リユース市場の成長と構造変化

THAIBIZ No.160 2025年4月発行

THAIBIZ No.160 2025年4月発行駐在員必読! タイ式経営の流儀

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    リユース市場の成長と構造変化

    公開日 2025.04.10

    タイを含めたアジア市場でリユース市場の成長が著しい。元々、アジア新興国では知人間での中古品取引や小規模な中古品売買事業者が形成する市場は昔から存在していた。いわゆるマーケットレポートでは見えてこない市場だ。

    そのようなアンダーグラウンドな市場の近代化が今、急速に進んでいる。その担い手は日系を筆頭としたチェーンビジネスである。彼らはアジア市場に参入し、洗練された店舗や明確な査定基準などによって市場の透明性を高めた。他方、このようなリユースチェーンによる市場形成とは異なる進化もアジア新興国では見られる。本稿では、リユースチェーンの外側にある、アジア新興国ならではの市場トレンドを論じたい。

    C2Cオンラインプラットフォーム

    一般的に時計等の高級品を消費者間取引(C2C)オンラインで中古品購入することに抵抗を持つ消費者は多い。弊社の調査によると、日本ではリユース商品の潜在ユーザーのうち45%は「高級品の中古をC2Cでは絶対に購入しない」と回答している。他方で、アジア新興国においては国による差異はあれど「絶対に購入しない」と回答した割合は30〜40%に留まる(図表1)。

    ※1 国によって割合に差異は有り
    出所:消費者調査をもとにローランド・ベルガー分析

    この背景のひとつには、そもそもオンライン購入自体に対する信頼度の高さがあると考えられる。英国のソーシャルメディア関連調査会社のWe Are Socialによると、例えばタイは「(何らかの商品・サービスを)毎週オンラインで購入する」消費者の割合が69%であり、世界トップだ。韓国、マレーシア、中国、ベトナム等の他のアジア各国も60%を超えている(日本は44%)(図表2)。

    ※2 16歳以上人口に占める割合
    出所: We Are Socialをもとにローランド・ベルガー分析

    オンラインでモノを買うということが日常に身近にあり、それが高級品になっても日本ほど心理的抵抗を抱かないことが想像される。実際、タイでもKaidee等のC2Cオンラインプラットフォームが活況であり、その中でブランドバッグや時計の売買もされている。  

    ブティック系リユースショップ

    他方、オフラインのリユース市場では、チェーンビジネスの他に単店ベースのブティック系リユースショップも増えている。個人経営の昔ながらの中古品店が、今風に洗練されたリユースショップに置き換わってきているのだ。このようなブティック系リユースショップは、ソーシャルメディアを活用した商品プロモーションを行い、若くて感度の高い消費者を誘引している。典型例として香港では、「當舖(ダンプー)」といった伝統的な質屋が淘汰される中、ブティック系リユースショップの店舗数が拡大傾向にある。 

    ブランド/メーカーのサーキュラーエコノミー

    また、成長するアジアのリユース市場を取り込もうと、ブランド/メーカー自体がリユースビジネスを運営するケースも増えている。昨今のSDGsトレンドも後押しするかたちで、商品の生産者であるブランド/メーカーがリユースまでバリューチェーンを包括することで、いわゆる「サーキュラーエコノミー」を作ろうという発想だ。例えば、タイでは日本のアパレル大手、ワールドが現地財閥のサハと組んでRAGTAGというリユースのセレクトショップを展開している。

    リユースビジネスの越境

    最後に紹介するのは、アジア内でリユース品の越境が増えているというトレンドだ。従来から中国人バイヤーが日本でリユース品を買い集め、巧みに関税を回避して本国へ持ち帰るという流通がある。現在でもそのルートは存在するものの、今では越境ECも一般化し、リユース品はよりダイナミックにアジア内を行き来するようになっている。リユース事業者にとっても「どこで買い取り、どこで販売するか」というサプライチェーン的な考え方がより重要になってきているのだ(図表3)。

    出所:各種二次情報、エキスパートインタビューをもとにローランド・ベルガー分析

    このように、急成長しているがゆえ、大きな構造変化も見せるアジアのリユース市場。サステナブルな経営が求められる中、リユース専売事業者はもちろん、ブランド/メーカー側にとってもこの市場を上手く取り込んでいくことが必須となっている。

    Roland Berger Co., Ltd.
    Principal Head of Asia Japan Desk

    下村 健一 氏

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
    [email protected]

    Roland Berger Co., Ltd.
    Senior Project Manager, Asia Japan Desk

    橋本 修平 氏

    京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

    Roland Berger Co., Ltd.

    ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
    □ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
    □ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
    □ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

    17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
    Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

    Website : https://www.rolandberger.com/

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