2024年の振り返りと2025年の展望

THAIBIZ No.157 2025年1月発行

THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想

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2024年の振り返りと2025年の展望

公開日 2025.01.10

2024年2月号の拙稿では、「日系メーカーが長らく高いシェアを誇ってきたASEANで、潮目が変わった年として自動車産業史に残るかもしれない」と述べた。2024年は、自動車市場全体の落ち込みにより、中国勢のEV販売の伸びは抑えられたものの、日系のシェアの低下傾向に歯止めがかからず、日系の生産拠点そのものの見直しにもつながり、大きな転換点となった。本稿では、2024年に注目された市場と生産トレンドおよび政策について触れながら2025年を展望する。

日系の販売シェアの歯止めかからず

タイでの中国勢のシェアは、2024年10月現在12%と前年から2ポイント伸びており、日系全体のシェアは74%と、シェア低下に歯止めがかからない状況にある。特に落ち込みが大きいのは、トヨタ、いすゞ、ホンダを除いた「その他日系」であり、2021年の20%から2024年には9%まで落ち込んでいる(図表1)。

出所:FTI資料などからNRI作成

このような背景から、6月のスズキのタイからの生産撤退から見られるように、いわゆる日系Tier2と言われるブランドのタイでの事業を見直す動きが相次いだ。直近の報道では、グローバルでのリストラ策の一環として日産も1,000人を整理する。2000年代後半に政府の小型乗用車生産拠点化のためのエコカー奨励策で、タイで小型乗用車事業に投資した日系メーカーが、近年の市況の変化や、EVの普及で軒並み影響を受けた形だ。

ハイブリッドのプレゼンス増大

中国勢の伸長の防波堤として、日系にとってのハイブリッドの重要性は高い。タイ政府は、12月にフルハイブリッドに対する優遇税制措置に加えて、マイルドハイブリッドに対する優遇措置を発表した(図表2)。

出所: BOI資料をもとにNRI作成

2024年は、BEVが前年に比べて伸び悩むなかで、ハイブリッドは登録ベースで11月現在で12万台を超え、BEVの倍に達した。トヨタが前年よりシェアを40%近くまで伸ばした要因として、法人需要に強く、ピックアップの販売が他社ほど落ち込まなかったことに加え、カローラ・クロス等ハイブリッドの販売が好調であることが大きい。マイルドハイブリッド優遇措置は、内燃機関のエコカーを生産している日系メーカーにとっては、税恩典を得られることになる。

モーターエクスポで存在感を見せたBYD 〜日系キラーのSealion7の投入

先月開催されたモーターエクスポの販売実績を見ると、首位はトヨタが維持したものの、昨年3位であったBYDが2位になり、昨年2位であったホンダに2,000台以上の差をつけた。昨年一回り小さいSUVのAtto3に替わって、今年は1クラス上のSUVのSealion7が3,853台とBYDの予約台数の半分を占め、販売をけん引した(図表3)。

出所: Autolife ThailandのデータをもとにNRI作成

後部座席が広く、シートはドライバーに合わせて自動的に調整、シートの冷却機能などの装備を搭載するなど、高級車の仕様でありながら手頃な価格で購入できることが幅広い所得層に受けた。Sealionのセグメント7のセグメントは、ホンダやマツダなど日系が強いCセグメントのSUVであり、またしても日系ブランドのキラー的なモデルが投入された。

モーターエクスポで披露されたBYD Sealion7
出所:筆者撮影

中国勢の電動ピックアップの投入

今回、モーターエクスポで注目されたのは、日系の牙城であるピックアップへの中国勢の電動ビックアップの投入である。これまでは、GWM(長城汽車)やMGなどの他のラダーフレーム構造の中国勢のピックアップは、トヨタやいすゞなどの日系メーカーに対して勝負にならなかったが、BYDや長安汽車などが新モデルを初披露。

なかでも、今回初参加のGeely(吉利汽車)のピックアップブランドRiddaraが、BEVモデルを90万バーツで投入しており、他のピックアップと異なり、乗用車と同じモノコック構造であることが注目される。乗用車と同じADAS(先進運転支援システム)やインフォテインメントの機能を搭載することで、差別化を図ろうとしており、保守的なピックアップ市場に受け入れられるのか注視したい。

現地生産目標の未達成で苦闘する中国勢

2024年は、タイに進出した中国勢の多くが現地生産を開始したことで、中国勢のEV生産開始元年として注目された。しかし、蓋を開けてみれば、国内販売低迷もあり、現地生産は計画通り進まなかった。Thailand EV3.0の奨励策では15万バーツの補助金をもらう条件として、2024年に前年までに販売した台数、2025年までにその1.5倍を生産する義務を負うが、中国勢は大幅な未達成状況にある。

その結果、中国勢はタイ政府に働きかけ、タイEV委員会は12月4日に現地生産目標の2年の後ろ倒しを認めた。その代わり、2026年以降に生産目標を延ばす場合には、EV3.5の奨励策と同等のより高い生産目標を課す。中国メーカーは2024〜2025年に生産目標を達成しなくても、ペナルティは課されないという点で、タイ政府から大きな譲歩を勝ち得た。補助金を殆どもらっていない日系からみれば、不公平感が残る。

2025年の展望

2025年は、2024年の前年比20%超減の60〜65万台の販売、20%近く落ち込んだ180〜185万台の生産から顕著に回復する材料は乏しい。中国勢の生産目標達成のために価格引き下げが続くことから、日系にとってはまた正念場となる年が続きそうだ。

THAIBIZ No.157 2025年1月発行

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NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal

山本 肇 氏

シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。

野村総合研究所タイ

ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)

《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

TEL: 02-611-2951
Email:[email protected]
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua,
Wattana, Bangkok 10110

Website : https://www.nri.com/

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