高い家が売れ、安い家が売れない

THAIBIZ No.160 2025年4月発行

THAIBIZ No.160 2025年4月発行駐在員必読! タイ式経営の流儀

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    高い家が売れ、安い家が売れない

    公開日 2025.04.10

    高い家が売れ、安い家が売れない

    今、タイの不動産市場で不思議な現象が起きている。図表1はバンコクおよび近郊県で販売された低層住宅の価格別新規販売戸数だ。

    (注)各年に販売が開始された物件から同一年内に販売された戸数
    出所:Agency for Real Estate AffairsのデータをもとにSBCS作成

    通常は安いほどたくさん売れ、高くなればなるほど売れる戸数は減る。そのため2018年や2019年のように、価格帯別に並べると下が多く、上が少ないピラミッド型の構造になる。当然と言えば当然である。

    ところが2024年を見てみると、最も安いエコノミークラス(300万バーツ以下)から、最も高いラグジュアリーまたはスーパーラグジュアリークラス(1,000万バーツ超)にかけてほとんど販売戸数が変わらず、ピラミッドどころか“ずん胴”型の構造になった。

    実際に不動産開発関係者の話によると郊外の高級物件の売れ行きは良いという。それも1軒が2,500万バーツ(1億円超)を超えるような物件の話だ。一方、安価な低層住宅やコンドミニアムの販売は苦戦しているという。要するに、高い家が比較的売れて、安い家は売れない。しかも「高い家も安い家も同程度の戸数しか売れない」という状況になっている。異常な状態と言えるだろう。

    なぜか。タイの家計債務は国内総生産(GDP)の90%近くに達している。その家計債務の中で最も大きな割合を占めているのが土地・家屋を購入するための住宅ローンだ。しかし、この住宅ローンが不良債権化する金額が上昇を続けている。2024年第4四半期は2年前の同期と比較して31%増加。2018年との比較だと46%増加している。

    要するに、銀行から住宅ローンを借りても返せない人が増えている、ということだ。当然、貸しても返してくれない可能性が高いのであれば審査が厳しくなる。ある記事によると、特に200〜300万バーツの住宅を購入しようとする層で、ローン審査に落ちる人が多く、その割合は50〜60%程度に達しているという。一方で、お金に余裕のある人は現金で住宅を購入するか、一部をローンにするとしても十分な頭金があるので審査に通りやすい。この傾向はコロナ前から同じだ。

    しかし、コロナ前後で1,000万バーツ超の物件は落ち込むどころか、販売戸数はコロナ前より増えている。一方、上記理由でローン審査が通らず住宅が買えない人が増加しているために500万バーツ以下の物件の販売戸数はコロナ前の4分の1以下に減少した。結果、ずん胴型の販売戸数になったという訳だ。

    タイで2016年から導入された相続税の税率は親子間であれば5%。配偶者は0%。その他の場合、10%となっている。しかも課税対象は総資産1億バーツ超だ。一方、バンコクおよび近郊県の土地価格指数はコロナ前の2019年第4四半期の158.2から187.3へと18.4%上昇。これでは、現金を持っているより土地等の不動産にしておいた方が良いし、仮に相続税がかかったとしても、課税額以上の価格上昇を見込める。富裕層にとっては、住宅や土地への投資は効率の良い投資、となっていると考えられる。

    2025年1〜2月の経済・政治関連トピック

    タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の2月17日発表(図表2)によると、2024年通年の経済成長率は前年比+2.5%で、2023年の同+2.0%から加速したが、東南アジア主要国の中では最低水準が続く。

    1人当たりのGDPは7,496米ドルに増加。業種別では、サービス業は観光需要回復で前年比+3.9%、工業は鉱業(同+9.2%)が好調で、同+0.9%とプラスに転じた。製造は同▲0.5%で2年連続マイナス。

    一方、農業は2023年の同+2.0%から同▲1.0%とマイナスに転じた。2025年通年の成長率見通しは同+2.3〜3.3%で前回予想から変動なし。

    出所:SBCS作成 (*)はタイ中央銀行より引用

    経済

    タイ商務省の発表によると、2024年の自由貿易協定(FTA)を利用した貿易額は前年比+5%の3,603.4億米ドルで、輸出額が同+3%の1,720.5億米ドルだった。輸出先別で見ると、ASEANが同+5%で、そのうちカンボジアが同+43%と伸び率が大きかった。ASEAN以外の輸出先ではペルーが同+33%、インドが同+16%、ニュージーランドが同+13%と伸び率が大きかった。タイは現在14件のFTAを締結しており、それ以外に妥結済で発効待ちのFTAが2件、交渉中のFTAが4件ある。

    ・・・・

    タイ投資委員会(BOI)は3月5日、台湾プリント基板協会(TPCA)と共催で「TPCAタイPCBフォーラム2025」を開催した。BOIのナリット長官は、このフォーラムには台湾プリント基板協会から60名以上が参加したことを明らかにした。また、特に中国、台湾、香港、日本のPCBメーカーは、インフラが整備されているタイの強みを認識しており、タイは重要な投資先になると述べた。過去3年間のPCBに関するBOI投資奨励申請数は130件以上、総投資額は2,020億バーツを超えている。その結果、タイはPCBの生産においてASEANで1位、世界でもトップ5に位置している。


    政治

    タイ空港公社(AOT)の発表によると、2月のタイ主要6空港(スワンナプーム、ドンムアン、プーケット、チェンマイ、チェンライ、ハジャイ)の利用者数は、前年同月比+4.1%の1,113.0万人で、国際線は同+3.6%、国内線は同+5.0%といずれも前年同月を上回った。

    1〜2月の6空港利用者数は、前年同期比+10.4%の2,375.6万人。同期間の空港別では、スワンナプームが前年同期比+8.3%の1,151.9万人、ドンムアンが同+12.9%の573.0万人、プーケットが同+13.9%の372.0万人、チェンマイが同+11.1%の187.9万人、チェンライが同+5.7%の36.8万人、ハートヤイが同+10.0%の54.1万人だった。また、タイ国政府観光庁(TAT)は高額消費者を対象とした観光促進戦略を発表。同戦略では、さまざまなイベントやスポーツ大会の開催により、ユニークで充実した体験の提供を目指す。。

    ・・・・

    運輸大臣のスリヤ氏は2月19日、MRTピンクラインの支線(Si Rat〜IMPACT間)が5月下旬に試運転を、6月下旬に無料乗車を開始予定と発表した。7月19日の正式開通以降の運賃は15〜22バーツ。支線の1駅目のImpact Muang Thong Thani駅では展示会場「インパクト・チャレンジャー・ホール」と直結するスカイウォークも建設されている。

    SBCS Co., Ltd.
    Executive Vice President and Advisor

    長谷場 純一郎 氏

    奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。

    SBCS Co., Ltd

    Mail : [email protected]
    URL : www.sbcs.co.th
    SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

    Website : https://www.sbcs.co.th/

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