いています。
これはバンコク首都圏の感染エリアが狭まってきていることを表しており、その意味でも収束の兆しが見えつつある状態と言えます。
以上から、タイは第1波に続き第2波もかなりコントロールできてきていることが分かります。
コロナの影響を見るためには、”コロナ前のタイ経済”を理解しておく必要があります。
最初にタイの経常収支を見てみましょう。図表1のようにタイは2014年以降、経常黒字が常態化してきました。企業で言うと黒字を続けてきた状態です。
この黒字の中身を見てみると、貿易収支とサービス収支が稼ぎ頭であったことが分かります。企業で言うならば貿易とサービスが稼ぎ頭である2本柱の事業ということになります。
最初に貿易について解説します。
タイの貿易はどのような形態かというと、商務省が発表している貿易統計から原材料、機械などの資本財、さらには燃料を輸入して、タイで加工して工業製品にして輸出するという「加工貿易」の割合が大きいことが分かります(図表2)。
輸出先はASEAN、中国、日本、米国、欧州と分散されており、特定の国に偏ることが無いことがタイの貿易の特徴であり強みでした。
次にサービス収支です。サービスといってもイマイチ分かりにくいので、内訳を見てみましょう(図表3)。
サービス収支には特許使用料収支や保険収支といった様々な項目がありますが、稼いでいるのはほぼ観光のみということが分かります。外国人観光客数は12年のドンムアン空港再開以降、増加の一途を辿っていました。
11年には2000万人弱だったのが、19年には倍の約4000万人になっていた程です。従ってタイにとって観光は重要な稼ぎ頭というだけではなく成長事業となっていました。
タイのGDP成長率はアジア通貨危機の影響で1997年にマイナス7.6%に落ち込みました(図表4)。
ところが、通貨危機の影響から脱した99年以降、急回復しました。まさにV字回復です。
その後、2006年と14年の2回のクーデターがあり、その間に毎年のように政治的混乱があったにもかかわらず、リーマンショックの09年を除いてタイは一貫してプラス成長を遂げてきました。
特に、11年には7つの工業団地が被災し、804社が被災するという大洪水がありました。被災した多くの工場は1ヵ月以上浸水被害に遭い、生産が止まりました。それでも0.8%のプラス成長を維持しました。
14年のクーデター以降、しばらく低迷したものの徐々に経済は回復。17年、18年は4%を超える成長を達成しました。しかし19年は米中貿易摩擦による世界経済の減速やバーツ高による輸出低迷を受け、再び景気低迷。GDPはプラス成長ではあるものの、2.3%の増加にとどまりました。
自動車の生産台数も18年の217万台から19年は201万台に減少。さらに19年はモノの総輸出額まで前年比で減少しました。
まさに、タイ経済が息切れして減速してきたところを20年にコロナ禍が直撃となった訳です。
ここからは貿易や雇用、消費など様々な観点から、 コロナがタイ経済に与えた影響を見ていきます。
コロナ禍が始まってから不思議な現象が起きました。
金の輸出額が急増したのです(図表1)。
タイの方々は日本人に比べて金を所有していることが多いです。例えばタイ人の結婚式に行かれた方は披露宴の前に行われる婚約式で、新郎側が新婦側の家族への結納の品として現金の他に金を渡しているのを見たことがあるかもしれません。
また、親が子に「何かあったらこれを使いなさい」と言って金製品を渡していることもあります。
このように金がタイ人にとって身近であることから、市内には多くの金行があり質屋(タイ語でジャムナム)があります。金行で金が取引されているのは当然ですが、質屋でも金は取引されています。
コロナが広がるにつれて金価格が上昇したことと、危機にあって現金を持っておきたいという心理から金を売る動きがタイで広がりました。また、金価格の上昇もこの動きに拍車を掛けました。
ところがコロナが落ち着き金価格が下落してきた11月には、金を買い戻す動きが広がり輸入が急増しました。結果、2020年のタイの全輸出金額の5.8%、全輸入額の2.4%を金が占めました。
以前のコラムでも取り上げましたが、タイの北部にChatree Gold Minというタイ最大の金鉱が存在しており、オーストラリア企業が所有しています。
しかし、16年には環境問題を理由として閉鎖され現在も再開されていません。
タイ全土でも金はほぼ採掘されていないため、輸出されている金は最近タイで付加価値が付けられたものではありません。
このため金の輸出入額を取り除いて推移を見た方がタイ経済の実態に即していると考えられます。
図表2を見ると輸出入共に昨年5月を底に徐々に回復し、12月に前年同月比でついにプラス(増加)に転じたことが分かります。
タイは加工貿易をしているので基本的に輸入と輸出は相似形になります。すなわち輸出が増加すれば輸入も増加し、輸出が減少すれば輸入も減少する。しかし、コロナの感染が広がった4月以降、前年同月比で輸出の減少率よりも輸入の減少率の方が大きくなっています。
これは世界中で感染が広がり経済活動が停滞した結果、タイの輸入に占める割合が大きいエネルギー価格が下落したことが主な要因です。
結果、図表3のように貿易黒字は大きく増加しました。
“稼ぐ”という意味では2本柱の観光は大きなダメージを受けましたが、もう一本の柱である貿易はコロナ禍でもしっかりと利益を出すことができたのです。
次に主要な貿易相手国との取引がどのように変化したかを見てみましょう。
図表4は20年の貿易黒字と貿易赤字の金額上位5ヵ国について、17年から20年の収支金額の推移を表したものです。
このグラフから米国向けの貿易黒字が20年に大きく増加したことが分かります。これはHDDや電子機器等の輸出が増加したためです。スイス向けでは金の輸出額が大きかったため、収支が大きく改善しています。
また、エネルギー価格の下落を受けてUAEからの輸入額が減り、中国にはドリアン等の輸出の増加により貿易赤字が減少しています。
このように輸入が減り輸出が増加したため、タイはコロナ禍であっても貿易で利益を上げることができました。
ただ、米国向けに輸出されるモノと米国からタイに輸入されるモノの量の差が大きくなった結果、コンテナが不足するという問題が生じています。
実は、米国はもともと巨額の貿易赤字国でしたが20年5月以降、さらに貿易赤字が拡大しました。
結果、20年の米国のモノの貿易赤字は9158億ドルと1961年のデータ集計以来、最大の貿易赤字額となりました。米国から出てくる貨物が米国に運ばれる貨物と比べて少ないため、コンテナが米国で滞留する原因となり、世界中でコンテナが不足する一因になっています。
コロナ禍の影響を最も受けたのは観光産業です。
2020年の第1四半期はコロナの感染がタイ国内で広がりつつある時期であったため、まだ外国人観光客を受け入れていました。
ところが感染が広がり、3月26日に“労働許可書所有者のみ外国人の入国を許可する”との布告が出て以降、9月まで観光客の入国はゼロでした。
タイ政府は10月から特別観光ビザ(Special Tourist Visa:STV)を導入し感染が収まっている国からの入国を許可しました。
しかし、14日間の隔離が求められるのでタイ政府が期待した程、観光客は来ませんでした。
そこで12月23日からは日本を含むビザ免除対象国からの観光目的での入国を許可しました。
しかし、相変わらず14日間の自主隔離ホテル等での隔離生活が義務付けられることに加え、入国許可書(Certificate of Entry:COE)を在外のタイ大使館や領事館で取得しなければならない、渡航前72時間以内に発行されたコロナ非感染証明書が必要といった条件が付いています。
従って、観光目的で気軽にタイに来れる状況ではなく、外国人観光客数は12月時点でも月間6556人に止まっています(図表5)。
このように観光客がほぼゼロの状態のため、観光収入も4月以降ほぼゼロの状態が続いています。結果、サービス収支は第2四半期以降赤字に転落しました(図表6)。
国としての収支を考えた時、これまで2本柱の一つで、さらに成長事業として期待されていた観光事業を失ってしまうほどのインパクトを受けてしまっています。
タイ国家統計局によると20年11月の失業率は2.0%となっています。タイは日本と比べてフリーランスや個人事業主が多いため、日本人の感覚ではタイ政府発表の失業率は非常に低く感じています。
そこで私が注目しているのは社会保険の加入者数と失業保険申請者数の推移です(図表7)。
基本的に被雇用者(日本人にとってのサラリーマン)であれば社会保険法33条に基づいて社会保険に加入しています。保険料は雇用者と被雇用者で折半して給料の5%、最大750バーツずつ納付しています。
この社会保険の加入者数はコロナ禍が深刻化する直前の20年3月にピークの1173万人でした。それが10月には1104万人となりピーク時から5.9%減少しました。ただ、11月、12月と増加してきているので雇用は改善してきていると考えられます。
一方、社会保険に入っている従業員が失業すると失業保険を受給することができます。
こちらの申請者数は20年3月から増加の一途をたどり、10月には49万2000人に達しました。コロナ前の2月が15万000人人だったため、たった8ヵ月間で2.6倍に増加したことになります。ただ、この失業保険申請者数も11月、12月と減少してきており、状況の改善が見られます(図表8)。
失業保険申請者数を社会保険加入者数で割ると、被雇用者(サラリーマン)の失業率を導くことができます。
ただし、この数字は失業保険の受給期間を過ぎてしまったがまだ職に就けていない人、新卒で職に就けていない人が含まれていないので、“理論的に導き出される最も低いサラリーマンの失業率”と理解する必要があります。
この値は20年2月に1.3%でしたが3月以降悪化を続け、10月には4.45%に達しました。その後、11月、12月と連続して改善し、12月は3.6%となっています。
第2波の影響はまだ不明ですが、少なくとも第1波で悪化した雇用は10月を底に改善に向かっていました。
なお社会保険加入者の産業別内訳を見てみると、最も減少したのが製造業、次にホテル・飲食業となっています。
一方で物流業と農業は増加しています。コロナ禍で電子商取引が盛んになったため、フードデリバリーや小口配送の分野で雇用が拡大したものと考えられます。
また、都心から地方に戻った人が農業を始めるという動きもあったため、わずかではありますが農業分野の社会保険加入者数が増加しました。
外国人がタイで働くためには労働許可書(Work Permit)を取得する必要があります。この労働許可書(周辺国からの非熟練労働者を除く)の取得者数も、コロナ前の20年2月の18万5566人をピークに減少し、12月は2月と比べて16.1%減の15万5696人となっています(図表9)。
また、日本人の労働許可書の取得者数も直近のピークである20年2月の3万2841人と比較して12月には13.1%減の2万8532人となっています。
ただ、この数字も10月以降に下げ止まっているので、減少には歯止めが掛かった模様です。ただし、「人事異動の時期に合わせて駐在員の減員を考えている」という話を伺うことがあることから、本当に下げ止まったかどうかの判断にはもう少し時間を要すると考えています。
自動車の販売台数は20年4月に対前年同月比76.4%減の2万326台にまで落ち込んだ後、徐々に回復してきました。そして11月にはほぼ前年同月並みに戻り、12月には前年同月比16.6%のプラスとなりました。
自動車の輸出は20年12月時点で前年同月比5.2%減でまだプラスに回復していない状態ではありますが、国内販売が増加に転じたので明るい兆しが見えてきました。
またバイクについても同様で、販売台数が20年5月に前年同月比36.5%減の9万7348台まで落ち込んだ後は回復傾向にあり、12月には前年同月比9.0%増の12万3844台となりました(図表10)。
自動車、バイクの販売台数が回復した理由は、コロナで遅れた買い替え需要が起きたことで販売台数が前年同月比で増加した、ということは間違いなく一つの要因だと考えられます。しかし、それ以外にも要因がありそうです。
図表11はタイ中央銀行が発表している銀行預金と民間貸し出し伸び率の推移です。コロナ禍で銀行預金が増加していることが分かります。
一方、貸し出しは預金ほどは伸びていません。未曽有の危機が迫る中、多くの企業が手元資金を厚くしました。また、急な借り入れに備えて銀行に新規の借入枠の設定をしたケースもあります。
手元に現金を置いたのは個人も同様でタイでは金を売って現金にしたり、新規の投資や不動産の購入を控えたりする動きがありました。さらに4月~6月は社会保険の対象外であるフリーランスやアルバイトの労働者に対するタイ政府の現金給付策がありました。
こういった政策が要因で第2四半期の預金が伸びた面もあったと言われていますが、現金給付のなかった第4四半期にも預金が増加しています。
これについては、ある程度の預金を持てるタイ人は中間層以上であることを考えると説明が付きます。
確かに、コロナ禍で解雇されたり職を失った人もいます。一方でコロナ前と同様に仕事を続けている人が多数いることも事実です。
例えば先に説明したサラリーマンの失業率は10月に最大の4.45%に達したわけですが、残りの95%以上の人々の雇用は継続されています。その中にはワーカークラスではない中間層も含まれます。
そしてタイの場合、残業をしなくなって残業代が無くなったり、業績の悪化に伴いボーナスが減少するということは起こります。しかし従業員の基本給の減額は、雇用者が従業員の合意を得なければ不可能なため、非常に難しくなっています。
このため、雇用を継続されている従業員は一定の収入を維持できていると考えられます。
一方で支出はと言うと、「コロナ禍でお金の使い道が激減した」という現象が起きています。
これは読者の中にもコロナ禍で旅行や外食にも行けず、ゴルフも回数が減って貯金が増えた、という方がいらっしゃるかもしれません。
タイ人にとっても同様のことが起きていると推測できます。これが第4四半期の貯金の伸び率が第3四半期の伸び率を上回った一因ではないかと考えられます。一方、民間貸し出しは預金ほど伸びていない(むしろ伸び率はコロナ前より低下)というのも投資をはじめ、使い道が減っていることを意味しています。
こういった預金(手元現金)が自動車やバイクといった消費に向かったとも考えられます。
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)が2月15日に発表した20年のGDP成長率(速報)は前年比6.1%減と落ち込みました。
21年は2.5%~3.5%のプラスになるとの予測ですが、注意しておかないといけないのはこれは前年比すなわち20年との比較ということです。
20年に19年と比べて6.1%落ち込み、そこから21年は2.5%~3.5%増加するということであれば、21年を通じてもコロナ前である19年には戻らない、ということになります。
特に21年の第2四半期は比較対象となる20年第2四半期がコロナの第1波で様々な活動制限が課されていたため、大幅に改善した数値になると予想されます。しかし、そのことは決して経済が好調ということを意味しないので注意が必要です。
これまで見てきた通り、観光のタイ経済に与える影響は大きく、本当の回復はワクチン接種が進み、観光客が戻ってからとなるでしょう。
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Executive Vice President and Advisor
長谷場 純一郎 氏
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。
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URL : www.sbcs.co.th
SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。
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