SDVがもたらす事業機会と脅威

THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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SDVがもたらす事業機会と脅威

公開日 2024.08.09

近年、自動車業界ではDXが加速している。経済産業省が今年5月に策定した「モビリティDX戦略」もその一環であり、日本でも自動車のデジタル化を推進するための取り組みは官民連携して進められている。この戦略の主要領域の一つとして「車両のSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)化」が挙げられている。SDVとは、車両の機能や操作をSW(ソフトウェア)によって制御・管理する技術を指し、車両の進化を加速させるだけでなく、新たなビジネスチャンスを生み出す可能性を秘めている。

SDVが生み出す価値

SDVは、車両の機能をSWによって定義することで、アップデートや新機能の追加が容易となる。HW(ハードウェア)とSWが独立して進化できる構造を持つ、いわゆるスマホのような設計だ。これにより、車両の寿命を延ばし、長期的な価値を提供することが可能となる。このSDVは多面的な価値を生み出すため、中長期的に見て、SDVへの移行は必然的な流れと考えられている(図表1)。

出所:ローランド・ベルガー作成

SDVのリーディングプレイヤー

グローバルでのSDV展開状況を見てみると、Teslaが先行しており、既に成果を刈り取り始めている。それを欧米OEMのGM、Mercedes-Benz、Renaultや、中国OEMのNIO、BYD等が追随している状況だ。

Teslaは、SDVの先駆者として、SWの定期的なOTAアップデートを通じて、新機能の追加や既存機能の改善を行っている。SWアップデートは、収益性の高さや安全性への関与度を加味し、特にAD/ADAS分野で頻繁に行われている(図表2)。高頻度なアップデートを通じて、車両の価値を維持し、顧客満足度を高めている。

出所:エキスパートインタビュー等をもとにローランド・ベルガー作成

マネタイズの点も注目に値する。買い切り型/サブスク型で提供しているFSD(Full Self-Driving)は、加入率19%程度ながら会社全体の営業利益の15%を占める貢献をしているという見立てもある。新車販売以外の領域ながら、強固な収益源として既にTeslaのポートフォリオ経営の一翼を担っているのだ。

こうしたSWを起点とした価値提供・収益化を支えるのが、Teslaの設計〜製造における割り切りだ。AD/ADAS領域等の顧客の提供価値に直結するSW及びそのSW性能に直結するHWは差別化領域と位置づけ、内製化している。一方で、駆動モーター、BMS用ラジエーター等のSW性能に直結しないHWについては外部を活用し、できるだけ簡素化・コスト削減を目指している。顧客体験価値・収益化を念頭に置いた上で、最適な車両のあり方を追求しているのである。

また、中国OEMも積極的に開発・展開を進めている。例えばNIOもSDV技術に注力しており、高速道路・渋滞時等の各種運転アシスタンスをはじめとするADAS機能群を買い切り型・サブスク型で提供しており、TeslaのFSD同等の自動運転を目指している状況だ。

SDVによる市場のゲームチェンジ

SDVの普及は、自動車市場全体における価値の再定義を促し、新車・中古車・リース市場の全てにおける競争に新たなルールを持ち込む。ガラケー市場にスマホが投入された時を考えるとわかりやすいだろう。

SDV車両は、常に最新の機能に更新され、車両の価値が高く維持されるため、ディーラーにとっては、中古車市場での価値が維持されることで新車の販売機会も増加し、新車・中古車のどちらにおいても収益の向上が期待できる。また、リース会社は高い残価を維持できるため、リース料金の設定にも柔軟性が生まれる(図表3)。OEMにとっても、SWアップデートによる新たな収益源が生まれ、長期的な顧客関係の構築が可能となる。

出所:エキスパートインタビュー等をもとにローランド・ベルガー作成

また、スマホの普及は、アプリのマーケットプレイスという新たな市場も生み出した。SDVでも同様に、自動車SWの買い手と売り手をマッチングさせるためのマーケットプレイス創出の動きも起きている。GM、マグナ、ウィプロが共同で設立した「SDVerse」は自動車SWの売買用のB2Bプラットフォームである。これはソフト調達における非効率性を解消することを狙って創立されたもので、既にローンチパートナーとしてルノーグループをはじめ複数のプレイヤーが名を連ねている。弊社ローランド・ベルガーはこのプロジェクトの戦略アドバイザーを務めているため、もしご興味があればお気軽にご連絡頂きたい。

ASEAN市場におけるSDV

現在、ASEAN地域でSDVを本格的に展開しているプレイヤーは見られない。自動運転の文脈では、各国で自律走行技術の研究や試験が行われているものの、インフラや規制の整備が追い付いていないのが実情である。

他方で、SDVに搭載される電子デバイスの電力確保という点において、大容量電池を搭載するEVとの相性は良い。EVに強みを持つ中国系プレイヤーは、SDVにおいても中国国内では着々と進化・商用利用を進めている。ASEANでのEV普及における彼らの勢いを見てもわかるように、機が訪れたら急速にSDVの普及・商用利用を進めていく可能性は高い。実際、中国系プレイヤーの中でも虎視眈々と機を伺っているプレイヤーがいるという話も聞く。

市場としての準備が整い次第、こうしたプレイヤーが牽引する形で、新たな潮流としてSDV車両がASEAN市場に変革をもたらすかもしれない。各プレイヤーや各国の今後の動きには注視が必要である。

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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
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Senior Project Manager, Asia Japan Desk

橋本 修平 氏

京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

Website : https://www.rolandberger.com/

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