THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術
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カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド, DX・AI
公開日 2025.03.10
ASEAN地域の自動車アフター市場では、デジタル技術の浸透とECの成長により、部品販売や修理サービスの提供形態にも大きな変化がもたらされつつある。実際、自動車アフターの領域においても消費者や事業者によるデジタルサービスの活用は進んできている。本稿では、部品流通、修理・メンテナンスにおけるデジタルトランスフォーメーション(DX)動向から今後の展望を考察する。
まずは部品流通の領域におけるデジタル化の動向を見ていく。ここでは、オンライン部品マーケットプレイスの台頭により、部品メーカーや卸業者がデジタル経由で直接幅広い顧客(整備工場や一般ユーザー)とつながる動きが見られる。
タイのスタートアップWhatsEGG (Thailand)が運営する「EGG Mall」は、ビッグデータ技術とデジタルソリューションを駆使し、整備工場・小売店・保険会社などをつなぐ国内最大規模の自動車部品マーケットプレイスだ。整備工場や保険会社向けにオンラインで部品を調達・発注できる利便性により人気を博している。
同様に、タイの「AUTOPAIR」も部品流通DXの注目企業の一つである。整備工場やパーツショップ向けに部品発注B2Bオンラインプラットフォームを提供するだけでなく、整備工場向けの修理管理SaaSや倉庫管理システムも含めた包括的ソリューションを展開。部品購入プロセスの利便性・迅速性・透明性を高めることでユーザーの新たな体験価値を創出している。
また、B2Bだけでなく、B2C(一般消費者)向けの部品電子商取引(EC)も市場は拡大傾向である。ASEANにおける自動車アフターパーツのオンライン購入市場規模は2022年の約40億ドル規模から、2030年には約90億ドルにまで成長する見立てがあり、特にタイはASEAN域内でも最大の部品EC市場として注目されている。その背景には、タイ固有のEC購買比率の高さが存在している(図表1)。
加えて、DIY文化の広がりもこの成長を後押ししている。以前は整備工場等が主要顧客だった補修部品も、近年ではカスタマイズや自分で車をいじる愛好家層がLazadaやShopeeを介して手に入れるケースが増えてきている。複数ブランドの価格・仕様を比較検討しやすく、口コミ情報も得られるオンラインならではの価値が、賢く部品を選びたい消費者の購買行動を変化させてきている。
整備・メンテナンス分野でもDXによるサービス革新が進む。この領域では、プラットフォーム型サービスによる顧客接点のデジタル化と、データ・AIによる業務効率化およびサービス高度化という二軸でDXが進展している。
例えばインドネシアのスタートアップ「Otoklix」は、車オーナーと独立系整備工場を結ぶオンラインプラットフォームを展開。ユーザーはアプリで近隣の信頼できる整備工場を発見・予約でき、標準化された透明な整備プロセスでサービスを受けられる。
作業内容や料金が明確に提示され、修理には保証も付与されるため、これまで玉石混交だった街の修理工場利用にも安心感をもたらしている。同時に、加盟する整備工場側には顧客管理(CRM)や在庫・仕入管理等のデジタルツールを提供し、売上や利益率、業務効率の向上を支援することで、プラットフォームの両面を拡大させてきている。
さらに、データ・AIの活用も整備・修理プロセスを変革しつつある。特に事故修理の分野では、保険会社とテクノロジー企業の提携により画像認識AIを使った損傷査定とクレーム処理が現実になっている。例えば、タイの大手損保Allianz Ayudhyaは、ドイツのクレームテック企業Control Expertと組んで自動車保険のAI自動査定サービスを提供している。
事故現場や損傷箇所の写真を顧客がオンライン送信すると、AIが画像を解析して修理箇所や部品交換の要否を判定し、最短3分で保険金支払い可否を含む見積結果を提示してくれる。これにより、従来は数日かかっていた見積査定と修理工場・保険会社間のやり取りが大幅に簡素化され、効率化・時短という価値を提供している。
黎明期ゆえの課題も少なくないが、ASEAN地域の自動車アフター市場DXの成長ポテンシャルは非常に大きいと言える。この事業機会をモノにするためのヒントをいくつか紹介する(図表2)。
「大手企業とスタートアップの協業深化」という点では、新たな価値創出のための連携は今後も進むだろう。例えば、保険会社と整備プラットフォームの提携によるワンストップ事故対応サービスや、メーカーと独立系ネットワークの連携による純正部品オンライン供給なども考えられる。
但し、DXの目標として顧客体験価値の最大化を掲げるのであれば、消費者の行動様式・購買特性の変化、アンメットニーズと改めて向き合い、あるべきサービス・提供価値を再定義する必要がある。その上で、その実現のために業界を超えた他社やスタートアップとの連携も含めた、新たな事業モデルを検討していくことが重要である。
THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術
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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
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Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk
橋本 修平 氏
京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。
Roland Berger Co., Ltd.
ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート
17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand
Website : https://www.rolandberger.com/
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