ArayZ No.147 2024年3月発行タイの歴史の振り返りと未来展望
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公開日 2024.03.10
タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。
本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。
販売に関する最後の論点として、「何を販売するか」について触れておきます。極論をいえば、多額の資本金さえ積めば、外資企業がタイ国内での「小売」と「卸売」を実施することは可能である、というのが販売事業における基本的な考え方となります。一方で、例外的にこの原則に該当しないケースもあります。
【案件概要】 外資企業N社は、食品を製造してタイ国内への販売と、海外への輸出を行なっている。仮にN社が原材料を調達して、
(1) 自社で使用する場合、(2) 海外へ輸出する場合、(3) タイ国内で販売する場合、それぞれ外資規制上の許可が必要となるか
【商務省の判断】
(1) 自社で使用する場合、または自社製品の原材料として使用する場合は、規制事業に該当せず、許可取得は不要
(2) 海外へ輸出する場合は、「輸出」として規制事業に該当せず、許可取得は不要
(3) 1. 原材料が地場農産物の場合は、タイ国内での販売は「地場農産物の取引」として規制事業に該当し、商務省の許可が必要
2. 原材料が地場農産物ではなく(例えば缶詰の缶など)で、他の商品を製造するための原材料としてタイ国内で販売する場合は、商務省から許可を得るか、または(外国人事業法が定める他の事業で必要な最低資本金と、他の法律で定める事業に必要な資本金を控除した)残りの払込済み資本金が1億バーツ以上であれば、許可申請の必要なく、事業を行なうことができる
出所:タイ商務省資料より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成
(注)論点整理と明確化のため筆者が内容を一部編集しています
N社の事例は、販売する品目によって外資規制上の考え方が異なる可能性を示した、とても分かりやすいケースです。自社での使用や輸出が外資規制に抵触しないことは既に説明した通りです。一方、タイ国内への販売についても、通常であれば資本金さえ十分に維持できれば許可なしでも事業が実施できる、というのが、これまで説明した大原則でした。ところが本事例では、販売する品目が「地場農産物」である場合に、「卸売」ではなく「地場農産物取引」という別の規制事業に該当することが示されています。
「卸売」と「地場農産物取引」は、外資規制の対象事業である点に変わりはありませんが、後者には「卸売」や「小売」に置かれている資本金条件がありません。いくら資本金を積んでも無許可での実施が認められませんので、外資企業にとっては、実施のハードルがより高いということになります。
タイ国内への販売でありながら「小売」「卸売」ではなく、取り扱い品目を理由として別の考え方になる、というケースとして、「農産物」の他にも重要なものが2つあります。
1つ目は、いわゆる飲食業です。これもタイ国内で飲食物を「販売」している、という考え方もありますが、タイの外資規制上は「小売」ではなく、「飲食物販売」という別の規制事業に該当します。「地場農産物販売」と同様、資本金条件がありませんので、どれだけ資本金を積もうとも、無許可では外資企業が実施することはできません。特に、飲食業において商務省からの許可(飲食業としての許可ではなく外資規制緩和の許可)を得ることは非常にハードルが高いとされ、イケアなど極めて例外的な事例しか見られません。
会社名: IKANO (Thailand) Co., Ltd. (イケアの運営会社)
設立 : 2007年1月30日
資本金: 1,076,000,000 ※2024年2月時点
FBL : ① バンコクの「エムスフィア」内にあるイケアにて、
スカンジナビア料理と飲料を販売することができる(2023年8月取得)
② ノンタブリのイケアにて、スカンジナビア料理・タイ料理と飲料を
販売することができる(2017年7月取得)
③ プーケットのイケアにて、スカンジナビア料理と飲料を
販売することができる(2015年7月取得)
出所:タイ商務省データベース
(注)データベース上ではサムットプラカンの「メガバンナー」内にある「イケア」での許可取得は確認できない
なお、一般的には外資企業が絶対に実施できない(タイ資本との合弁にせざるを得ない)と考えられている飲食について、イケアがFBLを取得している、というのは日系大手小売業または飲食業にとっても注目すべきケースといえます。あくまで個別の判断となりますし、どの程度の規模感が求められるのか、和食などに料理の国籍を限定することが重要なのか(ノンタブリのみタイ料理も許可)、など判断基準は分かりませんが、許可取得事例が存在する(かつ複数取得している)という事実は、取得に挑戦する意義があることを示しています。
もう1つの事例が、「スクラップ」の販売です。こちらも商務省の判断事例は非常に少ないのですが、製造工程で発生したスクラップをリサイクル会社に売却することは、外資規制に抵触しない(=外資企業が実施できる)とされています(2012年1月No.1)。
こちらは農産物や飲食とも異なり、「小売」「卸売」に該当しないだけでなく、外資規制そのものに該当しないというケースです。厳密には、「品目」が該当しないというよりも、「事業」に該当しない、という考え方を商務省はしているようです。同様に、不要となった機械設備等を売却することについても、事業として行なうものではないため、外資規制に該当しないと認識されています。 ただし、スクラップや不要機械設備については、商務省の解釈が明確に示されているわけではないため、安易な拡大解釈はリスクがあるといえそうです。
ArayZ No.147 2024年3月発行タイの歴史の振り返りと未来展望
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Head of Consulting Division
吉田 崇 氏
東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
MU Research and Consulting(Thailand)Co., Ltd.
ASEAN域内拠点を各地からサポート
三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
No. 63 Athenee Tower, 23rd Floor, Room 5, Wireless Road, Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330 Thailand
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