カテゴリー: バイオ・BCG・農業, 対談・インタビュー
公開日 2024.11.18
バンコク都心の食品スーパーに行くと「オーガニック」を謳う生鮮野菜が予想以上に多く売られている。特に熱帯で病虫害も多そうなタイでオーガニック農業は難しいのではと考えていたので、これらは本当にオーガニックなのかと思った。その後、プロンポンの駅近くに「サステナ」という日本人が経営するオーガニック食品を販売するショップとレストランがあることを知ったが、これまで取材する機会はなかった。
先日、知人の紹介でサステナとハーモニーライフ・オーガニックファームを経営するHarmony Life Internationalの大賀昌社長に初めて取材、ナコンラチャシマ県カオヤイの農園を見学することができた。大賀氏のインタビューを2回にわたり掲載する。
(取材・11月8日など、聞き手・増田篤)
目次
大賀氏:43年前、25歳の時にワーキングホリデーでオーストラリアに滞在した時、現地のある病院で3年間働かせてもらった。この時、がん患者が約7割を占めていたことに驚いた。その後、日本に帰国して当時、福岡に本社があった医療用具製造販売会社に入社した。33歳の時に台湾支社に赴任、38歳の時にタイ法人の責任者になり、43歳までこの会社でタイに駐在した。40歳を過ぎたころから自分自身の体調も悪くなる中で、癌など病気の急増の原因は食べ物ではないかと考えるようになった。
70~80年ぐらい前から世界の経済システムが大量生産・大量販売に変わり、農産物も大量生産されるようになり、農薬や化学肥料を大量に使用、食品も防腐剤、化学調味料、着色料、香料など多くの添加物が使われるようになった。そして同じペースで癌も増えてきた。
医療機器会社のタイ法人ではバンコクにあるタイの本社からナコンラチャシマ(コラート)の支社に通うようになっていたが、その途中にあるカオヤイの山腹に白い仏陀像(ワット・テープピタック・プンナーラーム)をいつも見ながら農業をやりたいとの思いが強くなっていった。
43歳の時にここでオーガニック農業をやると決めた。人間が豊かになるために自然・環境を壊し、水を汚染し、このままだと地球は人間の住めない場所になると思い、「自然と人間の調和」を目標に1999年にハーモニーライフを創業した。
大賀氏:オーガニック農業をやると決めてから、法人を設立してカオヤイで借金もして土地を購入した。しかし、農業の知識は全くなかったので、まずはカセサート大学に行って専門教授を探した。そしてタワット教授という素晴らしい先生に出会うことができ、農業用水システムや農地整備などを学んだ。ただ当時、タイにはオーガニック農業に詳しい先生はいなかったので、日本や米国の農場を見学した。それでも、タイは天候や環境が違うので、タイ国内で無農薬栽培を実践していた小規模農家にも教えてもらった。
また、農業にとって重要な土壌については、このエリアが粘土質の赤土で、水保ちは良いものの水はけが悪く、根腐れなどの病気にかかりやすいことを知り、土壌の改良に懸命に取り組んだ。土壌改良には堆肥を使うが、それだけでは難しく、良い微生物が必要だと分かった。
そこで光合成細菌や乳酸菌、酵母など人にも環境にもやさしい善玉菌の集合体である「EM菌」を開発した琉球大学の比嘉照夫名誉教授に教えを乞いに沖縄まで行き、微生物のことを学んだ。現在では有用微生物を活用したオーガニック農産物主原料に、独自に開発したEM菌を使ってオーガニックの農業に取り組んでいる。
大賀氏:もう一つの課題として取り組んだのが良質な水の確保だった。カオヤイの農場は標高400メートルで1日の寒暖差があり、タイ東北部イサーンの他の地域に比べても気候条件に恵まれているが、水が足りなかった。そこで、地下150メートルまでボーリングし、豊富な井戸水を供給できるようにした。そしてその地下水を、盛土をした高所に作った池に溜め、そこにEM菌を投入して有用微生物を補い、この高位にある溜池から畑に水を流すシステムを作った。
大変だったのはやはり病害虫と天候との戦いだ。日本は涼しい時は害虫が減るが。タイは1年中暖かく、虫は1年中活発に動く。最初の6年間は病害虫に苦しみ、会社が潰れそうになったこともある。ただ、同じキャベツ畑でも虫に食われてボロボロになっている1画がある一方、全く虫が来ない1画もあることに徐々に気づき、害虫は元気に育っている野菜には来ず、弱っている野菜に来ることが分かった。人間と同じだ。そこで、「虫を除ける」という考え方ではなく、「いかに元気な野菜や果物を作るか」というアプローチに切り替えた。土壌を元気にするために有用微生物の多い肥料を作ることに取り組んだ。
もともと牛は草を食べる動物だ。しかし、現在の市場では霜降り牛肉のように脂肪の多い牛肉が高値で取引される。脂肪をつけるために、本来牛が食べない配合飼料などを食べさせる。そのような飼料を与えると消化不良を起こして糞に腐敗菌が発生、臭くなり、牛糞で作る肥料にも悪い菌が入ってくる。そこで牛には草だけを与え、鶏も放し飼いにすることで、有用微生物が多く、腐敗菌の少ない牛糞、鶏糞にして、これを使った肥料で土壌を改善していった。
大賀氏:最初はエジプトにいる知人からモロヘイヤの種を送ってもらい、モロヘイヤのオーガニック栽培から始めた。当時タイではモロヘイヤはほとんど知られていなかった。モロヘイヤを収穫した後、お茶やアイスクリーム、ケーキなどの加工食品を作り、販売した。今でも一番多いのはモロヘイヤヌードルで、バンコクの大手スーパーの多くで売っている。また、農園の一番大きな工場で海藻類と野菜、果物、ハーブなど32種類を混ぜて3年間発酵させて作る酵素(エンザイム)飲料も主力商品だ。その原料は海藻のみ北海道産だが、その他はすべてこの農園でオーガニック栽培したものだ。
生鮮品は野菜、果物、ハーブなど約70種類を栽培している。生鮮野菜ではレタスが6種類で多い。その他もニンジン、キャベツ、小松菜、キュウリ、トマト、ナスなどの日本の定番野菜が中心だ。いずれこうしたオーガニック農産物を100種類まで増やしたい ハーブはレモングラスや、その一種のシトロネラ、ウコン、生姜などだ。さらに、スイートバジル、ホーリーバジル、ローゼル(ハイビスカスの一種)、ペパーミント、パクチーもある。
こうしたハーブ類は焙煎してお茶(ハーブティー)に加工、アロマセラピー用にハーバルボールやハーブマッサージオイル等も製造している。ハーブを始めた理由の一つが、ハーブには虫が寄ってこないし、通常の野菜の近くで栽培すると野菜の病虫害も減るということもあった。
(下)は後日公開
THAIBIZ編集部
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