タイにおける紛争解決(労働訴訟編)

THAIBIZ No.150 2024年6月発行

THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

ダウンロードページへ

掲載号のページにて会員ログイン後、ダウンロードが可能になります。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、[email protected] までご連絡ください。

タイにおける紛争解決(労働訴訟編)

公開日 2024.06.07

在タイ日系企業は、少なからず、法令、文化、習慣などの違いにより、従業員管理に苦心している。また、現職の従業員や退職した従業員との間で労働訴訟にまで発生してしまうケースもしばしばであるように見受けられる。そこで今回は、労働訴訟の流れについて概観する。

まず、労働者が労働訴訟を提起する場合、民事訴訟と異なり、裁判所に納付すべき訴訟費用(手数料)がゼロである。また、訴状という書面を提出せず口頭によって訴訟提起することも可能であるうえ、裁判所職員による訴状の作成のサポートを受けることもできる。そのため、労働者が、容易かつ速やかに労働訴訟を提起できる状況にある。

次に労働訴訟の場合、民事訴訟と異なり裁判官と補助官の合議体によって審理が行われる。補助官は、労務に関する経験や知識が豊富な裁判所外部の者から選任される。使用者側、労働者側に区別されるが、必ず同数が各事件の担当者として配属される。

したがって、通常、裁判官1名、補助官2名(使用者側1名、労働者側1名)の合議体となる。

労働訴訟の一般的な流れは基本的に民事訴訟と同様である(一般的な民事訴訟の流れは、THAIBIZ 2024年4月号「知らなきゃ損する!タイビジネス法務 タイにおける紛争解決(民事訴訟編)」を参照)。

民事訴訟との大きな違いは、「労働訴訟では必ず和解が試みられる」ということである。労働訴訟では、法令上、裁判所に対し、まず和解を試みることが義務付けられている。和解に向けた協議は、第1回期日を含め、通常2〜3期日ほど行われる。そして、当事者が和解に至れば、これにより労働訴訟は終了する。逆に、2〜3期日を経ても和解に至らない場合には、和解の試みは打ち切られ、証拠調べ、証人尋問、判決へと進む。

なお、初めから和解する意思が全くなければ、第1回期日にて早々に「和解する気はない」と和解を拒絶し、証拠調べなど判決に向けて進むよう裁判所に求めてよい。他方、もし和解による解決を視野に入れるならば、希望条件や譲歩できるラインについての検討を済ませたうえで、第1回期日に臨むべきであろう。

労働訴訟も民事訴訟と同様に、第一審、控訴審、上告審の三審制であり、第一審に要する期間は6〜10ヶ月程度である。もし速やかに和解に至るならば、手続開始から3ヶ月程度で終了することもある。

注意すべきは、第一審判決に不服があり控訴する場合、民事訴訟と異なり、事実誤認を控訴理由とすることができず、法律問題しか控訴理由とすることができない(例えば、適用すべき法律を適用しなかった、法律の解釈に誤りがある、など)ということである。

そして、控訴裁判所は、第一審が認定した事実に基づき、控訴人の主張する法律問題について判断する。つまり、事実関係は第一審でしか争うことができないため、第一審で重要な事実を漏れなく主張し、裁判所にこちらの主張に沿った事実認定をさせることが必須である。

最後に、「タイの労働訴訟では労働者が有利である」と言われることがあり、和解協議の場面では、裁判所が使用者に和解による解決を強く働きかけることが多い(つまり、使用者に対して、労働者に金銭の支払等をして解決するよう強く働きかけることが多い)。

しかしながら、判決の場面においては、理不尽に労働者の肩を持つことはほとんどないと思われる。使用者が法令等を遵守し合理的・適切に行動しており、かつ、それを立証できるのであれば、勝訴判決を得ることは十分に可能である。

THAIBIZ No.150 2024年6月発行

THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル

ダウンロードページへ

掲載号のページにて会員ログイン後、ダウンロードが可能になります。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、[email protected] までご連絡ください。

GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士

藤江 大輔 氏

2009年、京都大学法学部卒業、2011年に京都大学法科大学院を修了後、司法試験合格。2012年にGVA法律事務所に入所。 2016年より同事務所パートナー弁護士に就任し、2017年にバンコクでGVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.を設立、同代表に就任。2021年より大阪に弁護士法人GVA国際法律事務所を設立し、代表を兼任。

URL : https://gvalaw.jp/global/3361
CONTACT : [email protected]

GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.

法務を通じて挑戦を支援し、依頼者と共に豊かな社会を実現する GVA Law Office

初回法律相談30分無料

Website : https://gvalaw.jp

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE