「外国人事業証明書」を取得した事業(その2)

THAIBIZ No.154 2024年10月発行

THAIBIZ No.154 2024年10月発行なぜタイ人は日系企業を選ぶのか

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「外国人事業証明書」を取得した事業(その2)

公開日 2024.10.10

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

BOIよりも応用範囲が広いIEATのFBC

外資企業が実施できる事業の類型の4つ目である、商務省から「外国人事業証明書(FBC=Foreign Business Certificate)」を取得した事業は、さらに5つのパターンに分類されます。前回ご説明した「投資委員会(BOI)に基づくFBC」に続き、残り4つのパターンについて説明します。

BOIと同じく、外国人事業法とは別の法律に基づくFBCとして、「工業団地公社(IEAT)に基づくFBC」が2つ目のパターンです。IEATの認可に基づく外資規制緩和も、基本的な仕組みはBOIと同じです。すなわち投資誘致を目的とするIEATの権限において、IEATが申請事業を認める場合、すなわち工業団地に入居して当該事業を行なうことが認められた場合に、外資規制緩和についても商務省が追認し、FBCを発行します。

しかしBOIの場合は、認可対象事業が予め規定されており、FBCの対象となる範囲も事前に想定しやすいのに対して、IEATでは、必ずしも実施可能な事業が明確になっているわけではありません。入居可否、および事業実施可否は、ケースバイケースでIEATに判断される要素が大きいと言えます。また、入居企業の大部分は製造業ではあるものの、中には製造関連のサービス業の企業が入居する場合もあります。このためIEATのFBC取得事例では、あまりBOIでは見られないような、変則的な内容が認められるケースもあるようです。

もっとも、工業団地において入居企業の大部分を占める製造業は、BOI認可も得ている場合が多く、「受託製造サービス」など一般的にFBCで取得されるものは、やはりBOIに基づく方が分かりやすいこともあり、IEATに基づくFBCの取得は限定的とも考えられます。

工業団地に入居する製造業の企業にとっては、外資規制緩和が必要となった場合に、まずはBOI認可に基づくFBCを検討し、事業内容によってBOIの認可対象とならない場合には、IEAT認可に基づくFBCを検討する、というのが基本的な考え方になろうかと思います。とは言え、状況によってはBOIよりもIEATの方が、取得のハードルが低い、または取得までの時間がかからない、というケースも考えられますので、どちらを優先すべきかは、よく検討する必要があります。

タイの「工業団地」は2種類に分かれる

もう一つ重要なポイントは、タイの工業団地は、「IEATが所管する工業団地」と、「それ以外の工業団地」に分かれる、という点です(図表1)。

出所:タイ工業団地公社(IEAT)資料等より三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

当然ながら、IEAT認可に基づくFBCは、IEATが所管する工業団地に入居する場合に限られます。工業団地外に立地している場合はもちろんのこと、工業団地であってもIEAT所管外の工業団地であれば適用されません。

国によっては、認可された工業団地はインフラが整備されているのに対して、認可外は整備が不十分だったりするケースもあるようですが、タイにおいては、必ずしもIEAT所管外の工業団地の品質が劣るというものでもありません。むしろ反対に、日系企業が多数入居する、高品質で有名なインフラを抱える工業団地が、IEAT所管ではないケースも多数あります。

あまりこれと言った特徴がなく、特筆すべき入居企業もないIEAT工業団地もたくさんあります。同じ運営会社であっても、場所によってIEAT所管のものと、そうではないものに分かれるケースもあります。

IEAT工業団地であるか否かは、どのように判別できるのでしょうか。実は非常に簡単で、「工業団地」としての名称が異なるため、一目で判断できます。IEATウェブサイトには、現時点で64ヶ所のIEAT 工業団地が紹介されています(もっとも明らかに記載漏れの工業団地がいくつかありますので、実際にはもう少し多いと考えられます)。

これらIEAT工業団地は、タイ語で「ニコム・ウッサハカム○○」(=○○工業団地)と呼ぶのに対して、それ以外の工業団地は「ケート・ウッサハカム▲▲」(=▲▲工業地域)や「スアン・ウッサハカム◆◆」(=◆◆工業パーク)、などと称されます。英語では、前者はIndustrial Estateと決まっていますが、後者はIndustrial ZoneやIndustrial Parkと訳されることが一般的です。

ところが、名称に明確な違いがあることが認識されずに、資料によってはIEAT所管外の工業団地についても「工業団地」や「Industrial Estate」と翻訳されているケースが稀にあります。判断に迷う場合は、IEATのウェブサイトで確認することをおすすめします。

入居する工業団地を選択する際に、IEAT所管であるか否かは、それほど本質的な論点とはならず、むしろ立地やインフラ、日系企業の入居実績、価格などの要素の方が、よほど重要なポイントになると思います。しかしFBC取得の観点からすると、選択肢と可能性が多少増えるということにはなりますので、既に入居している企業にとっては、IEATに基づくFBCを申請できるかどうかは、予め認識しておくべき事項と言えるかもしれません。

次回は、タイ国内法ではなく、他国との取り決めによって外資規制が緩和されるパターン、すなわち条約に基づくFBCについてご紹介します。

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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

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Head of Consulting Division

吉田 崇 氏

東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

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