カテゴリー: ASEAN・中国・インド, DX・AI
公開日 2025.02.10
ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)は、その名の通り、ビジネスにおける一部の業務を外部委託することである。その定義には曖昧なところはあるものの、グローバル全体の市場規模は2023年には3,650億米ドル、2028年には4,760億米ドルに至るとも言われている(図表1)。
BPOは、古くから存在するB2Bソリューションだが、時代の変化に合わせてサービススコープや提供価値を進化させることで市場を拡大してきた。そして、近年はこのBPO市場を大きく変えうるトレンドがいくつか見られる。
BPOに最も大きな影響を与えるのがAIである。弊社の試算では2028年に向けたBPO市場規模増分のうち、その8割はAIがドライバーとなるものだ。AIの進展によって、例えばコールセンターの需要が減少するという見方もある。このことは正しい。だが、正確に言えば、人間のオペレーターが対応する伝統的なコールセンターが、AIエージェントが主体となる新たなかたちのコンタクトセンターに置き換わるということなのだ。
このAIコンタクトセンターでは、顧客対応のフロント業務だけでなく、顧客との対話から行う満足度分析や、カスタマープロファイリング等も一気通貫で行う。結果的に、BPOのスコープが「顧客対応」だけでなく「顧客分析」にまで拡がることとなり、市場もさらに拡大するわけだ。この分野では、中国のアリババやテンセントが先進的な取り組みを続けている。
AIがトピックとして挙がると、「人の仕事はAIに奪われるのか」という問いが必ず発せられる。この問いに対する見解を詳細に論じるのはここでは控え、ひとまずの解を「人にしかできない創造的業務は残る」として話を進める。その前提に立つのであれば、BPOはAIが担うタイプの業務と、人間が担うタイプの業務に大別されるはずだ。人間が担うタイプの業務こそが、つまりは「人間にしかできない創造的業務」というわけである。
例えば、「エンジニアリングアウトソーシング」がそこにリーチするBPOである。自動車や家電、データセンター、産業設備等の分野で、製品開発や設計等をBPO事業者にアウトソースする形式だ。保守・メンテナンスといった定型業務というよりは、要件定義で発生する関係者との対話も含め、より“人間的”で高度な専門性が求められる業務が対象とされる。
エンジニアリングの世界では仕様の細分化や開発サイクルの短期化が進んでおり、それらを外部の専門家に委託するニーズは高まっている。その受け手として、台湾の鴻海精密工業(Foxconn)、インドのタタ・グループといった、いわずもがなのプレイヤーはもちろん、それらだけでなくスタートアップも多く登場しており、BPOの中でも有望市場のひとつだ。
最後に挙げるトレンドは、BPOの受け皿となる国・地域の変化だ。グローバルBPO市場におけるアジアの重要性は高まっている(図表2)。
その中でもフィリピンやインドはBPO国の代表格として語られることも多い。高い英語力と人件費メリット、そしてBPOの大口顧客である米国企業から見た時差の優位性—これらの要素によってフィリピン、インドはBPO大国となったわけだが、その状況は変わりつつある。
特に、フィリピンはグローバルBPO市場におけるその地位を失いつつあると言われている。フィリピンのBPO市場の過半は伝統的なコールセンターだ。まさに言語力と安い労働力が支えてきた産業である。それが、前述の通りAIコンタクトセンターに置き換えられる可能性が危惧されている。もちろんフィリピンも技術的なキャッチアップは進めているが、このような高次分野では、同じ東南アジアでもマレーシアが既に先を行っている。
マレーシアは英語だけでなく中国語を含めた多言語対応が可能という利点もある。かつてBPOの大口需要家は米国企業が中心だったが、現在では中国企業の存在感も大きい。中国からのBPOニーズの受け皿としてもマレーシアは注目を集め始めているのだ。フィリピンBPOのは地理的構造変化の一例に過ぎない。日本からは中国・大連へBPOするケースは多かったが、現在では諸々のリスクから国内に回帰させることも増えている。このようにBPOの地理的構造の変化は各地で起こりつつある。
大きな構造変化を見せつつあるグローバルBPO市場。BPOユーザーである企業も、BPOの担い手である企業も、いずれもこの情勢を見極め、次の一手を正しく、そして大胆に取ることで次の時代のトップランナーになりうるのではないだろうか。
Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
[email protected]
Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk
橋本 修平 氏
京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。
Roland Berger Co., Ltd.
ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート
17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand
Website : https://www.rolandberger.com/
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