THAIBIZ No.153 2024年9月発行ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2024.09.10
タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。
外資企業が実施できる事業の類型の4つ目は、商務省から「外国人事業証明書(FBC=Foreign Business Certificate)」を取得した事業です。タイの外資規制は、本来は商務省事業開発局(DBD)が所管するもので、緩和の許可についても外国人事業法に基づきDBDが権限を持ちます。これに対してFBCとは、外国人事業法とは別の、他の法律や条約に基づいて外資規制が緩和され、それを商務省が追認したことを証明するために発行されるものです。
商務省の資料によれば、FBCの発行実績は、根拠となる法律または条約によって、以下の5つに分類されています(図表1)。
1. 法律に基づくFBC
法律に基づくFBCとは、外国人事業法とは別の法律に基づき外資規制が緩和されることを指します。これには投資委員会(BOI)に関する「投資奨励法」に基づくFBCと、工業団地公社(IEAT)に関する「工業団地公社法」に基づくFBCの2つがあります。
いずれの法律も、タイ国内への直接投資の促進を目的とした法律であり、その目的の範囲内で、外資規制を緩和する権限がBOIとIEATに与えられています。商務省が直接的に外資規制緩和を判断する外国人事業許可証(FBL)に比べると、BOIまたはIEATの定める投資条件等に従う必要はあるものの、その条件さえ満たすことができれば、FBCの取得は容易とされています。
それぞれのFBC発行実績の内訳については、BOIとIEATで合算して公表されているため残念ながら不明ですが、感覚的には7割から8割程度はBOIによるものと推測されます。IEATによるFBCは、特定の工業団地に入居する場合に限られること、また工業団地に入居するということは製造業である場合が大半で、製造業はBOIも取得していることが多く、BOIの方が制度としても分かりやすいことから、BOIに基づくFBCが多数派になると考えられます。ただし、次回ご紹介するように、実施可能となる事業内容の観点からはIEATの方がより柔軟性に富んでいます。
2. 条約に基づくFBC
一般的にも良く知られているBOIやIEATに基づくFBCの他に、あまり知られていませんが条約に基づくFBCがあります。これも、さらに2つに分かれます。1つは伝統的な通商条約に基づくもの、もう1つは自由貿易協定(FTA)に基づくFBCです。
①通商条約に基づくFBC
伝統的な通商条約に基づくFBCに該当するのは、図表1の通り米国との条約のみです。詳しくは次回ご説明しますが、タイにおいて米国企業だけは、外資規制が大幅に緩和されている状態が過去から継続しており、発行実績を見れば現在も一定数が活用されていることが分かります。ただし国際的な枠組みの中では、今後このカテゴリーが増加していくことは基本的に考えられず、日本企業が同様の状態になることは期待できません。
②自由貿易協定(FTA)に基づくFBC
タイは、現在10を超えるFTAを結んでいます。FTAで外資規制の緩和について取り決めがあり、かつ実際に利用されているのが、日本、および豪州の2つです。ただし実績数を見て分かるように、極めて活用事例が少ないのが実態です。特に近年ではほとんど事例がなく、もはや忘れ去られつつある存在です。もっとも通商条約と異なり、FTAについては今後も対象国が増加し、活用できる範囲も拡大していく可能性はあります。
5種類のFBCのうち、まずは最もポピュラーなBOIに基づくFBCについて、その内容をご紹介します。BOIの認可に基づき外資規制が緩和されるためには、その事業が、BOI認可事業の範囲内であることが必要です。BOIに基づくFBCの取得事例は、大きく「受託製造」、「卸売」、「サービス」の3つに分類されます。
1. 受託製造
「受託製造」は、BOIから製造として事業認可を取得し、その内容に受託製造サービスを含ませるものです。本連載でも以前ご説明した通り、「製造」は外資規制の対象外です。そのため、製造業におけるBOIの認可取得の意義は、外資規制緩和ではなく、法人税優遇などの他の恩典ということになります。しかし部品等の製造では、「受託製造」としての形態が避けられないことも多く、かつタイでは「受託製造」は「サービス業」として外資規制に抵触します。
そこでBOI認可に受託製造サービスまで含ませて、それに基づきFBCを取得する、というのが、このパターンです。日系企業にもよく見られる手法ですが、一方で受託製造自体は後でご紹介するFBLでも比較的取りやすいものですので、それほどFBCに希少性があるとも言えないかもしれません。
2. 卸売
「卸売」は、国際ビジネスセンター(IBC)、や国際調達事務所(IPO)、貿易投資支援事務所(TISO)など、BOIが規定する事業内容にもともとタイ国内での卸売を含む認可を取得し、これに基づきFBCを取得するものです。既に本連載でご説明した通り、卸売も外資規制の対象事業であり、FBLを取得することは比較的難しいものです。
また、卸売は許可なしでの実施も可能ですが、その場合は多額の資本金を要します。BOI認可に基づきFBCを取得することで、大幅な増資を回避して、現実的な資本金の額で卸売が実施できるようになることがメリットです。ただし、認可の種類によって、取扱いできる商材や商流が異なること、いずれも「卸売」のみを対象としており、原則として「小売」はこの手法でもカバーされない点に留意が必要です。
3. サービス
「サービス」として、例えば製造に近いものとして「表面処理」などが代表的なものですが、これは(受託製造のような「製造」の一部としてではなく)「表面処理」そのものがBOIの認可対象事業となっています。
他にも、上記のIBCやTISOで地域統括機能などを行使する(=グループ企業向けサービスを含む)場合や、同じくTISOで機械の「据付・保守・修理・校正」サービスを行う場合も、FBCを取得することが一般的です。BOIの奨励対象は製造事業が主ではありますが、サービスについても対象となるものがあり、そうしたサービス事業についてはFBCを取得することで外資規制が緩和され、外資100%での事業実施が可能となる、ということです。
発行実績からも明らかなように、BOIまたはIEATに基づくFBC取得は極めて一般的な手法です。ところが、なかにはBOI認可を取得しただけで安心し、FBC取得を怠っている事例も日系企業に散見されます。外資規制緩和の観点からは、BOI認可取得だけでは不十分で、FBC取得をもって完結しますので、手続が漏れていないか念のため確認することをお勧めします。
次回は、FBCのうちBOIに基づくものを除く、残りの4種類についてご紹介します。
THAIBIZ No.153 2024年9月発行ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Head of Consulting Division
吉田 崇 氏
東京大学大学院修了、タマサート大学交換留学。ジェトロの海外調査部で東南アジアを担当後、チュラロンコン大学客員研究員、メガバンクを経て、大手コンサルで海外子会社管理などのPMを多数務めた。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
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