ArayZ No.145 2024年1月発行アジアとともに未来を創るスタートアップと創造都市
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カテゴリー: 会計・法務
公開日 2024.01.09
タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。
本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。
目次
前回ご紹介したように、「小売」「卸売」ともに資本金が1億バーツ以上であれば、原則として規制事業には該当せず、外資企業でも実施できる、と理解されています。小体の販売会社やサービス会社としては、資本金1億バーツは非常に大きな額ですが、多額の設備投資を要する製造業であれば、資本金が数億バーツに達する企業は珍しくありません。このように資本金が1億バーツ以上でさえあれば、外資企業でも自由に販売事業ができるのでしょうか。
【案件概要】 タイ資本企業K社は、1億2,000万バーツの資本金を持ち、外資への転換を計画している。K社は顧客から金型のデザインを受領し、他社に金型製造を委託し、顧客が金型を使用する
【商務省の判断】 K社の事業は、製造ではなく小売である。外資企業が小売を行うためには、①商務省から許可を得る、または②外国人事業法が定める他の事業で必要な最低資本金と、他の法律で定める事業に必要な資本金を控除した、残りの払込済み資本金が1億バーツ以上であれば、許可申請の必要なく、事業を行うことができる
【解説】 K社の事例は比較的最近のものですが、同様の判断はこれまでに何度も繰り返されています。本件では、金型の「小売」が例示されており、外資企業が「小売」を無許可で実施するために必要な資本金が1億バーツ以上であることについては、本件でも明確です。問題は、「資本金が1億バーツ以上」であるということが、単純に会社の資本金の額とはならない点です。タイの会社には必ず「登録資本金」が設定されており、この「登録資本金」に対して「実際に払込まれた資本金」が存在します(後述)。この「払込済み資本金」から、更に下記の2種類の金額を控除した残りが1億バーツ以上であることが求められています。
控除の1つ目は、「外国人事業法が定める他の事業で必要な最低資本金」です。分かりやすいのは既に説明した「小売」と「卸売」の双方を行っているケースです。外資企業が無許可で実施する上で、「小売」と「卸売」は、どちらも外国人事業法で1億バーツの最低資本金が求められています。仮に上記の例で、既にK社が「卸売」を行っており、そのための資本金として1億バーツを充当しているとすれば、残額は2,000万バーツで、「小売」を行うための1億バーツに満たないことになります。他の多くの事例(2019年3月No.3)でも、「小売」と「卸売」の双方を行う場合には、2億バーツ以上の資本金が必要との判断を示しています。
加えて、外国人事業法は、他の事業についても外資企業の最低資本金を定めています。具体的には、①外資規制の対象外の事業(製造、輸出)を行う場合が資本金200万バーツ、②規制事業について許可を得て行う場合は「事業ごとに」300万バーツ(原則)と定められているほか、③「小売」、「卸売」の他にも事業によっては別の金額が個別に定められていることもあります。10月号(Vol.4)で取り上げたF社が、「輸出」と「卸売」を行うために1億200万バーツの資本金を設定していたのは、①と③の理由によるものです。
控除の2つ目の「他の法律で定める事業に必要な資本金」において、「他の法律」の代表的なものは投資奨励法、すなわちタイ投資委員会(BOI)から認可を得た企業に適用されている法律です(2015年11月No.2など)。BOIの認可を取得すると、申請した事業規模に応じて、最低資本金が個別に設定され、各社が受領している奨励証書に金額が明記されています。BOI申請における最低投資額は100万バーツとされているので、最低資本金も100万バーツと誤解している例もあるようですが、そうではありません。製造業の場合、申請した事業規模が大きく、それに伴って最低資本金の額も大きく設定されていることが多いため、資本金の額が何億バーツ、何十億バーツと大きい製造業だからといっても、「小売」や「卸売」を実施するための資本金1億バーツが残っているとは限らない、ということになります。
(注)論点整理と明確化のため筆者が内容を一部編集しています
少し横道にそれますが、外資企業が「小売」「卸売」を行うための資本金1億バーツについてより理解を深めるために、過去にタイで話題となったトピックとして「登録資本金」と「最低資本金」との関係をご紹介します。
外資規制を規定する外国人事業法では、「最低資本金」という用語を使用し、この「最低資本金」として「小売」と「卸売」の「最低資本金」としては1億バーツ以上、規制対象外の事業では200万バーツ以上、などという表現をしています。
他方、タイの会社法である民商法典では、「資本金」を更に2つの概念に分類しています。1つは、定款に記載して商務省に登記する「登録資本金」で、もう1つは、実際に払込を行っている「払込済み資本金」です。民商法典(第1105条)では、登録資本金、すなわち株式の額面金額に対して25%以上の払込を求めています。登録資本金は必ずしも全額を払い込みする必要はない、というのがタイ会社法の考え方です。従って、1億バーツの登録資本金で会社を設立したと仮定すると、実際の払込は25%である2,500万バーツで足りる、ということになります。歴史的には、株主の資金負担を軽減することを目的に、段階的な払込を認めるために設けられた規定とされていますが、ある程度の事業計画と資本があることが前提となる日系企業にとっては、100%を払い込まないことに、メリットはそれほどありません。資本金の額が大きすぎるのであれば、小さく設定すれば済むだけの話ともいえますので、タイ企業にとっても段階的な払込は一般的ではありません。ちなみに払込状況は株主リストに記載されています。
問題は、外国人事業法でいう「最低資本金」が、民商法典でいう「登録資本金」と「払込済み資本金」の、どちらを意味するのかが、必ずしも明確にとはなっていなかった点です。タイ語の表現だけを見ると、むしろ「払込済み資本金」よりも「登録資本金」の方が、「最低資本金」のニュアンスに近いとも感じられる点が、話を更に話を複雑にしています。このため過去には、登録資本金を1億バーツ、ただし払込済み資本金は25%の2,500万バーツとして、「小売」または「卸売」の条件を満たしたと主張する外資企業の例が、日系企業を含めて多く見られました。
この問題について、ある日系企業とタイ商務省との間で、2009年に論争が生じました。この日系企業は、法律上の表現から解釈すれば最低資本金とは「登録資本金」である、と主張したのに対して、商務省は、立法趣旨を考えれば「払込済み資本金」を意味すると主張しました。商務省から判断を求められたタイ政府の法制委員会は2010年2月に図表1の内容を公表しました。
法制委員会の判断によって論争に一応の決着がつき、現在では「最低資本金とは登録資本金を指す(従って2,500万バーツの資本金払込で「小売」または「卸売」が可能)」との解釈は一掃されています。この解釈に基づき事業を行っていた外資企業も、ほとんどが1億バーツの資本金を払込済みか、タイ資本化など他の手段による対応を終えたと考えられています。
本件においてのもう1つ大事なポイントは、商務省が解釈を変更したという事実です。法制委員会の資料でも、かつては商務省も「最低資本金とは登録資本金を指す」との解釈をしていたと明記し、そのエビデンスも示されています。商務省の解釈は絶対的なものではなく、時代の変化等に応じて変更される可能性があるものといえます。だからこそ本連載でも、なるべく最近の事例をご紹介しています。
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【事業概要】 タイおよび周辺諸国におけるコンサルティング、リサーチ事業等
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